第14話 幻のランウェイは永遠に

「クラウザ!」

〝ドバンッ!〟

 ギリーが呪文を唱えると、開いていた扉が勝手に閉まった。廊下に取り残された骸骨が扉を押し開けようとするが、ギリーの魔法が効いている。

「今のも警備員なの?! ちょっとブラン大丈夫っ!?」

 ブランは剣を床に突いて立ち上がった。

「ギリー、見たか今の……」

「うん、あの盾の紋章は、王宮騎士団のだよね……」

「騎士団? って全滅したんじゃなかったの?」

「はい……今のは全滅した王宮騎士の死体です……ああなるとボーンナイトとかデスナイトって呼ばれますけど……悪霊に取り憑かれた不死身の操り人形で、人を襲います」

〝ガンッ!〟

 王宮騎士の死体が剣で扉をこじ開けようとしている。

「ギリーちゃんの魔法とブランの剣で倒せないの? 動く骨にしか見えないんだけど」

「徳の高い僧侶ならはらえるかもしれませんけど、魔道士の私では無理です」

〝ガンッ!〟

「さっきの見ただろ? 腐って骨だけになっても強さは王宮騎士のままなんだ……たぶんボーンナイトになった騎士団全員が城の中を守ってるんだ……」

「もう逃げられませんっ! この扉も破られて……」

〝ガガンッ!〟

 床にへたり込んだギリーの頬から涙がこぼれ落ちた。

〝ガガンッ!〟

 剣を手に持つブランの肩が震えている。

〝ガガンッ!〟

 するとそのとき、今にも壊れそうな扉が輝きだした。

〝バチンッ!〟

 ボーンナイトが扉に切りつけた剣が光に弾かれて床に突き刺さった。

「これって……」

 蜃気楼のように揺れる扉に、ミユは見覚えがあった。

「まさか……」

〝ガチャッ!〟

「ミユーーっ! 可愛いだろーーーっ!」

「可愛いフリルでアレンジしましたっ!」

 セーラー服を着た二人の女の子が光る扉から飛び出した。

「ディー……リノン……」

 笑顔で手を振る二人のエルフが月光のランウェイを颯爽さっそうと駆け抜ける。

「ミユの本を読んで作ったんだぞーーっ!」

 フリルの付いた短いスカートが宙を舞う。ディーとリノンが踊るようにステップを踏むと、ミユの時間が永遠に止まった。

「きゃああああーーーっっっ! ディーーッッッ! リノンーーッッッ!」

 光があふれるガールズステージ。月を背負った二人の女の子が立ち止まり、腰に手を当てウィンクをすると世界は征服された。

「きゃああああーーーーっっっ! 可愛いいいいいいいーーーーーーっっっ!」

 軽やかにUターンを決める二人。色違いのリボンで飾られた長い髪が美しい曲線を描くと、月の光を反射した。

「きゃあああああああああああああああああああああっっっっっっっ!」

 キラキラと輝く夢が手を振りながら、ミユの前を通り過ぎていく。

「可愛いいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーーーーーっっっ!」

 ディーとリノンが扉に戻ると、一瞬の尊いイベントは幕を閉じた。

「ミユーーっ! それではご機嫌よーーーっ!」

「さようならミユさーーーーーーんっ!」

「もうっ、最高おおおおおーーーーっっっっっ!」

 ミユが力一杯手を振り歓声をあげると、光る扉は消えてしまった。

「あの……ミユさん、今のは……」

「エルフ……だったよな……」

 ギリーとブランはなんとか正気を取り戻した。

「ディーとリノンよっ! ほらっ、私が知識をあげる代わりに助けてもらった。あっ、スマホで撮影すればよかった!」

「私たちも……今の扉に入ってたら……」

「俺たち、逃げられたんじゃないのか……」

〝ガガンッ!〟

 ボーンナイトがまた頑張り始めた。

「えーっとほら……まだお宝を手に入れてないしね!」

〝ガガンッ!

「えぐ……えぐ……お願い……出て来て……」

「ちきしょー出てこいエルフ……」

 泣きじゃくるギリーと血眼のブランがいくら扉にすがり付こうとも、セーラー服を着たエルフは二度と現れることはなかった。

〝ガガンッ! バキバキンッ!〟

 ついにボーンナイトが扉を破った。

《こっちゃ来い……》

 誰かの声が辺りに響くと、部屋の隅に隠された小さな扉が音もなく開いた。

「二人ともこっちよ!」

 ミユがギリーとブランの手を取って走り、薄暗い部屋に飛び込むと、床に転がった水晶玉に炎が浮かび明るくなった。

「クラウザ!」

〝バタンッ!〟

 ギリーが魔法で扉を固く閉めた。しかし、それは同時に逃げ道を塞いだことと同じだった。

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