第13話 月夜のバルコニー
太陽が沈むと、再び闇コウモリが現れて城の空を警戒し始めた。
尖塔の中で夜を待っていた三人は、錆びた鉄格子をこじ開けると螺旋の階段を降りていった。
「ミユさん、やっぱり私まだ心の準備が……」
「朝まで待った方がいいんじゃないか?」
「二人とも諦めが悪いわねー、ここにいたらそのうちコウモリに見つかるわよ」
「でもミユさんの計画って……」
「計画とは言わないからな〝城に入って出るだけ〟ってのは」
「出るだけじゃダメよ、お宝をもらわないとねっ」
階段を降りたところで、今度は鉄の扉に
「ギリーちゃん、何か便利な魔法ない?」
「ありますけど…………バーゼム!」
〝ガッチン!〟
鍵が開いた。
「ギリーちゃんて本当に便利よね」
「あんまり嬉しくないです……」
〝ギギッ!〟
ミユが重い鉄の扉を押すと、きしむ音がして少し開いた。
「大丈夫よ、私たちは泥棒じゃないんだし、何とかの魔女を倒しに来たわけでもないんだから」
「荊の魔女です……」
「王宮騎士団を全滅させた魔女な……」
ギリーとブランは自らに死の宣告をしたような気がした。
「先頭はミユだぞ……」
「望むところよっ」
「私吐きそうなんだけど……」
〝ギッ!ギギギギッ!〟
ミユが鉄の扉を大きく開けた。
「誰もいないみたいね」
ミユがのぞくその広い部屋は、大きな窓のカーテンの隙間から月の光が漏れていた。窓の外はバルコニーになっているらしい。
「お城って何かと豪華よねー、ここはなんて言うの? 客間かな?」
天井には大きなシャンデリアがぶら下がり、部屋の中央には豪華な装飾が施されたテーブルと椅子が置いてある。壁にしつらえてある暖炉は鉄の柵で囲ってあり、今は使っていないようだ。大きな両開きの扉はおそらく、長い廊下にでも続いているのだろう。
ミユは部屋に入ると、長いカーテンを引っぱって開けた。
「……ねえ、綺麗よ……」
バルコニーには月の光で輝く庭園が広がっていた。
「静かだし、コウモリもいないみたい」
ミユは大きな窓を開けて庭園に出ると、満月に見とれた。
ギリーとブランは恐る恐る部屋に入り、とりあえず危険が無いことを確認すると、ミユがいるバルコニーの庭園に足を踏み入れた。
「本当だな、闇コウモリの羽音が聞こえないな」
ブランは剣を鞘に収めた。
「きっと綺麗な景色の邪魔をしないようになってるんだよ」
ギリーは安心したのか、嬉しそうに庭園を歩いて回った。あまり手入れはされていないようだったが、自然で調和が取れた美しい風景に癒されるようだった。
〝カランッ〟
しかし、ギリーは現実を目にして杖を落とした。
「どうしたの?」
「どうしたギリー」
ギリーはバルコニーの柵にもたれかかったまま、体が固まったように動こうとしない。ミユとブランが駆け寄ると、ギリーは表情を強張らせて中庭を見下ろしていた。
「ここは荊の魔女の城なんだよね……」
バルコニーから見える広い中庭には、大きな棍棒を担いだひとつ目の巨人が歩いていた。
「サ、ササ、サイクロプスだ……初めて見た……」
ブランが呆然としている。
「なんか街にいたやつより大っきくない?」
「ミユさん……あのゴーレムなんかオモチャですよ……サイクロプスは力も強いし、自分の脳で考えて行動するから厄介なんです……おばあちゃんが言ってました……」
「えーっと、つまりあれね、めっちゃめんどくさい警備員ってことね。どうせ城の周りに何匹もいるんでしょっ」
「俺たちのせいで警戒が厳しくなったみたいだな、サンダードラゴンが散々雷を落としてくれたからな……」
「それじゃさっさとお宝を見つけてさ、夜のうちにここを脱出するしかないんじゃないの? サイクロプスに見つからないように!」
「そうだな……月の光を避ければ何とかなるか……お宝は知らんけど」
「そうだよね……ミユさんの幸運に賭けるしかないかっ」
三人は決意を新たにすると、バルコニーの美しい風景を忘れて、廊下に続く扉の前に立った。ギリーは強く握った杖に明かりを灯し、ブランは剣を抜いて構えている。そして、ミユは扉の取っ手を強く
「それじゃあ行くわよ!」
ミユが勢いよく扉を開けると、赤い絨毯が敷かれた廊下に骸骨が立っていた。大きな剣と盾を持ち、深く
「趣味悪いわねー……理科室の標本の方がよっぽどマシなんだけど」
「ミ、ミ、ミユさん……」
「逃げろ!」
〝ガキンッッ!〟
骸骨の振り下ろした鋭い剣の一撃をなんとか剣で受け流したものの、ブランは体ごと弾き飛ばされてしまった。
〔第13話 月夜のバルコニー 終〕
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