第12話 城下町は騒がしく

「ギリーっ、もっと風船を膨らませてくれ! 高度を上げないとダメだ!」

「これ以上は破裂するよ!」

「ギリーちゃんやって! あれっ、何だろうっ? 何か来るっ!」

 遠くの空に黒い雲が現れたかと思うと、バタバタと音がして鳥の巣が急に暗くなった。よく見ると、風船に何かがしがみついている。

「闇コウモリだ!」

 ブランは剣を振り回して闇コウモリを引き剥がそうとするが、風船に当てるわけにはいかない。

〝パンッ!〟

〝パパンッ!〟

 取り付いた闇コウモリが風船に噛みついて数を減らすと、鳥の巣は次第に空を降りていった。ゴーレムがまた壁を拾っている。

「ちょっとマジやばいんだけど……」

 するとその時、雷のような轟音が空を切り裂いた。

「ギシャアアァァアアァァーーーーーーーーーーッッッ!」

 驚いたゴーレムは壁を投げ捨てて、崩れた建物の影に隠れた。闇コウモリが一斉に逃げると、鳥の巣は急に明るくなった。

「何よー今のうるさいのは……」

「ミユさん、後ろです……」

「助かったわけじゃないぞ……」

「ギャギャアアアアアァァーーーーーーーーーーーーーーンンンンッッッ!」

 大きな翼を広げたドラゴンが空を舞っている。ミユたちは耳を押さえて鳥の巣の中に身を伏せた。

「まーたドラゴンなのっ!?」

「しっ、ミユ、静かにしろ……動くなよ……」

「あの黄色と黒の縞模様は……たぶんサンダードラゴンです……」

「ギャアァアッアアアーーーッッジャシャアアアアアーーーーーンンッッ!」

 空が光った。

〝ドーーーーーーーーンンンンッッッッ!〟

 街の外に雷が落ちた。

「ギシャアアアアアーーーーーーーンッ!」

〝ドドドーーーーーーンンンンッッッ!!〟

 次に街の中に雷が落ちると、ミユが叫んだ。

「嫌な予感がするんだけどっ!」

「俺もだよっ……」

「あうあうあうっ……」

「ギシャアアアアーーーーーーーンッ!」

〝ドドドンッッ! ガララララララッッッッッ!!〟

 鳥の巣の周りが真っ白に輝く。真下の崩れた建物がさらに粉々になった。サンダードラゴンは大きく羽ばたくと、しぶとく漂う鳥の巣の真横を飛び、まるで笑うかのように大きく口を開いた。どうやら次の一撃で最後にする気らしい。

「一か八かっ!」

 ミユは風船をつかむと蔓から外した。

「ギシャアアーーーーーーーンッ!」

〝ドガーーーーーーーンッッッッ!〟

 ミユが投げた風船に雷が落ちた。空は激しく光り、あまりの轟音にミユたちは耳を押さえたが、鳥の巣はちょっと揺れただけで相変わらず空を漂っている。

「ミユさん!」

「ミユっ!」

 ミユに続いてギリーとブランも風船を外して空に投げ始めた。

「ギシャアアーーーンッ!」

〝ドガーーーーーーーンッッッッ!〟

「ギシャアアーーーンッ!」

〝ドガーーーーーーーンッッッッ!〟

「ギシャアアーーーンッ!」

〝ドガーーーーーーーンッッッッ!〟

 いくら雷を落としても的を外し続けるサンダードラゴンは、ついに怒り狂ったのか空高く舞い上がり、雲の中に消えてしまった。

「助かったのっ?!」

 ミユが喜んだのも束の間、風船を失い急降下をしていた鳥の巣は、いつの間にか巨大な城の壁に迫り衝突寸前であった。

「つかまれ!」

「ギリーちゃん何とかして!」

「あうーーーっっ!」

 次の瞬間、天空からサンダードラゴンが一直線に降下した。

「ギシャアアァァアアアアアアアアアァァーーーーーーッッッ!!!」

 サンダードラゴンは大きな爪で鳥の巣を引き裂いた。

「ギャシャアアアァァアアーーーーーーーーーーンッッッ!」

〝ガラガラッッ! ドドーーーーーーーンッ!!〟

 バラバラに崩れ落ちる鳥の巣に、ようやくとどめの一撃を当てて満足したのか、サンダードラゴンは遠くの空に姿を消した。


 静寂に包まれる魔女の城。夕日で赤く染まるその屋根に、人影が動いた。

「危なかったわねーーっ!」

 尖塔の裏から、ミユとギリー、そしてブランが顔をのぞかせた。

「やっぱりミユさんは幸運ですねー!」

「俺、まだ耳がぼわんぼわんしてるんだけど……」

 三人は、鳥の巣が崩れる寸前に城の屋根に飛び移り、隠れていたのだった。

「ところでさー、お城って金銀財宝がたくさんあるのよね? 少しぐらいはお土産にもらってもいいよね?」

「ちょっとミユさん、さっき頭をどこかにぶつけませんでしたか?」

「いつも幸せそうだなミユは……」


                   〔第12話 城下町は騒がしく 終〕

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