第11話 迷子の空
ギリーが追加で膨らませた風船カズラの実によって、さらに高度を上げた鳥の巣は、強い風に吹かれるとついに森の上空から平原に流れることができた。
「ねえっ、どこまで行ったらお宝があるの?」
ミユの水没したスマホは奇跡的に復活したものの、空からの風景を写真に撮るのはそろそろ飽きていた。
「ずーっと圏外だからマップも使えないし……二人はここがどの辺りか知ってるの?」
「……ブラン……?」
「……ギリー……?」
「あーーやっぱり迷子なんだ私たち……」
するとギリーは思い出したように、鞄から地図を取り出した。
「えーーっと……太陽があそこだから……私たちは北に向かってるんだよね」
「そうだな……あの山が北だな」
「北でも上でもいいけどさ、この辺りは安全みたいだから降りてもいいんじゃないの? この赤い風船を一つずつ割ればいいのよね?」
「いや、どうせこの辺りに宝なんてないぞ、単なる平原なんだからな。それよりも一度どこかの街に戻って、態勢を整えた方がいいな」
「私もブランに賛成です。この地図だと一番近い街は……北の山の向こうに城下町があるみたい、ほら、バツ印がついてるとこだよ」
「ここで降りたら、歩いて行くのは無理だな」
「つまり振り出しに戻るってことね……あーあ……」
三人を乗せた鳥の巣は、北の山に向かって吹く風に乗ったまま、さらに速度を上げた。しかし、ギリーとブランは何か大切なことを忘れていた。
「あっ、お城が見える! あそこにお姫様がいるのよねっ!」
鳥の巣が山の頂を越えると、ミユは目を輝かせた。城のそばには街が広がり、湖が光を反射している。
「あのなーミユ、変な期待を膨らませてるとこ悪いけどな、城に用事はないぞ」
「そうですよー、城下町にはギルドの登録証があるから入れますけど、お城は絶対にムリですからね」
「でも、この高さのままで飛んで行ったら、チラッとでもお姫様見れない? めっちゃ綺麗な長い髪してて小さい顔で、天使みたいに可愛いドレス着てるんだろうなー……」
〝パンッ!〟
ブランが剣の先で風船カズラの実を割った。
「えっ、何するの!?」
「今から街の外に降りるんだ」
「いくらミユさんが幸運でも、このまま行ったら城の衛士に見つかって撃ち落とされますからね」
「二人とも夢がないわねー、まだ若いんだからさー……」
鳥の巣がゆっくり高度を下げていくと、街の建物の様子がはっきりと見えてきた。
「ねえ、二人はこの街に来たことがあるの? なんかあそこで動いてるけど、アレは何?」
街の中心を通る大きな道を、人の形をした石の塊が歩いていた。
「なんかロボットみたいで面白いわねー、誰か乗ってるの?」
ミユはポケットからスマホを取り出すと、動画の撮影を始めた。
〝ピピッ!〟
しかし、スマホに映る街の様子に、ミユは何かおかしなものを感じた。
「人がどこにもいないじゃない……噴水は枯れてるし、建物なんかボロボロ……街っていうより廃墟……あれ? 二人ともどうかしたの?」
ギリーとブランの顔が青い。
「私、大切なこと忘れてた……」
「俺もだ……」
ギリーが残っている風船に魔力を吹き込むと、鳥の巣は上昇を始めた。
「降りないの?」
「ミユさん……あの歩いている石の人形はゴーレムと言って……魔法で造られた怪物です……」
「……この街はとっくの昔に滅びてるんだよ、魔物に襲われてな……」
「それじゃ、あのお城には王様もお姫様もいないの!?」
「それどころか魔女がいるんです……〝荊の魔女〟が……」
「ハイミ=テニラのギルドで話しただろ、暗黒の魔女、死喰いの魔女だ……」
ミユは掲示されていた古い依頼書を思いだした。
『ミユさんは〝荊の魔女〟って聞いたことないですか? それは討伐の依頼ですけど絶対に無理です。大昔にこの国の王宮騎士団が全滅しましたよ』
『荊の魔女?』
『暗黒の魔女とか、死喰いの魔女とか言われてるけどな、出会ったら最期だってよ』
『北の山を超えた辺りに大きな城があるんですけど、大昔からそこに住んでて、噂では魔界の王と契約したとかで、不死の力があるそうです』
「そういえばそんなこと言ってたっけ……」
「ミユさんの幸運もたぶんここまでです……」
「他にもたくさん魔物がいるはずだぞ……」
「それならさー、このまま城の上を飛んで行けばいいってことね! 本当に二人とも心配性なんだから……あれ? あのゴーレムロボットは何やってるの?」
ゴーレムは崩れた建物の壁を拾い上げると、空を漂う鳥の巣を狙って投げた。
「グラチェス! ブーレット!」
〝ドドンッッ!〟
ギリーが放った氷の弾は飛んできた壁を見事に砕いたものの、飛び散った壁の破片は鳥の巣に当たりミユたちを大きく揺らした。
「キャアァーーッ! ちょっとやばいんじゃないのこれ!!」
「ちょっとじゃないですっっ!」
〔第11話 迷子の空 終〕
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