第15話 赤い部屋

「おいミユ、置いてある物に勝手に触るなよ……」

 ほこりがかぶった石のテーブルに無数の赤いロウソクが立てられている。割れた皿には干からびた動物の首。黒く薄汚れたガラスの器には、もしかしたらこの動物の生き血を入れたのかもしれない。

「本当に悪趣味よねー」

「これ……たぶん誰かを呪ったんです、黒魔法で……」

 魔法陣が描かれた紙の上には、銀の糸を巻きつけた人形が置かれている。何故なぜかミユは、その糸に自分がからめ取られているような気がした。

「それにしても、これじゃ落ち着かないわ」

 水晶玉の炎で赤く揺れる部屋には窓もなく、唯一の飾りといえば、壁に掛けられた一枚の大きな肖像画ぐらいのものだ。

「ミユさんに似てますね、この人」

「ホントだな……雰囲気がミユと一緒だな」

 その絵には、真っ赤なドレスを着て椅子に座った若い女性が描かれていた。

「私ってこんな感じなの? まあ確かに綺麗よねこの人は、ほっほっほっ……」

 と言ってにやけるミユであったが、その絵のモデルには見覚えがあった。

 しかし最大の問題は、部屋の中央に豪華な天蓋てんがい付きのベッドがあることだった。赤いレースのカーテン越しに中が透けている。

「ねえブラン……やっぱりこの部屋って……」

 消え入るようなギリーの声が、全てを物語っていた。

「だろうな……っておいミユっ、何をする気だっ」

 真っ赤なカーテンをつかんだミユの手を、ブランが止めた。

「だってせっかく呼ばれたのに、お宝を分けてもらわないと帰れないでしょっ」

「帰るって、ミユさんどうやって……」

「荊の魔女に聞くのよ!」

 ミユはカーテンを一気に開いた。

「!」

「!」

「!」

 大きなベッドの上に、赤いドレスを着たミイラが横たわっていた。

「これが荊の魔女なのっ?! 皮と骨だけでもう死んでるじゃないっ……」

 ミユは肩を落としてベッドに座った。

「これじゃお宝のある場所も聞けないわ…………骸骨がいるし、城の中を好きなだけ探すわけにもいかないし……」

「でも命は助かったんですよっ! やっぱりミユさんは運がいいんです!」

「そうだぞミユっ、本当だったら今頃は……」

「待っていたぞ、星の影なき者よ」

 しゃがれた声に振り向いたミユの目の前に、ミイラの顔があった。

〝ゲシッ!〟

 驚いたミユが勢いでストレートを放つと、ミイラの首が宙を飛んだ。

「生きてたのっ!?」

「な、何すんだミユっ……」

「あうあうあうっ……」

 ギリーとブランは腰を抜かした。

「おーい……誰か拾ってくれんか…………おーい……」

 床に転がったミイラの首が泣きそうに訴えた。ベッドに残された体がモゾモゾと動いている。

「本っ当に悪趣味よねーっ!」


                       〔第15話 赤い部屋 終〕

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