第30話 お味はいかが?

 レストラン・カッファーニの扉を開けると、オーナーであるカッファーニ氏をはじめ、店長やスタッフの全員が並んでミユたちを出迎えた。

「ようこそディー様、本日は六名様ですね」

 ウェイターのビッツが珍しく緊張している。

「久しいなミスタービッツ。どうした、ツノが硬そうだぞ」

「それはもう、メイナグでの皆様のお噂は届いておりますので。レッドドラゴンの討伐だけではなく、あの夜影の*を使役したとか……ギルド界隈が騒がしくなっております」

「ネハリのオヤジだな、アレも口が緩くなったな」


 メイナグの砂漠に呼ばれたネハリ商会のネハリ氏は、ギリーが氷漬けにしたレッドドラゴンを一目見て声を上げた。

『こーれはまた見事なレッドドラゴンですなー……しかし全身黒ブチとは……よほど魔力を溜め込んどったんですな……』

 貴重なジビエ肉に変わったレッドドラゴンの買取り依頼を、ディーが〝折り紙鳥〟に記してネハリ商会に飛ばしたのである。

『首も綺麗に落ちとるしな、早いうちに足首も切ったで血抜きは済んどる』

『いつも手際がよろしいですな。それでは、捕獲・受入個体記録表を発行いたしますので……捕獲獣種はレッドドラゴンの雄、状態として全身黒ブチ、推定年齢は百二十から百四十年齢といったところですかな。それと、捕獲者指名、捕獲日、捕獲場所、捕獲した時の状況をできるだけ詳しくお願いします』

『捕獲者はそこにおる、マクラギ・ミユだ』

『えっ、私っ? でもトドメを刺したのは……』

『ミユが夜影の神を使役して仕留めたのであろうが』

『ほほう、それはまた大胆ですな』

『ついさっきここで捕獲したでまだ新鮮だ。買取りの見積りはどれぐらいになるかな』

『そうですな……黒ブチでなければ特級品でしたが、残念ながら魔力で肉が硬くなっておりますので……』

『やはり質が落ちるか』

『はい、腕のいい料理人であれば、レッドドラゴンが……レッドヘビ、いやワニぐらいにはなるやもしれません……』

『やはり買取り価格も落ちるか』

『はい、そこの首のように……』


「ネハリから例の肉が届いとると思うが」

「はい、本日はそれを使ってのコースのご予約ですね」

「私は野菜多めで」

 ミユが手を上げた。

「かしこまりました、それでは皆様こちらへ」

「本当にアレ食べるの?」

 ユリカは味よりも毒にならないかを心配していた。

「私は黒ブチなんて初めてで楽しみですっ」

 リノンの髪にはしっかりと白い花が飾られていた。

「お嬢様、杖をお預かりいたします」

 ウェイトレスがピンク色の尻尾を振って微笑んだ。

「あ、はい……」

「お坊ちゃま、剣はこちらでお預かりいたします」

「あ、はい……」

 ギリーとブランは初めてのレストランで緊張していた。

「せっかく討伐したでな、金にはならんかったが、幾らかでも美味しく頂くとしよう」

 しかしネハリ氏の言う通り、いくらカッファーニのシェフの腕が良くても、黒ブチのレッドドラゴンの肉は罰ゲーム用の珍味にしかならなかった。あえて例えるならば、デミグラスソースのかかった石炭だろうか。

「美味しいっっっ!」

 ただし、グルメなスキルを持つギリーにとっては大変なご馳走であり、みんなの分も合わせて完食した。

「ちょっと気になってるんだけど……」

 ミユは、口直しのデザートに運ばれたブラッドリーアイスクリームを食べる手を止めた。


                    〔第30話 お味はいかが? 終〕

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