第28話 冷たい視線
「ギュゴゴゴオオオッォオッッッゴゴオッォッーーーーーンッッッッ!」
レッドドラゴンが口から白い霧を吹き出している。
「あーーいかんな、吸収しすぎた陽の光を吐き出しよるで。ああなるともう止められん。この辺り一体は燃えてなくなるで……」
「みんな逃げてっ 私が囮になるからっ!」
ミユはギリーの本を片手に、馬車を飛び降りて走り出した。
「私は死なないからっ!」
「な、何言いよるでミユっ!」
白い霧が渦を巻いて、捩れた黒いツノに集まっていく。
「グラチェスッ! ブーレット! ブーレット!! ブーレット!!!」
ミユはレッドドラゴンに向けて氷の弾を放った。
「ギュアアアァァンッッッ!!!」
レッドドラゴンが炎を吐いて氷を弾くと、渦巻く霧が燃えるように爆発した。
〝ドドン! ドドドドドドドドドンッッッッッッッッ!〟
「ヤッホホーーーイッッッ!」
しかしミユは、炎の中で走り続けた。長い髪とセーラー服がたなびくその姿は、まるで可愛い炎の妖精が火の海で遊んでいるようだった。
「ちょっとミユっ、あの子一体……」
「ミユさん、本当に不死身になってたんだ!」
「あいつはどんな時でも楽しそうだなー」
「リノンっ、とりあえず馬車を出しとくれ、ここを離れるっ」
「は、はい、お館様……」
「ギリーよ、今、ミユは不死身と言うたが、何か知っとるのかや?」
さすがのディーも、自分の目を疑っている。
「実は、私とブランとミユさんで……」
「何かいい方法ないかなー……」
ミユは炎が渦巻く中で、ギリーの本を開いてページをめくった。しかし、今まで散々目を通して調べているのだ。レッドドラゴンを倒すのに役立ちそうな情報など見つかりそうになかった。そして冷静に考えると、このまま倒すことができずに追い払うこともできなければ、ミユの寿命が尽きるまで鬼ごっこを続けるしかない。もちろん、踏まれても死ぬことはないだろうから、疲れたら歩いても眠っても構わないだろう。あるいはいつか、レッドドラゴンがミユの死を諦めてくれる日が来るのだろうか。これではさすがのミユも心配になってきた。
「やっぱりアレしかないのかなー……確かこの辺だったはずだけど……」
ミユは月の光が大地に
「さっさと出てきなさいよっ! ずっとのぞいてたんでしょっ!?」
レッドドラゴンのツノが折れたその時から、ミユは冷たい視線をずっと感じていたのだ。
〝……待っていたぞ……ミユ……〟
深い穴の淵で、緑色のヘドロが動いている。
〝契約を……ミユ……〟
「いいわ! あのレッドドラゴンを倒してくれたら契約するっ!」
〝……倒す……とは……殺す……ということか……〟
「もちろん!」
レッドドラゴンの口から、また白い霧が吹き出している。
「あのレッドドラゴンを殺して!」
〝パチンッ〟
「キュゴッ!」
〝ドズンッッ……〟
レッドドラゴンの首が落ちた。
「えっ!?」
首の無いレッドドラゴンの死体から、白い霧と黒い血が吹き出している。炎の海は消えた。
「さすが魔王ね……」
〝ミユ……契約を……〟
「手続きはどうすればいいの?」
〝ミユ……陽を隠せ……月の法が使えるはずだ……〟
「太陽が邪魔なのね……」
〝ミユ……契約を……〟
「……月夜月夜、輝く月夜……」
〔第28話 冷たい視線 終〕
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