第22話 クリームはマシマシで

「アペルタ! 白庭の館!」

 ミユはユリカの部屋を出ると、アパートの裏の何も無い壁に向かい、呪文を唱えた。

「アペルタ!! 白庭の館っ!!」

 しかし、どうやっても光る扉は現れず、ユリカの冷たい視線が心配に変わるだけだった。

「ミユ、回らないお寿司でも食べに行こうか、お姉ちゃんおごるから、ねっ」

「アペルタッ……あ、そういえばあのお屋敷って、泥棒除けの魔法がかかってるんだった……」

「それともうなぎにしようかっ、お姉ちゃん長いこと食べてないのよー」

「アペルタ! ディーっ!」

 すると、ついにアパートの何も無い壁が揺らぎ始め、光る扉が現れた。

「さあお姉ちゃんっ、行くよっ!」

 ミユはユリカの手をつかむと扉に突入した。

〝ガチャッ!〟

「いらっしゃいませーっ、お二人様ですか? お好きなお席にどうぞ~。ただ今イチゴの特盛サービスを実施中でーす!」

 そこは竹下通りのここのえ農園であった。産地直送のフルーツを使ったパフェがとっっても美味しい、とはミユの評である。

「……ミユ……あんた今何やったの……」

「あれやっ、ミユではないか! 久しいなっ」

「ミユさーん! こっちですよーーっ」

 セーラー服を着たディーとリノンが、テーブル席に座って予約限定チョコーレートフルーツタワーパフェを食べていた。

「二人とも何でここにいるのっ?! あっ、この前とリボンが違うっ」

「さすがだなミユ、気付いたか、可愛いだろ」

「それとリノンっ、それって単なるオシャレメガネでしょっ?」

「鋭いですねーミユさんは」

「ミユ、お姉ちゃんこれからアルバイトに……(何この二人っ、綺麗すぎない?! うちの店に入ったらナンバー1と2、間違いなしじゃないっ……)」

「ところでミユは、魔法が使えるようになったのだな」

「あっミユさんスゴイっ、月の精霊が憑いてますよっ」

 リノンがかけている伊達メガネは、魔力が込められた魔具らしい。

「ほう、月の精霊か……確かどこぞの姫君が背負っとったはずだがな」

「お客様、ご注文はお決まりですか?」

 水を運んできたウエイトレスがミユとユリカに尋ねた。

「これと同じものを二つで」

 ミユが食べかけのチョコーレートフルーツタワーパフェを注文した。

「申し訳ございません、本日の予約分は完売してしまいました」

「ぐくっ……じゃあ私は、森の採れたてフルーツスペシャルにイチゴの特盛サービスを付けてクリームはマシマシで、お茶はアールグレイのホットで」

「さすがだな、ミユには迷いが無いな」

「今のはちょっとした呪文より複雑ですね」

「えっと……私も同じものを」

 ユリカは考えるのをやめた。


                 〔第22話 クリームはマシマシで 終〕

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