第3話

 試験が終わり、通常授業になっていた。体育館では、半面に分かれ、女子がバレーボール、男子はバスケの試合をしていた。


「早紀、お願い」


 晴菜がトスを上げると早紀がスパイクを決めた。ボールがコートを突き抜けていくが、相手コートはガラガラで誰もいなかった。女子は仕切られたネット越しに、バスケの試合に夢中になっている。早紀がネットに駆け寄ると、興奮して晴菜に手招きをした。


「見てよ。宮田を相手に瑛翔さんがすごいよ。互角以上だよ」


 晴菜は早紀の後ろからコートを覗き込んだ。瑛翔がボールを持ち、シュートを放つ。ボールがリングに吸い込まれていく。宮田がクッと表情を変えた。宮田はバスケ部のキャプテンで身長は180近くある。瑛翔より顔の分だけ高い。スラリとした体型は瑛翔より細く見えるが、言い換えれば瑛翔の方が筋肉質だ。すぐさま、ボールが宮田にパスされる。ドリブルで駆け抜けると、瑛翔がブロックする。他の生徒では宮田を止められなかった。にらみ合ったかと思えば、宮田がサッとすり抜けシュートを放ち、得点が入った。ニヤリと笑う。


 スコアボードは、A20ーB18となっている。どうやら瑛翔がBチームのようだ。


 女子の熱く高揚した声援が飛び交う。


「こらーっ、Bチームの男子、瑛翔さんの足引っ張ったら許さないよ」


 こういう時の女子の目は厳しく、そして鋭い。更にご機嫌を損ねさせたときの後が怖いということを、男子はよく知っている。


「Bチーム、頑張ったら今日作るクッキーごちそうするよー」


 料理クラブ所属の女子が声を上げる。どうやら彼女を本命とする男子がBチームにいたようだ。クッキーにつられた男子もいる。俄然、試合は盛り上がった。今度は瑛翔が攻める。宮田ともう1人が瑛翔を囲むと瑛翔は、仲間にパスをする。一瞬できた隙に宮田を突き放し、ボールを受け取りシュートした。同点になった。女子が歓喜する。瑛翔は、軽く手をあげて応えた。晴菜はその様子をただ見守っていた。一緒に応援しようにも目は瑛翔を追っているのに、なぜか声が出せないのだ。瑛翔が誰かを捜しているように目を泳がせる。瞬間、目が合ったように感じた。女子たちの歓声のなか瑛翔が手をあげている。


(まさか、違うよね。あれは声援に応えただけだ。アイドルとはそういう存在なのだろう)


 晴菜はモヤっとした気持ちが冷め、バスケの試合を眺めた。熾烈なシュート合戦は、女子声援によるチームワーク強化の効果もあり、瑛翔に軍配が上がった。

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