第18話 急報、帰還
18.
狼たちを撃滅した僕たちは、各々武器を収めて集まる。
驚いた様子のアンリが僕に話しかける。
「――テイル、ほんとに凄く強くなってる。私、正直自分の力には自信あったんだけど、燐気を使ったテイルには追い抜かれてるかも」
「動きも前より無駄がなくなって研ぎ澄まされてる……!」
「あとあと、魔法もすごいよ! 発動まですごくスムーズで威力のロスがなくなってるし、魔力量自体も増えてるもん!」
ウルとリエッタからも褒められる。正直、照れくさいほどの褒め殺しだ。
「竜なんて倒してるんだから当たり前だけど、テイル、もう私たちより強くなっちゃったんだね……」
アンリはそう言うと、どこか彼女には珍しい表情を浮かべる。まるで何か重荷がなくなったような、ほっとした顔だ。
どうしたのかと気になっていると、また横合いから声を掛けられる。
「テイルさん、ほんとに凄かったです! あんな魔物を一人でやっちゃうなんて……俺、離れててもちょっと怖いくらいだったのに……!」
「私たちじゃよく分からないくらいレベルが高くて、高位の冒険者って感じで! まだまだ遠いけど、これからの目標ができたっていうか……!」
「ちょっとはいいところ見せられたかな」
ベルとリンの無邪気な様子に、僕は笑みを浮かべる。
また二人はアンリ、ウル、リエッタの三人にも言及し、僕たち全員を褒めちぎる。みんな満更でもない様子で、二人の称賛を受け取った。
それから、戦闘中の動きの意図や目にした技術についてに会話が移行するのを聞きながら、僕は先ほどの狼たちを思い返す。
戦って分かったが、やはりあの狼は全てが谷底で見たのと同じ、通常より強い魔物たちであった。
これまであの谷以外では見たことがなく、そんな魔物が出現するという話も聞いたことがない。そもそもこの森には狼系の魔物が出現しないはずなので、やはり谷からやってきたと考えるのが自然だろう。
――しかしそうすると、問題はなぜ今になって出てきたかということだ。
僕は考える。タイミングとしては僕が谷を出てからすぐのため、なにか関係があるのか。同じ場所に居座っていた地竜を僕が倒したため、そこから他の魔物が通れるようになって谷を出てきた――?
だが、その考えにも少し違和感がある。これは何か根拠があるわけではないが、あそこの魔物たちは谷の中で完全に完結した存在だったように思える。通常より強い力、異常な闘争心――まるであの場所で強力な魔物になるための過程のようで、通れるようになったからといって外に出たがるような気がしない。
しかし、これは完全に僕の勝手な考えであり、実際は地竜が倒されたから封じられていた魔物たちが出てきたのかもしれない。そうだとすれば、これから他にも強力で獰猛な魔物がブレンの周りへ現れることとなる。
早急にギルドへの情報共有が必要かもしれない。
思考を巡らせ冷や汗をかく僕は、にぎやかに会話しているみんなへ街へ帰ろうと告げようとした。その、瞬間であった。
リンへ何かを教えていたウルが言葉を止め、少し気になったような様子で言った。
「――誰かが、こっちに近づいて来てるよ」
「えー、また? ……いや、誰かってことは魔物じゃなくて人か。何人? 様子は分かる?」
「数は一人。様子は……駆け足で急いでるくらいで、別に戦闘中とかじゃなさそう。こっちに気づいてる様子もないから、単に冒険者が森の奥から帰ってきてるだけかも」
ウルの言葉にみんなが見せた反応は様々だ。
冒険者は活動中、基本的に他の冒険者と接触はしない。獲物を横取りされたり、たちの悪い者に襲われたりするリスクを考慮してのことだ。そういったセオリーを考えれば、見知らぬ冒険者と遭遇することに好意的な反応を示す者はいなかった。
しかし、わざわざこちらから逃げるほどのことでもない。
ウルは森の奥の方へ視線を向けると、僕たちに向かって告げた。
「来るよ」
そしてその言葉の通り、木々の間から一人の男が姿を現す。武器や防具を身に着けたその姿から、ウルの予想通り冒険者だと分かる。それに佇まいから判断する限り、それなりにできる冒険者だろう。
そんな彼はかなり必死な表情で、森の外へ向かって急いでいる様子だった。加えて、視界に僕たちを捉えると同時、焦った表情で言った。
「――君たち、早くここから去った方がいい!」
「え?」
「山の方から、無数の魔物が押し寄せて来てる! ――スタンピードだ!」
男の言葉で、この場に一瞬で緊迫した空気が満ちる。
みんなを代表し、アンリが口を開いた。
「それ、確かな情報? 見たの?」
「ああ、俺がこの目で! 数えるのも馬鹿らしいほどの魔物だ! 今はまだ離れてるが、街に向けて進んでいたから、じきにここにもやってくる! それに……あの、恐ろしい魔物も……!」
男の顔に浮かぶ焦燥感に嘘の気配は全くない。そもそも、僕たちに気がつく前からこの慌てようだったようなので、虚言を疑う必要はないだろう。
それに、最後に言った
僕と同じ結論に達したらしいアンリは、僕たちへ視線を向けて頷き合い、そして最後に男へ視線を戻す。
「じゃあ、私たちも急いで離れないとだね。情報ありがとう。すぐギルドにも報告しなきゃ」
「ああ、そのつもりだ!」
手早く状況を把握したアンリは、男から僕たちに視線を移す。
「みんな、聞いてたよね。事態は急を要するみたい。――急いで街に帰るよ……!」
――そうして、僕たちは男とともに駆けだす。目指すはブレン、その冒険者ギルド支部だ。
魔物の大群の急襲――スタンピードが起きたとなれば、非常に深刻な事態である。すぐに街の防備を固め、魔物たちを迎え撃つ準備が必要だ。
それに男の言葉によると、魔物たちは山の方角から来たという。それはつまり、先ほど討伐した狼たちと同じ、谷の魔物たちがやって来たのではないか。もしそうだとすると、このスタンピードの危険度は通常のそれよりさらに跳ね上がる。
僕たちはみな大きな危機感を抱きながら、街への道を急ぐ。
――――この先、さらに予想できない事態が待っていることなど、この時の僕たちはまだ、誰も知る由もないのであった。
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