第27話 ミルト君の特別授業①

 ミルト君を落ち着かせ、トイレを済ませたりなどしたボクは、彼を連れて闘技場に来た。

 そこにはトッシュ先生とラビ先生ことラビリスタ先生が待っていた。


「お、来たか」

「彼は落ち着いたかな?」

「ええ、今は何とか」

「それは良かったよ。 では、お披露目の前に【ファイアボール】をまず習得してみよう」


 ひとまずミルト君が落ち着いた事を報告すると、トッシュ先生から【ファイアボール】を習得してみようと伝え、杖を渡される。

 魔法学校ではこれが基本中の基本なので、時期の違いはあれど誰でも使えるという事だろう。


「上手くやれるんだろうか……」

「大丈夫だよ。 肩の力を抜いて、火の玉を出すというイメージを描いてみて」

「はい……」


 ボクが傍でミルト君をフォローし、アドバイスをする。

 これは昔にお母さんが教えてくれた事だけど、詠唱を口にするのではなく、イメージで描くように脳内で詠唱することが重要だという。

 これは、魔法の準備中に魔力が外に漏れないようにするためらしい。

 詠唱文を口に出して読むと、その口から魔力が漏れ出して、魔物がそれを察知して襲ってくるという。

 その時は、タンカーのスキルも無意味と化すと、お母さんの友人だったタンカーの人も教えてくれた。


 ともかく、彼がボクのアドバイス通りにして実行すると、彼の持つ杖に魔力が集まる。

 ある程度の魔力が集まった所で、ボクが声を掛ける。


「今だよ!!」

「【ファイアボール】!!」


 ミルト君の賭け声と共に杖の先から火の玉が放たれた。

 その火の玉は、闘技場のフェンスにぶつけた。


「うおっ!?」

「ひゃあっ!」


 ぶつかった瞬間、大爆発が発生し爆風による砂埃で思わず目を瞑る。

 それでもミルト君を庇うことは忘れない。


「くっ、【ウィンド】!」


 ラビ先生の放った風属性の初級魔法で、砂埃を払って行く。

 成程、風の初級魔法の【ウィンド】ってこういう使い方もあるんだなぁ……。


「火の玉は普通だったが、その後の爆発がすごかったな」

「はい。 でも、ミルト君もすごいよ。 よくできたね」

「は、はい。 アリスさんのアドバイスのおかげです」


 トッシュ先生が、ミルト君が放ったファイアボールを見て、そう言った。

 ボクがミルト君を労うと、彼はボクのアドバイスのおかげと言った。

 ここまで真っすぐに言われると少し照れちゃうね。


「それにしても当たった後に爆発が起こるとはねぇ」

「威力が純粋に魔力と比例するアリスと違い、何かの特性があるのかもな。 だが、まずはファイアボールを使える事が重要だからな。 制御はその都度やっていけばいいさ」

「そうですね。 制御はボクも一緒にやっていきますよ」

「ああ、アリスも頼むぞ」


 トッシュ先生もそう言ってるし、まずは好感触といったところだね。

 ラビ先生は別の何かに興味をもっていたみたいだけど……。

 まぁ、制御はボク自身にとっても課題だし、ミルト君と一緒にやっていけばいいかな?


「さて、ファイアボールの習得も終わった事だし、次はミルト君が生まれつき使える魔法を見せてもらおうと思うんだけど、何が使えるかな?」


 そして、ラビ先生から魔法のお披露目を持ちかけた。

 ミルト君が生まれつき使える魔法は、ボクも気になってはいる。


「大したものじゃありません。僕が生まれつき使えるのは、【ディテクト】という探知魔法ですから」

「な!? 【ディテクト】だってぇ!?」

「そ、それって……!?」


 ミルト君が生まれつき使える魔法を告げた時、ラビ先生が驚きの声を上げた。

 というか、【ディテクト】って……、高難度ダンジョンをクリアする際に重要な魔法なんだけど……。

 それを無能と断じてミルト君を追放したファガーソン家って……。

 

 そんな事を考えてたボクは、呆れてものが言えなくなっていた。


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