第26話 ミルト君の受けた傷

 朝の間にラビ先生の特別授業を受ける予定だったのが、ラビ先生と対面したら……、というより三人の大人が集まった事で、よりオドオドしだしたミルト君。

 やはり、一緒に風呂に入った時に見た痣が原因かも知れない。

 クレス校長の提案で校長室で新たに分かったミルト君の状態を話す事にした。

 ミルト君はボクとファナの間に座らせ、対面にはクレス校長、トッシュ先生、ラビ先生が席についている。


「ミルト君、これからボクが見た君の状態をみんなに打ち明けるよ。 辛いかも知れないけど、きっと分かってくれると思うから」

「はい……」

「何があってもボクはミルト君の味方であり続けるから……ね?」


 ボクはミルト君の近くに椅子ごと移動し、彼を抱き寄せる。

 少しでも事情を話すだけでも何らかの解決策は見つかるかも知れないが……、ない可能性もありえる。

 それでも抱え込むよりは、打ち明けた方が幾度かはマシだろうと考えていた。


「それで、昨日彼と一緒に住んでて分かった事はあるか?」


 そして、クレス校長がボクにミルト君の様子を聞いて来た。


「まず、彼は売店のパンを涙を流して食べてました。 夜も一人で寝ると悪夢をみるようでして、ボクが一緒に寝る事で落ち着きました」

「むぅ……。 そこだけでも深刻だな……」

「食事もろくに与えなかったとはねぇ……」


 まず、ボクはミルト君の心の状態を話す。

 悪夢を見るほどに一人で眠れず、食事もろくに与えていなかったファガーソンの仕打ちにクレス校長とラビ先生は顔を顰めた。


「次に……、ボクが彼と風呂に入った時です」

「何ですって、一緒にお風呂……!? うらやま……いえ、けしからんですよ!!」

「そこで空気を壊さないでくれるかな、ファナ」


 そして、次の話の途中でファナが空気を壊してくれた。

 確かにカップル寮だからといって、彼とボクが一緒に風呂に入ったのはアレかもだけど……。

 今は、そんな状況じゃないから。


「で、彼の背中を洗おうとした時でした。 背中だけでもかなりの痣があったんです」

「痣だと!?」


 改めて話を戻し、ボクが彼の背中に痣があった事を言うとクレス校長が驚きの声を上げた。

 ファナも流石にこれには驚いて声が出ないようだし、トッシュ先生も同様だ。


「背中だけでも……という事は、腹部とかにもあったという事だね?」

「そうです、ラビ先生。 分かるだけでも腹部や肩、そして両腕にも痣がありました。 おそらく、複数で殴られたんだと思います」

「ファガーソンはそこまでするのか……!」

「酷いですね……」


 あそこまで酷い痣だと、複数で殴ったんじゃないかと推測する。

 予測を聞いただけでもクレス校長とファナの表情は曇っていく。

 ファガーソン家は、初期で攻撃魔法を使えないだけでここまでするのかと……。


「私が巡回時に見つけた時はかなりボロボロだったが、成程な……。 あれは、身内の暴力によるものか」

「ミルト君が大人を怯えているのはソレでしょうね。 自分の主義を成り立たせるためにそこまで徹底するとはね」

「ああ、幸いメディカル担当の先生がいたことで回復魔法で何とかなったが……、痣だけは消えなかったとはな」


 トッシュ先生が巡回中に発見した時のミルト君はボロボロの状態だったらしく、丁度運ばれた際にメディカル担当の先生がいたらしく、回復魔法で何とかなった。

 それでも痣は消える事はなかったようだ。

 そして、ミルト君が大人三人に怯えていたのも複数の身内からの暴力が起因しているのかもしれないと言うのも酷すぎる話だ。


「話してくれてありがとう。 私は国王に今の話を報告しておく。 朝の特別授業はアリス君も同席してやってくれ」

「分かりました」


 話を終えた後で、クレス先生は国王様に報告するようだ。

 ファガーソン家、終わらせるつもりなんだろうね。

 そして、ミルト君の特別授業はボクも同席することになった。

 ファナは、1-A所属なのでこれから授業なのだろう。


「ではトッシュ先生とラビリスタ先生、ミルト君の特別授業をよろしくお願いします」

「分かりました」

「では、準備が終わったら闘技場に来てくれ」

「はい」


 トッシュ先生がそう言いながら、ラビリスタ先生と一緒に校長室を出ていく。

 残ったのはボクとミルト君の二人のみ。


「それじゃあ、落ち着いたら闘技場に行こうか。 ミルト君」

「あ、はい。 アリスさん」


 その後はミルト君を抱きしめ、落ち着かせた所でトイレを済ませてから闘技場に向かった。


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