第20話 少年の事情とアリスの決意

「さて、寮建築の契約キャンセルの件は国王様が部隊を派遣して各建築ギルドにがさ入れしていると報告が来た。 どうも進捗報告がここ最近来ていなかった事も判明したらしいからな」

「という事は……」

「最悪、建築ギルドを一旦解体してから新たに立ち上げ直すかもしれないとおっしゃってたな」


 俯いている男の子をどうにかしてあげたいと思っていた矢先、クレス校長が建築ギルドの件を教えてくれた。

 どうやら建築ギルドがここ最近の進捗報告をしていなかった事も発覚したため、クレス校長のクレームと合わせて各建築ギルドにがさ入れをしているようだ。

 その結果次第で最悪、一旦建築ギルドを解体してから新たに立ち上げ直さないといけないとも言った。

 

「建築ギルドに関しては分かりました。 でも、何でこのタイミングで?」

「この少年を追放した家系についてブラックリストとして資料があったのだが、どうも無能扱いにした者が誰かの保護下に入らないように、かつ居場所を与えさせないようにする為だろう。 あの家系は攻撃魔法を持つ者だけが優遇される家系だからな」

「最悪すぎる……! ならあの男の子は……!」

「多分、その家系が望む攻撃魔法を初期で持たなかったからだろう。 それ故に追放されたのかもしれんな」


 ファナからの疑問にクレス校長が予測するが、その内容が酷すぎた。

 無能扱いにして追放した者が誰かによって居場所を与えられる可能性を恐れて、その芽を潰すためにルールを捻じ曲げてまで仕込んのではと。

 そして、その家系は初期で攻撃魔法を持たない者は無能と言う扱いらしい。

 男の子は、初期で攻撃魔法を持たないから追放され、その子に居場所を与えないように建築のキャンセルを無理やりやらせたのだろう。

 それを聞いて、ボクは【ワルジール魔法学校】での扱いを思いだして、身体を震わせた。


 様々ないじめを受けたあの光景を……。

 特にトイレに行かせてもらえず、みんなの前で失禁させられた事を。


 そんなボクをよそに、ファナとクレス校長は話を続ける。


「お父様はどうするおつもりで?」

「まず、この少年は我が校に入学させたいと思っている。 だが……」

「今建築中の寮……、通称カップル寮は、現在はミーナとジャック、もう一室はアリスが使ってるし、他の寮でも同様だ」

「そんな……! 下手をすれば……」

「野宿になってしまうだろうな。 他の寮に関しても二人部屋が多いから、何とかその部屋を一人で使っている者に声を掛けて同室にしてあげれないか、説得してみるが……」


 クレス校長は、例の男の子はここエトワール魔法学校に入学させたいという。

 しかし、肝心の寮は全部使っている状態で、このままでは彼は野宿になってしまう。

 それを聞いたミーナやジャック君、アンナさんも驚いていた。

 ファナもかなりショックを隠し切れないようだ。

 一応、クレス校長が寮のみんなに部屋を入れさせてもらえないかを説得するつもりなんだろうけど。

 何せ、多くの寮は二人部屋なのだが、一人で使っている所も多いのだから……。


 この男の子が野宿になる可能性……。

 そう頭が過ってしまった事で、ボクの決意は確固たる形になった。


「あの、先生」

「どうした、アリス?」

「アリスさん?」

 

 そこで、ボクは意を決して名乗りを上げた。

 トッシュ先生やクレス校長はもとより、アンナさんやファナ、ミーナやジャック君もこっちを見る。

 そんな中で、ボクは躊躇わずにこう言った。


「彼を今ボクが住んでいる部屋に一緒に住まわせます」

「え……?」


 ボクの宣言に反応したのは、その男の子だった。

 突然の提案にボクの方を見ながら少々驚いている様子だ。


「いいのか、アリス?」

「ええ、程度の違いはあれど、同じ無能扱いされた者として彼を放っておけないんです」

「アリスさん……」

「そうだった。 アリスちゃんは、ワルジール魔法学校で……」


 ボクは初期魔力で無能と判断されてフリスク一派にいじめられ、男の子は生まれつきで攻撃魔法を使えなかった事で家を追いだされた。

 程度としては彼の方が僅かに重い。

 だからこそ、ボクは彼を放って置けないのだ。

 下手をすれば、彼は野垂れ死んでしまうのだから。


「幸い、ボクが入ってる部屋はいわゆる【カップル寮】ですよね。 ミーナちゃんとジャック君が一緒の部屋にいるんだし、その子がボクのいる部屋に入っても問題ないはずですよ」

「ああ、そうだったな。 三番目の寮と並行して【カップル寮】の建築もしていたからな」

「それを差し引いても、ボクはこの男の子を傍で支えてあげたいんです」


 幸い、ボクがいる部屋は【カップル寮】の一室なので、問題はないだろう。

 そうでなくても、ボクの感情は彼を支えてあげたいという意思の方が勝っていたしね。


「あの……、本当にいいんですか?」

「うん。 家を追放されたって聞いて放って置けないんだ。 ボクも程度は違えど前の学校じゃ無能扱いされてた身だしね」

「あ……」


 ボクは男の子の元に近づき、彼と目線が合うように座り、彼の手を優しく添えた。

 彼は少し顔を赤らめていたようだが、そこはお構いなしでいいだろう。


「もう大丈夫。 これからはボクがキミを支えるから」

「うっ、ううぅ……」

「いいんだよ、今は泣いても。 ボクが受け止めるから……」

「うわあぁぁぁぁっ!!」


 男の子は感極まったのか、今まで溜め込んでた枷が外れたのか彼の目から涙が流れた。

 ボクはそんな彼を受け止めるように抱きしめ、そのまま涙を流させた。

 声を上げて泣いていた彼をファナ達も辛そうに見ていた。

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