第19話 校長の怒りの理由と男の子

「今、クレス校長の声が聞こえてたよね?」

「はい。 間違いなくお父様の声が聞こえました。 あと、かすかにですがトッシュ先生の声も」

「クレス校長の方は何か怒ってる感じだったな」

「行ってみようか?」

「うん」


 ボク達はクレス校長たちの声が聞こえたとされる校長室に向かう。

 本来は、行くべきではない場所なのだが、娘のファナが先導して校長室にノックする。


「ファナです。 入りますよ、お父様」


 だが、クレス校長の返事を待たずに校長室のドアを開ける。


「ふ、ファナ……?」

「それにアリスとアンナ、ジャックとミーナもか」

「お父様、何があったのです? 入り口まで声が響いてましたよ? 受付の方もびっくりされてました」

「うぐ……、あそこまで聞こえてたのか……」


 ボク達が入って来た事に驚いていたクレス校長とトッシュ先生。

 特にファナからのクレームにはクレス校長も申し訳なさそうにしていたのだが……。


「あれ、この男の子は……?」

「ああ、私が巡回中に発見したんだよ。 聞いた話じゃある貴族の家系だったらしいのだが、家を追い出されたらしい」

「え……?」


 ボクが男の子の存在が気になり、トッシュ先生に聞いた所、どうもある貴族の家系生まれだったが家を追い出されたらしい。

 それを聞いたボクとアンナさん、そしてファナ達も固まった。


「それだけではなく、校長の名義を使って寮建築がキャンセル、契約の解除の書類が向こうにあったそうだ」

「ええっ!?」


 それだけでなく、建築ギルドがクレス校長の名義で今ボクが住んでいる寮の建設契約をキャンセル扱いされたらしい。

 ファナは、それを聞いてさらに驚きの声を上げた。

 だが、ボクは少し疑問に思った。


「トッシュ先生、建築ギルドとの契約解除って他人が出来るもんなんですか?」

「いや、契約者……この場合はクレス校長本人が立ち会った上でそれ用の書類を提出しない限り、契約解除やキャンセル扱いにはできない」

「じゃあ、何でキャンセル扱いにされたんですか?」

「誰かがお金で無理やり捻じ曲げてクレス校長の名を勝手に使ってキャンセル扱いにしたんだろう」

「もしかして、その男の子を追い出した家系が?」

「可能性としては……な」


 やっぱりそうなるか。

 本来は、契約者当人の立ち合いがあった上で、それ用の書類を提出しない限り、契約解除やキャンセル扱いは不可能なのに、お金でルールを捻じ曲げたらしい。

 それをしたのは、ボクが気になっている男の子を追い出した家系である可能性もあるみたい。


 しかし、どこにでもお金でルールを捻じ曲げようとする輩は居るんだよね。


「今、国王にその事をクレームとして飛ばしたばかりなんだ。 この国に存在している建築ギルドは王族が管理してるからな」


 各町に建築ギルドはあるみたいだけど、ここ【クーデルカ王国】にある建築ギルドは王族が管理しており、各ギルドマスターは進捗状況を王族に報告する義務がある。

 そういえば、魔法学校も魔法学校庁の大臣を経由して王族に報告する義務があったような……?

 それはともかく、クレス校長はそれを今しがた知ったようで、この国の建築ギルドを管理している国王様にクレームを出したようだ。


「あと、追い出された少年をどうするか……だな」

「そうでしたね」


 寮建築のキャンセル扱いの件はひとまず国王様にクレームを入れたクレス校長に任せるとして、トッシュ先生は男の子を見てどうしようかと考えていた。

 この時のボクは、ずっと俯きながら座っている男の子を見て、放って置けなくなっていた。

 何とかしてあげたいと……そう思うようになった。


「ふぅ……。 さっき国王から連絡があったんだが……」


 そこにクレス校長がため息をついて、こっちに向けて話し出した。

 さっきのクレームを入れた事で、何かが分かったのだろうか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る