第14話 王女様はいい人そう
「王女様、でしたか。私が作ったワンピースを着てくれているんですね。光栄です」
ミズキはそう言いながら、今自分が着ているのが、それと同じデザインのワンピースだと思い出す。
王女様とお揃いなんて失礼にならないだろうか、と不安がよぎった。
「こちらこそ! 憧れていた辺境の聖女とお揃いになれて、とても光栄ですわ! どうかミリアンヌとお呼びくださいませ!」
女王ミリアンヌはミズキの手を握り、キラキラした視線を向けてくる。
「あ、憧れてたんですか……」
「はい! ミズキさんを描いた絵を展覧会で見て、一目惚れしましたの! 絶対に買おうと思っていたのに……グラニートバーグ伯爵にオークションで競り負けて悔しかったですわ。けれどこの屋敷に来ればいつでも絵を見られますし、そもそもこの町にミズキさん本人がいますし、嘆く必要はありませんでしたわ」
「まあ……この町って王都から馬車で三日ですから、そんな遠くないですからね」
「ええ、そうなのですわ! ところで、わたくしがミズキさんに会いに来たのは、絵を気に入ったからだけではありませんの」
そしてミズキと向かい合って座り、一緒に紅茶を飲みながら、ミリアンヌは王宮の騒動を語り始めた。
「ミズキさんを召喚する儀式を執り行った第一王子……ブルースお兄様を覚えていますか?」
ミズキは頷く。ムカつく顔だから印象に残った、とはさすがに答えない。
「ふふ。ムカつく顔なので印象に残ったでしょう?」
「あ、はい」
つい頷いてしまった。
「そうでしょう、そうでしょう。ブルースお兄様は、長男だからという理由だけで王位継承権一位。その地位を目当てに色々な人がブルースお兄様に群がり、様々な品を献上していますわ。召喚石もその一つ。自分が手に入れたとか自慢していますが、自分で買ったのでさえありませんわ」
「はあ……」
「それと、いつも自慢している鎧! あれは本来、同盟を結んだドワーフの里が、セドリックお兄様のために作ったものでしたの。それを強引に奪い取って……あんないい鎧を身につけているくせに、モンスター討伐のときはいつも後ろに隠れて! なのに手柄は自分のものにしますの!」
ミリアンヌの愚痴は続く。
第一王子に対して、かなり不満がたまっているらしい。
「……あの。セドリックお兄様、というのは? 名前を聞いたことあるような。確か、この世界に召喚されたとき……ほかの三人の召喚石はブルース王子が手に入れたけど、私を呼び出した召喚石だけは、そのセドリック王子がもってきたとか聞いたような気がします」
「ええ、そうですの! ミズキさんの召喚石は、セドリックお兄様がモンスターの群れを退治しにダンジョンに潜ったときに手に入れたのですわ。それで召喚されたミズキさんがこんなにも有能で、とても嬉しいですわ。なのに、ミズキさんの能力をろくに調べもせずに追放したブルースお兄様……短絡的としか言いようがありませんわ!」
確かに短絡的だった。しかし、そのおかげでミズキは自由を得たので、特に恨んではいない。
「ところで、私以外の三人はどうしてます? 悪い噂ばかり聞こえてきますけど」
「悪いなんてものじゃありませんわ。なんなんですの、あの方々は。強力なスキルを授かったのに、それを伸ばす訓練をまるでしてくれませんのよ。『ウチら最強だしぃ』とか言うばかり! 貴族や騎士の若い殿方に片っ端から声をかけ、最近は『イケオジも味見してみるっしょ』なんて言い出して。お下品ですわ! 若い子に声をかけられたからとホイホイ乗っかるイケオジたちもお下品ですわ!」
「大変そうですね」
「大変ですわ。ですがセドリックお兄様がのし上がるチャンスでもありますわ。もともと能力を疑問視されていたブルースお兄様の評価が更に下がり……いくら第一王子でも王位継承させるわけにはいかないという声が大きくなってきましたの! そうなれば、わたくしの推しであるセドリックお兄様が王位継承権一位に……うふふ」
「へえ」
「まあ、それはそれとして。ミズキさん、王都に帰ってきませんか? 王宮に部屋を用意しますわよ。役職はこれから考えますけど、今より収入はグッと増えますわよ」
「うーん……でも私は今の気ままな生活を気に入ってるんですよ。まあ、あのギャル三人は私以上に気ままにやってるみたいですけど。それで貴族たちから白い目で見られたら、気ままとは言いがたいので。この町に残ります。せっかく誘ってくれたのにごめんなさい」
「いえいえ。なんとなく、そう言われる気がしていましたわ。『辺境の聖女』というタイトルの絵を見た瞬間、この人を王都に呼びたいと思いましたわ。けれど同時に、タイトル通り、辺境で自由に生きてこそ輝くとも思ったのです」
「よく見抜きましたね。根が田舎者なんです」
「うふふ。けれど、そのうち王宮に遊びに来てくださいまし。今は騒がしいですが、いずれ静かにしますから」
静かになります、ではなく『します』が若干怖い。
だがミズキは、この王女様にまた会いたかった。友達になりたいと思った。
「はい。そのときが来たら呼んでください。喜んで馳せ参じます」
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