第2話 初めてのエンチャント

 水紀は乗合馬車に乗って王都を離れた。

 乗合馬車とは大勢が一度に乗れる大きな馬車だ。

 みんなで料金を出し合うから安くなる。

 護衛の冒険者が同乗しているのでモンスターや盗賊に襲われても、一人旅よりは安全だ。

 現に旅の途中、ミズキが乗った馬車は盗賊に襲われたが、二人組の冒険者がそれを倒してくれた。ミズキは人が斬られるのを見るのが初めてだったので、少々驚いた。


 乗客は老若男女がいた。セーラー服の水紀は明らかに浮いていた。しかし詮索しないのが暗黙の了解になっているのか、あまり話しかけられなかった。

 そもそも揺れが酷くて、見知らぬ人とのお喋りを楽しむ気にならない。

 一応、街道は石畳で舗装されているし、座席にはワラが敷き詰められているが、地球のバスや電車とは比べものにならないほど酷い。


 丸三日も乗合馬車に乗った。馬車は更に移動するようだ。

 水紀は背骨が粉砕されそうだったので、そこで旅を終えることにした。

 夜は走らなかったし、日中も幾度か馬を休憩させていたが、それでも王都から百キロ以上は離れたと思う。


 水紀は御者と、護衛の冒険者二人に礼を言う。

 それから干し草を食べる馬に「ここまで運んでくれてありがとうございます」と呟いてから、水紀は停留所を離れる。


 小さな町だった。住宅地より畑のほうが広いだろう。

 ストーンリーフという名前らしい。


 水紀は道行く人に冒険者ギルドの場所を聞いて、そこに向かった。

 学校の図書室にラノベがあったので、異世界ファンタジーの知識が多少はある。

 身分が定かではないよそ者でも冒険者になれるはず。

 この町に冒険者ギルドがあるのは、乗合馬車でほかの客の会話を盗み聞きして把握していた。


 実際にギルドに行くと、想像していたとおり、水紀の服装や年齢に突っ込むことなく、受付嬢は冷静に登録の手続きを進めてくれた。

 登録用紙に名前を書く。この世界の文字でスラスラと書けた。

 立花水紀は今から、ミズキ・タチバナだ。


「最後に確認です。冒険者は危険に身をさらします。モンスターだけでなく、人間と戦う可能性もあります。あなたは人を殺すかもしれません。それでもいいですか?」


「……はい」


 登録手続きが終わると冒険者カードというものを渡された。

 それがあれば、どこの国の冒険者ギルドでも仕事を受けられるという。


「このカードをなくしたらどうなりますか? 再発行してもらえますか?」


「そのカードはあなたの魂と連動しているので、なくすとかそういうものではありません」


 念じるだけで出し入れ自由だと受付嬢は言う。試しにやってみる。本当だった。


 ミズキは早速、スライム討伐の仕事を受け、町の外に向かう。

 スライムは最弱のモンスターというイメージがある。

 この世界でもそうであると受付嬢が教えてくれた。武器さえあれば女の子でも勝てる。その分、倒しても報酬は低いが、放っておくと増殖して畑などを荒らす可能性があるので、スライム討伐の仕事は常にあるらしい。

 ミズキのノルマは二十匹。倒せば自動的に冒険者カードに記録される。実に便利だ。


 指定された森に行き、スライムを倒す。

 歩いていると茂みの中からポンポン出てくる。そして非力なミズキでも剣を振り下ろせば簡単に倒せた。

 スライムを倒すと、半透明な小石が地面に落ちた。妙な力を感じる。おそらく魔力だろう。なんとなく分かる。

 受付嬢からはなにも言われていないが、念のため小石を拾って鞄にいれる。


 あっという間にノルマを達成した。

 ギルドに戻って報酬を受け取る。そして小石を見せる。やはり魔石だった。

 もっと大きな魔石なら買手がつく。だがスライムがドロップする魔石は小さすぎて使い道がない。魔力が弱すぎて、普通の石とさほど変らない。初めてギルドの仕事を成功させた記念に持ち帰ってもいいし、その辺に捨ててもいい。

 受付嬢にそう言われたので、ありがたく持ち帰ることにした。


 ギルド近くの宿に泊まる。

 ミズキは部屋に魔石を並べ、創造スキルを発動させた。

 スライムから入手した二十個の小さな魔石が融合し、大きな魔石になった。

 その大きな魔石と鉄の剣を融合させる。



――――――

鉄の剣に以下の魔法効果をエンチャントしました。

・切れ味強化

・耐久性強化

・魔法切断

――――――



 魔法剣が完成した。

 これがあればスライムより強いモンスターと戦えるかもしれない。

 しかし、いくら武器が強くても、それを使うミズキが素人では話にならない。


 受付嬢に相談すると、冒険者ギルド主催の剣術教室があるらしい。同じように魔法教室もあった。

 ミズキは一ヶ月間、その両方に通って、己を鍛えまくった。

 どちらも筋がいいと褒められた。

 自分には意外な才能があったのだなぁ、と新鮮な驚きを感じる。


 一ヶ月も仕事をしていなかったので、王宮からもらったお金がかなり減ってしまった。

 王宮といえば、あのギャル三人の噂がこの町にも聞こえてきた。

 強力なスキルを持っているのをいいことに、贅沢三昧をしているらしい。正直、評判はかなり悪い。

 だが転移者のスキルは貴重だ。モンスターがはびこる世界では治安維持に大いに役立つ。戦争でも活躍するだろう。

 というわけで王宮は、ギャル三人の要求を泣く泣く呑んでいるらしい。


 ミズキはギャル三人がどこでなにをしようと関係ないと思った。自分の邪魔をしなければ贅沢しようと野垂れ死のうと知ったことではない。


 ミズキは久しぶりにスライム退治の仕事を受ける。

 まずは剣を振り下ろして倒す。前は叩きつけるだけだったが、剣士らしい動きになった。

 続いて魔法。

 ミズキはかなり魔力が高いらしく、簡単な攻撃魔法を初日に使えるようになった。

 炎でスライムを焼き払う。続いて氷漬けにしてみる。


「ノルマ完了しました」


 ギルドに報告して報酬を得る。

 それから魔石を融合させ、セーラー服にエンチャントを施す。



――――――

セーラー服に以下の魔法効果をエンチャントしました。

・耐物理

・耐魔法

――――――



 これで防御力も確保した。

 そろそろスライム以外とも戦ってみようとミズキは思った。

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