戦闘職しか要らないと追放されたので創造スキルで無双します

年中麦茶太郎

第1話 追放されたので創造してみる

 立花水紀は顔を見られるのが嫌だった。

 小さい頃、クラスの男子に「ブス」とからかわれたのがトラウマになった。それ以来、前髪を伸ばして顔を隠すようにしている。

 水紀の渾名は『日本人形』になった。

 中学生二年生の今もそう呼ばれている。


 水紀は今、修学旅行中である。

 同じ班の三人は友達ではない。そもそも水紀に親しい友達など一人もいないのだが、その三人は特に嫌な連中だ。


 班決めのとき水紀は誰からも誘われなかった。

 三人は学校をサボっていたので、やはりどこの班にも入っていない。

 かくして先生の判断で、余った四人で班を作らされた。


 あの三人が修学旅行をサボれば、単独行動ができる。水紀は好都合だと思った。

 ところが、いつも学校をサボっているくせに、三人とも修学旅行には真面目に来てしまった。


「日本人形と同じ班とかウケるんだけど」

「ギャハハハ! こいつマジで暗い!」

「修学旅行の間は友達でいてあげるからさ、友達料ちょうだい」


 三人とも〝平成初期かよ〟という感じのギャルで、その見た目とは裏腹に根は優しい……ということもなく素行不良だった。


 三人を見ていると母親を思い出す。

 水紀は父親の顔を知らない。もしかしたら母親も誰が水紀の父なのか分かっていない可能性がある。水紀の母は夜の店で働き、稼いだ金をホストに貢いでいる。あまり家に帰ってこないし、生活費も本当に最低限しかくれない。

 水紀が持っている服で穴が空いていないのは、学校の制服とジャージだけ。あとは部屋着に辛うじて使えるボロボロのものしかない。


 修学旅行中、同級生たちがきらびやかな私服で楽しそうにしている中、水紀だけが制服だった。貧乏なのは知られているので、誰も理由を聞いてこないのが救いだった。


 水紀は修学旅行のために、少ない生活費をやりくりしてお小遣いを貯めていた。

 それを友達料とかいう意味不明な理由で、三人にとられてしまった。

 班ごとの自由行動の時間、三人がオシャレなスイーツを食べているのを、水紀は後ろから眺めていた。

 しかし、実は予想していた展開の一つだ。こんなこともあろうかと、家で具のないオニギリを作って持ってきていた。それを食べて空腹を満たす。


「ちょ! 日本人形、手作りのオニギリ食べてる。ちょーウケるぅ」

「ギャハハ! お前、手作り好きだもんな。その鞄も手作りだし!」

「お婆ちゃんのパッチワークって感じ。ぷっ」


 鞄は手作りではない。ゴミ捨て場で拾って、穴を塞いだだけだ。

 彼女らは水紀の鞄にタバコを押しつけてきた。


「日本人形って直すのも好きなんでしょ? よかったね。これでまた直せるよ」

「ギャハハ! ウチらマジ優しい!」

「誰かに言いつけたら、あんたの体を灰皿にするからね」


 水紀はとにかく憂鬱だった。早く修学旅行が終わればいいと思ったが、家に帰っても楽しいことが待っているわけでもない。

 いっそ死にたいと思った。

 その瞬間、トラックが歩道に突っ込んできて、四人まとめて潰された。




 水紀たちはヨーロッパ的な建物で目を覚ました。

 貴族のような服を着た人たちや、甲冑を着た兵士たちが周りにいた。


「異世界からの召喚は成功だ! 早速、どんなスキルを持っているか調べよう!」


 貴族風の若い男がそう叫んだ。二十代半ばくらいだろうか。

 彼は状況を説明してくれた。


 ここはマグナリア王国の王宮。そして彼は第一王子、ブルース・マグナリア。

 この世界には異世界召喚石という貴重なアイテムがあるという。それが四つ手に入ったので使用した。

 召喚は失敗することが多い。四つとも成功したのは奇跡だ。

 召喚された者は翻訳スキルを得て、こちらの言葉を自然に話せるようになる。

 それとは別に、個別のスキルも得る。

 そのスキルを国のため役立てて欲しい。

 もとの世界に戻ることはできない。そもそも死者の魂を召喚して受肉させる召喚儀式なので、仮に戻れても幽霊になるだけ。

 一度死んだのにやり直す機会を与えたのだから、むしろ感謝して欲しい――。

 第一王子ブルースはそのようなことを語った。


「ちょ、マジ? ウチら、チートスキルあんの?」

「ギャハハ! 異世界とか召喚とかマンガみたいじゃん!」

「ってか、さすが王宮。イケメン貴族ばっかりじゃん」


 三人は用意された水晶玉に手を添える。

 剣豪。雷術師。ランスマスター。

 光の文字が空中に描かれる。日本語だった。

 この世界の人たちはそれを読めないらしく、辞書のように分厚い本を開いて、意味を確かめていた。


「どれも強力なスキルですぞ! ブルース様が入手した召喚石で呼び出した三人は、どれも当たりのようですな!」


「ふっふっふ。そうだろう。さあ、残るはセドリックの召喚石が呼んだ女……前髪が長すぎて不気味だな……とにかく水晶に触れてみろ」


 水紀が触れると『創造』という文字が現れた。


「なんですかな、この文字は……こんなのスキル辞典に載っていなかったような……」


 辞書を持つその人は、一生懸命ページをめくる。

 しかし答えが見つかる前に、ギャルの三人が声を上げた。


「ソウゾウ! 日本人形にピッタリじゃん。ウチらがたまに学校に行くと、一人で本読んでるもんね。なんかボロボロの本」

「ギャハハ! ずっとマニアックな想像してそう!」

「あの本も手作りだったりすんの?」


 本は手作りではない。図書室で借りたものだ。

 それにしても三人がアホなのは知っていたが、まさか『創造』と『想像』を混同しているとは思わなかった。


「想像ですか。つまり頭の中で色々考えるスキル……吟遊詩人にでもしますか?」


「吟遊詩人だと? 戦闘職しか要らん! この国はいつもモンスターの脅威に晒されている。戦闘に使えんスキル持ちを王宮で養う余裕などない! セドリックが持ってきた召喚石は、実にくだらない奴を呼び出したものだ。せめて見た目がよければ使い道があったのだがな。ふふん……つまみ出せ!」


 というわけで水紀は、王宮から追い出された。

 当面の生活費として、硬貨が入った革袋を渡された。あと身を守る武器として古びた剣。

 この世界の通貨価値が分からないので、何日食べていけるのか分からない。鞘から剣を抜くと、刃が錆びていた。


 しかし水紀は絶望していなかった。

 創造スキルの使い方が、自然と頭に浮かんでくるからだ。


 人気のない公園のベンチに座り、剣を握って、目を閉じて集中する。

 すると錆びた剣を材料にして、真新しい綺麗な剣が創造された。



――――――

鉄の剣を創造しました。

普通の鉄の剣です。切れ味も耐久性もそこそこです。扱いには注意してください。

――――――



 頭の中にゲームのメッセージのようなのが浮かんでくる。

 思った通りだ。

 水紀が授かったスキルは、材料さえあれば、道具がなくても物作りができる。

 壊れたものを治せるし、全く別のなにかに加工できる。


 今はまだ鉄の剣を修復しただけだ。

 しかし魔石などがあれば、魔法効果を持ったアイテムを作れるだろう。

 誰に教わることなく、そうと分かるのだ。


 水紀はワクワクしてきた。

 貧乏だから欲しいものが手に入らなかった。これからは違う。作ればいいのだ。

 スキルの優秀さがバレて王宮に連れ戻される前に、この街を離れたい。

 誰にも邪魔されず、気ままに生きていく。

 水紀はベンチから立ち上がり、王宮からできるだけ離れようと走り出した。

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