第4話

幾分が過ぎたであろうか。突然、ろうそくの明かりが揺らぎ、澱んだような部屋の隅の暗さにも、一瞬、明かりが届く。


「もとは社で使用する道具を収めておく小屋であったものですが、祭の時などのために、寝泊りもできるように作られてありました。それで、ここに住んでおります」


戸口から、よく通る声が掛けられた。振り返ると、先ほどの人物が帰ってきていた。

「社務所的なものでもありましたし」

「社務所?」

「はい。一人で住むには十分な広さですし、お社に近いので便利ゆえに」


言いながら、竹箒を片付け、手早くたすきをかけ、

「今、夕餉の支度をしますゆえ。下女もいないので、私の手で作ったもので申し訳ないのだが」

と、明と暗の境のない曖昧模糊とした空間で、きびきびと動く。

ひとえは、その曖昧な仄かな暗さの中でも切り取られたようにはっきりと見える。

だが、そのほとんど音のしない動きは、どこか、影が動いているような、そんな印象を受ける動きだった…。


太明は、その様子を眺めていた。

「そう言えば、貴殿の名前を聞いておりませんでしたが。伺っても宜しいか?」

ふと手を止め、声を向けられ。

私は日向ひむかと申します、と名乗られたため、太明とて名乗らぬわけにはいかぬ。

「……太明たいめいと申します。こちらから名乗るべきでした。大変な無礼を」

「いえ、気にしてはおりませぬ」

そう言って、すっと頭を下げた。

全ての動作が、滑らかな…滑らか過ぎるほどの動きであった…。


そうして日向と名乗る人物は、ほんの少しだけ微笑んだ。

それを見て太明は。

この人物、日向が「人」らしく見えた……

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