第208話 革命
ジーストリアは臨時政府である。
以前はオーストラリア領域だったのだが、SSS級ダンジョン終焉の発生にともないオーストラリアが消滅しているのだ。
よって、正式な国家としては認定されていなかった。
今は、EUをはじめ、中国とアメリカが実権を握っている。いや、正確にいえば握ろうとしているのかもしれない。
ダンジョンの発生が早いこの島はダンジョン資源の宝庫なのである。
ジーストリアは謎の多い暫定国家として世界に君臨していた。
衛星の地図アプリではボカされて映り、ネット、テレビ、新聞、どんなメディアでも扱われることがない。正体不明の謎の暫定国家。
それがジーストリア。
しかし、そんな島国でも大きな動きを見せようとしていた。
そこは森の中に囲まれたダンジョンの入り口。
その地下にはジーストリアの本部がある。
それはジーストリア国家会議でのこと。
「そろそろジーストリアの情報を解禁したい」
それは上座に座る男の発言だった。
彼はザチウス総統。
事実上、ジーストリアのトップである。
学園を設立した創業者。
用心棒として
眉間の深い皺と鋭い目が特徴的だ。
「ロシアの圧力が激しい。このままでは政治的に介入されてしまうのだ」
先にも挙げたように、ジーストリアの運用はEUと中国とアメリカの3国である。
そこにロシアが入っては、より複雑になるのは目に見えていた。
「今後のことを思えば独立宣言をした方が国家のためなのだよ」
ベロファーは目を細めた。
「しかし、核所有国には勝てませんよ」
「イギリスの支援があるさ」
「それで独立したといえるのですか?」
「国の発展には妥協はつきものだよ。この国の発展には核保有国との連携は必須。いずれはイギリスとも手を切るつもりだ。この国は完全に独立国となる。手始めに
「なんのことでしょうか?」
「ふふふ。
「さぁ。知りませんね」
「しらばっくれるんじゃない!」
「おや? 今日は随分と口調が強いですね?」
「おまえたち
「やれやれ。バランスは大切だと思いますがね」
「持ちつ持たれつといいたいのか? 思い上がるなよ小僧が」
「事実をいったまでです。ジーストリアの治安維持には
「使ってやっていただけさ。所詮おまえたちは駒にすぎん。国を動かすのは私なのだよ」
「困りましたね。仲良くやってきたと思ったのですが」
「ふん。この島にはスパイが潜入しているそうじゃないか。先日はおまえの姿そっくりに化けていたらしいな」
「……それが?」
「もう捕まえたのか?」
「首を斬って殺しました」
「ほぉ……。正体は掴めたのか?」
「聖域で雇っていた警備員のジミーという男です。こいつが変装の得意なスパイだったのです」
「どこの国の人間だ?」
「調査中です」
「使いもんにならん」
ザチウス総統は人差し指から炎を出した。それはライターのような小さな火。おそらく炎の魔法だろう。彼はそれを使って葉巻に火をつけた。
「プハーー!
「情報の精査が必要なのです」
「いいわけは見苦しいぞ。ジミーの情報を渡せ。こちらで調べてやる」
「それはできません」
「ふざけるな!!」
「ジーストリアの治安維持は
総統は葉巻の煙をベロファーに吹きかけた。
「ブハァアアア!! 思い上がるなよガキがぁああ!! 実権は上層部が握っているのだ。おまえは私のいうことを聞いていればいいのだよぉおお!」
「
「くだらん。絶対的存在は私なのだ」
総統が指を鳴らすと、兵士が大きな国旗を持ってきた。
そこにはいくつかの星が散りばめらている。
「我が国が独立することを宣言するために国旗を作った。星は鳳凰座を模している」
総統はもう一度葉巻の煙りをベロファーにぶっかけた。
「ブハァアアアア!! 聖域の情報を開示しろぉおおお! 中でやってる怪しげな研究情報も全て教えるんだ!!」
「なんのことだかさっぱりわかりません。僕たちは探索業を慎ましくこなしているだけですよ」
「ふざけるな!! 貴様がダンジョンについて研究していることはすでに調べがついているんだ!! どうせ、その研究で魔炎石の採掘場を見つけたのだろう!?」
「だから、なんのことだかさっぱりわかりませんよ」
「貴様ぁああああああああああああ!!」
総統は兵士を集めた。
彼らは銃口をベロファーに向ける。
「これは、なんのつもりです?」
「グハハハ! いちいち反抗する貴様の態度にはうんざりなのだよ。これからは武力で制圧するのさ。採掘場を教えろぉおおお!!」
この状況にクスクスと笑っていたのは副官たちである。
「ククク。小僧がいい気になるからこんな目に遭うんだ」
「観念するんだなベロファー。総統を怒らせてはただでは済まんぞ」
「今までは我慢してやっていたのだ。もう諦めるんだな」
ベロファーは鼻でため息をついた。
「ザチウス総統。あなたはジーストリアの基盤を築いたお方だ。学園を作り、情報統制を厳格にした。これは
「ふん。ジーストリアは独立国になる。学園の設立などは初歩の計画にすぎん」
「あなたは優秀な人材です。諸外国との人脈も多く所有されている」
「当然だ。私はジーストリアの王になる」
「でも、ミスをした」
「なにぃ? ミスだとぉ?」
と、顔をしかめるのと同時。
ベロファーの姿は消えていた。
「な!? どこだ!?」
「鳳凰座のデザインですか……」
ベロファーは国旗の横に立っていた。
「ダサいな」
「貴様ぁ! どうやって移動したぁあああ!?」
「国旗のデザインは明らかにミスですね」
「答えろぉおお! どうやって移動したぁああ!?」
「国旗のデザインは薔薇のマークが最適なんです。花言葉は『愛』ですからね」
総統は叫んだ。
「撃てぇえええええええええええええ!!」
兵士たちは引き金を引いた。
しかし、カチカチというだけで弾は出ない。
「無駄ですよ」
ベロファーは移動していた。
今度は総統の後ろである。
「弾は僕が抜きました。撃つことはできません」
そういって舌を出す。
その真ん中には薔薇のタトゥー。
「貴様ぁああ。能力を隠していたのかぁああ!?」
「僕は優しい窓口じゃありません。
「私だってスキルは使えるんだ。舐めるんじゃないぞ!! 爆炎!!」
総統の全身から炎が発現する。
どうやら火を操ることが彼の能力らしい。
「ああ、またミスをした」
瞬時にして、ベロファーは彼から離れていた。
「国旗のデザイン。そして、僕に歯向かうこと。この2つは大きなミスです」
「なん……だ……と!?」
その言葉は遅かった。
彼の頭がゆっくりとスライドしたかと思うと、そのままゴトンと床に落ちてしまった。
切断された首からは鮮血が噴水のように噴き出す。
周囲はパニックである。
ベロファーはそれを鎮めるように力強くいった。
「これからは、
そういって舌を出して笑う。
「なにぃいい! 小僧がぁああ──」
と叫ぶのは遅かった。
副官たちの頭も床に転がっていたのだ。
残った胴体の首からは鮮血が吹き上がる。
こうして、
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