第206話 返り討ち

 ベロファーは気をとりなおしたように、話題を変えた。


「そ、その腕時計は聖域のルール違反だよ。ぼ、没収させてもらう」


「はぁ?」


「せ、聖域のルールだよ!! いくらVIPだってね!! ル、ルールには従ってもらう!!」


「アホか」


「くぅうう!! な、なんだとぉお!!」


「だったら、VIPに銃口を向けた責任はどうとるつもりなんだよ?」


「うぐ! そ、それはぁ……」


「私の持ち物を返せ。あと、今後、この聖域に入る時は私の持ち物チェックは無しだ」


「なにぃいいいいいいいい!? そ、そんなルールは認められない!!」


「当然だろ? おまえだって持ち物チェックはないんだからさ」


「ぼ、僕は 元老院セナトゥスのリーダーだぞ!」


「私はVIPなんだろ?」


「ぐぬぅうううううう!!」


「そんな私に銃口を向けたのは部下の失態。その責任をとるのは、入場時に必ずやる持ち物チェックの免除で許してやるといったんだよ」


「あぐぬぅううう!!」


「それともなにか? 私の命を狙っておいて無傷で帰ろうってんじゃないだろうな? 銃口を向けたということは、逆に殺されても文句はないよな? それ相応の報いは受けてもらうぞ」


「あぐぐぐぐ……」


「骨の2、3本は折ってもいいだろう」


 ベロファーをはじめ、部下の兵士たちも汗を流した。


 俺はボキボキと指を鳴らした。


「さぁ、どうする? さっきは防御だけだったけどさ。派手に動いて、攻撃に移ってもいいんだぞ?」


「わ、わ、わかったよ! 君の要求は飲む。それでいいだろ!」


「ほぉ、それだけで終わらせる気か?」


「ほ、他にもなにかあるのか?」


「悪いことをした人間は謝罪の言葉をいうもんだがね」


 ベロファーは蚊が飛ぶような小さな声でぼそっと、


「……わ、悪かったよ」


 といった。


 いやいや。

 銃口を向けた謝罪がそんな小声で許せるもんかよ。


「え? なんて? 聞こえないぞ?」


「悪かった……」


「だから、聞こえないってば」


「わ、わ、悪かった!! これは僕のミスだ! 以後、反省するよ!」


 ふぅむ。


「どうする風間。許してやるか?」


「はい! 僕は師匠に委ねます!」


「よし。じゃあ、許してやろう」


「うは! あのベロファーがタジタジですよ!! すごいです師匠!!」


 ベロファーはがっくりと項垂れていた。


 やれやれ。

 俺に攻撃なんかするから痛い目にあうんだ。


「VIPの待遇には気をつけて欲しいもんだね」


 ベロファーは意気消沈。

 弱々しく聞いてきた。


「そういえば 真王子まおこ……。今までどこに行っていたんだ?」


「どこに行こうと勝手だろ? 聖域を散歩しちゃあいけないのかよ?」


「あうう……」


 ま、大方察しはついているだろうがな。

 どこでもダンジョンを使って日本に帰っていた事実は伏せておこうか。


真王子まおこ。君には聖域の良さを知ってもらいたい」


 そういって鍵を渡してきた。


「これは?」


「この建物の一室さ。自由に使ってくれていい」


 つまり、しばらく滞在しろってことか。

 まぁ、ここのことはもっと知りたいしな。

 丁度いいか。

 しかし、部屋の鍵って意味あるのかなぁ?

 どうせ、出かけてる隙に、勝手に入るんだろうしさ。


「鍵なんてかけても意味がないと思うがな」


「そう勘繰らないでくれよ。君とは仲良くしたいんだ。明日は学校だよね。専用の運転手をつけるからさ。ハイヤーで送らせるよ」


 やれやれ。

 どうせ、その運転手は俺を探らせるスパイだろう。

 こいつは信用度ゼロだ。

 この場所で信用できるのは風間しかいないな。


「ここの良さがわかれば、君が 元老院セナトゥスのメンバーになることだってあるさ」


 そういってベロファーは帰っていった。


 やれやれ。

 本当に勝手なやつだよな。

 部屋に無断で入るは、盗撮はするは、あげく銃口を向けて来た。

 それで、俺を仲間にしたいってんだから呆れてしまうよ。


 俺たちは風間の部屋に入った。


「んじゃ、カメラを探してくれ」


「はい。師匠」


 風間はすぐにカメラを見つけた。


「いつの間にか暗視カメラとスピーカーが設置されていました」


「おまえが仕事をしている間はこの部屋は留守になるからな。あの感じじゃ入り放題だよ。外してもすぐに設置してしまうんだろう」


「じゃあ、師匠の部屋にも隠しカメラはありますね」


「だな」


「僕が全部外しますよ!」


 聖域で快適にクラスには、まずはベロファーの監視を振り切ることからだな。



〜〜ベロファー視点〜〜


 クソぉおお!!

  真王子まおこのやつぅうううう。


 僕を部下の前で恥をかかせやがった。


 こんなことは許せない。

 必ず、弱みを握ってやるからなぁ。


 僕は監視室に来ていた。


「どうだい?  真王子まおこの部屋は綺麗に映っているかい?」


 暗視カメラは最新の物をつかったんだ。

 スピーカーだって特注さ。


「べ、ベロファー様。あなたには勝手に動かないように厳しく命令されております。なので、報告するまで黙っていたのですが……」


「なんだ? なにが映っているんだ??」


「これ……」


 カメラの画面には文字が写っていた。

 どうやら、レンズの前に文章を書いた紙を置いて映しているようだ。


 

『変態貴族さん。盗撮はやめろ。今度、新しいカメラを設置したら承知しないからな』



 あぐぐぐぐぐぐぐ。

 バ、バレてるぅうううううう。

 隠しカメラが完全にバレているぅうう。

 ぐぅううううううう!!


「ど、どうしますか?  真王子まおこが留守をしてる時に新しいカメラを設置しますか?」


「そ、そんなことができるわけがないだろ!!」


 ぐぬぅうううう。

 隙がなさすぎるぅうう!!

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