第205話 ベロファーの横暴

 俺と風間は、どこでもダンジョンを使ってジーストリアに戻った。


 戻った先は聖域のダンジョンだ。


 ここから風間の社宅に向かう。


 どこでもダンジョンの不便なところだよな。

 地上からダンジョンには行けるけど、ダンジョンから地上には戻れないんだ。

 あくまでもダンジョンに移動するアイテム。


 風間の部屋に着くと、入り口の扉が開いていた。


 どうして??






 それは片井と風間が帰還する1時間前の話。


〜〜ベロファー視点〜〜


 おかしいぞ。


 風間の部屋が暗くなってからもう3時間以上にもなる。

 一向に灯りがつく気配がない。


 監視員は気楽に笑う。


「きっと、そのまま寝てしまったんですよ。男女の仲ならそういうことだってあります。ははは」


「2人は酒を飲んでいたか?」


「は?」


「フランス料理店ジェ・レスペクトで遅めのランチをとっていただろう。その時に酒を飲んでいたかと聞いているんだ」


「店員に確認してみます」


 監視員は電話をした。

 そして、


「料理長に確認が取れました。2人はミネラルウォーターを飲んでいたそうです。食後は紅茶を飲んでいたとか。まだ、10代ですからね。ジーストリアでも飲酒は20歳からです」


「だったら、おかしいと思わないのか?」


 部屋に入るなり、ベッドにしけ込んで、そのまま爆睡だと?


 違和感しかない。


 喉が渇いて電気をつけないのか? トイレは?


「確認に行く」


 僕は数人の部下を連れて風間の社宅に向かった。


 呼び鈴は応答がない。

 合鍵はこちらが管理している。

 いつでも入り放題なんだ。


 部屋に入り照明をつける。


 ベッドのシーツは盛り上がっているが、剥がすとクッションが置いてあるだけだった。


 これは偽装だ。

 人が中に入っているように見せているだけの膨らみを作るダミー。


「い、いません!! ベッドはおろか、部屋の中には人の姿が見当たりません!!」


 やはりな。

 移動アイテムを使ったんだ。

 まさか、こんなベッドの中から使えるのか……。

 ……そうなると、日本に帰っている可能性が高い。


「こうなったら原因がわかるまでは監視を続けるしかない。暗視カメラとスピーカーを設置するんだ」


 でもまぁ、いいさ。

 

「ククク……」


 もしも、移動アイテムで日本に戻っているなら風間はウィルスが発症してダンジョン化しているだろう。

 聖域から出ることは死を意味する。

 僕の監視下から逃げようとするから罰が当たったのさ。

 ククク。帰って来た時の 真王子まおこの顔が見物だな。


 僕が部屋を出ると外から 真王子まおこたちが帰って来た。

 その後ろには風間がいる。


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいい!?」


 ど、どういうことだ?

 

 ウィルスの発症が不発に終わったのか??

 それとも感染していなかった??

 ガスを吸わせる量が少なかったのか?


 


〜〜 真王子まおこ視点〜〜


 やれやれ。

 鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔をしてさ。


「そこは風間の部屋だぞ? なに勝手に入ってんだよ」


「べ、ベルを鳴らしても出ないからね。なにか事故でも起こったのかと思って心配したんだよ」


「…………出かけることだってあるさ。いきなり部屋に入ることはないだろう?」


「事故の管理は主人の勤めさ。なにごとも円滑にね」


 やっぱり盗撮していたか。

 念のために男女の情事を演じておいて良かったな。

 この様子じゃ、俺が移動アイテムを使ったことはバレていないらしい。


「驚いたな。風間は元気そうだ。てっきり帰ってこないかと思ったよ」


「どういう意味だ? まるで、風間の体がダンジョンウィルスに感染していて、日本に帰るやいなや、ウィルスが発症してダンジョン化するような発言だな?」


「く……」


 ベロファーは顔をゆがめた。

 汗をジットリと垂らす。


「……は、発症したのか?」


「なんのことだよ」


「うぐ! き、きさまぁああ!!」


「口が悪いな貴族さん」


「ぬぐぅうう……」


「盗撮してたから知ってんじゃないのか? 変態貴族さんよ」


「ぐぅううううううう」


 ベロファーの部下たちは銃を構えた。俺に銃口を向ける。


「ベロファー様になんて口の利き方だ! 土下座して謝れ!! 殺されたくなければな!!」


 やれやれ。

 今度は武力で制圧か。


 俺には 密偵腕輪スパイバングルがあるからな。

 地上でも攻撃アタック 防御ディフェンスは使えるんだ。

 銃弾くらいは余裕で防ぐことが可能。

 魔法壁の移動は5メートルが限度だからな。

 壁パンチは実質撃てないが、 弾性バウンド 防御ディフェンスを利用すれば超人的な格闘術を見せることができるだろう。


 一方、ベロファーはただの少年だ。

 やつの 死んだ時間デッドタイムはダンジョンなら最強クラスだが、地上では最弱だ。

  密偵腕輪スパイバングルの効果は、地上でも魔力が使えるかわりに千分の一になるからな。

 仮にベロファーが 密偵腕輪スパイバングルを使っても、地上で止めれる時間は0.1秒以下なんだ。

 つまり、やつのスキルは地上戦だとまったく使えないゴミスキルになる。


「俺はVIP待遇なんじゃないのか?」


 ベロファーは気まずそうに視線を逸らす。

 銃に対して俺が恐怖するのをわずかながら期待している感じだ。


 はっきりさせておこうか。


「その銃を撃ってみろ。きっと後悔することになるぞ」


 数秒後の未来は、地面に倒れるこいつらの姿だな。


「き、貴様ぁああ!! 偉そうにぃいいい!! ベロファー様に謝罪せんかぁあああ!!」


 やれやれ。


「おい。どうすんだベロファー。本当にやるのか? そっちが武力で制圧するっていうんなら、こっちもそれ相応のやり方があるんだぞ?」


 ベロファーは汗を垂らしまくった。

 それは冷えた缶ビールのように水滴を表皮に付着させる。


「き、君は銃が怖くないのか?」


「怖がっているように見えるか?」


「うう……」


「私が 真王子まおこの姿になっているということは 密偵腕輪スパイバングルの影響だよなぁ?」


 ベロファーは俺の腕時計に気が付く。


「くぅうう! 入場の時には腕時計はしていなかったのにぃ」


 聖域に入るには厳しいチェックがある。

 電子機器は全て没収だ。腕時計も同様だろう。

 あの時は没収されるかもしれなかったからな。

 手首にはめている 密偵腕輪スパイバングル 偽装カモフラスキルを使って素肌に同化させておいたんだ。


「おまえの力は地上では無力だろう?」


「ぐぅううううううううう……!!」


「おやおや。随分と汗をかくじゃないか。まるで、服を着たまま川に飛び込んだみたいだな」


「ぐぬぅうううううううううう!!」


 このやりとりに我慢できなかったのはベロファーの部下だ。


「このガキがぁあああ!! ぶん殴ってやる!!」


 と、大きな拳を俺に向けて来た。

  真王子まおこの姿は15歳の少女だからな。

 舐められるのは仕方ない。

 でも、やるってんなら容赦はしないさ。


  弾性バウンド 防御ディフェンス


 俺の眼前には柔らかい魔法壁が出現する。

 その壁は兵士の拳をグニョーーンと包み込んだ。

 そして、ゴムのように弾く。


バミョーーーーン!!


 男は自分が殴った同じ力で吹っ飛んだ。

 廊下の壁に後頭部を打ち付けられる。


「ぎゃふぅっ!!」


 そのまま気を失った。


 それを見たベロファーは更に汗を垂らす。


「な、なんだ……魔法か??」


 さぁて、なにが起こったんだろうね。

 もちろん、説明するつもりはないけどな。


 他の兵士たちは意味がわからない。


「な、なにが起こったんだ!?」

「急に吹っ飛んだぞ!?」

「お、女は動いていないのに!?」

 

 あーー。


「いっておくがな。まだ、私は攻撃してないからな。……防御しただけだ」


 ベロファーは震えた。


「あわわわわわ……」


「まだ、銃口が私の方を向いているが?」


 ベロファーは部下に向かって声を荒げた。


「バカ! その銃を下せ!!」


 やれやれ。 

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