第204話 鉄壁さんのお母さん
俺は母さんと2人だけで話すことになった。
防衛大臣として、今後の進め方を詰めたいらしい。
「
うーーん。まだ手応えがないからなぁ。
どうやったら勇者の力を自由に使えるのだろうか?
さっきは風間を助けたい一心だったらからな。
堅牢の力……。
修行をすれば目覚めるのかな?
発動するにはなにかのきっかけが必要なのかもしれないけど……。
なんとか自分のものにしたいよな。
「総理と相談してね。おまえにお礼をすることにしたんだ」
「へぇ。なにをくれるんだ?」
「3つ目の片井ビル」
「おお!」
「第2ビルの近くに物件を購入しておいた」
またも、俺のグループが大きくなるな。
しかし、そうなると人材なんだよなぁ。
「ふふふ。求人は安心しろ。総理の配下である忍びの里に募集をしといたんだ。厳正な審査のすえ、やり手の忍び100人がおまえの配下になる予定だ」
「おお……。いたれりつくせりだな。でも、そこまでやってもらうのはなんだか悪い気がするよ」
「心配するな。おまえがやったことはそれくらいの功績があるのさ。魔炎石の採掘動画を持ち帰るなんて世界的偉業だよ。いわば世界の平和に貢献したといってもいい」
「いや。まだ
「……おまえの仕事は風間くんの救出までさ。もう安心して私たちにバトンタッチしてくれ」
「あとは防衛省がやるのか?」
「そうだ」
日本に帰って来たのは確認したいことがあったからなんだよな。
「オーストラリアに発生したSSS級ダンジョン……。
母さんは汗を垂らして視線を逸らした。
「もしかして、父さんのことなのか?」
「そ、それは……」
「なにを隠しているんだよ?」
「…………」
「言えよ」
別に強くいったつもりはない。
軽く伝えたつもりだ。
でも、母さんは泣いていた。
体をぷるぷると震わせて。
マジか!?
母さんが泣くだと!?
「な、なんで泣くんだよ!?」
初めて母さんの涙を見たな。
この人は氷の女王なんて揶揄されるほど冷徹なところがあるんだ。
昔、家族3人で感動する映画を観た時、俺と父さんは泣いていたのに、彼女だけは顔色一つ変えてなかったっけ。
母さんらしいといえばそれまでだけどさ。
親族の葬式でだって涙なんか流したことがなかったな。
この人が泣いているところは一度も見たことがなかったんだ。
そんな人が……。泣くのか。
なにか、よほどの理由があるらしい。
「説明しろよ」
母さんは俺を抱きしめた。
「お、おい……!」
「
「なんのことだよ?」
「
おいおい。
急にどうした?
「離婚をして気がついた。私にとっては家族が宝だったんだ」
「なんだよ。急に……」
「私の生きる意味さ。私は家族のために生きていた。離婚をして、身に染みたんだ」
やれやれ。
勝手に別れて、寂しいってか。
わがままな親を持つと子供は苦労するよな。
でもさ、
「……今こうして、壊れた絆を修復してるんだろ? だったら、それでいいじゃないか」
「だから泣いている。おまえを失いたくはない。私は
「だったら隠し事はせずにだな」
「
「おいおい」
「これ以上は危険なんだ。
と、抱きしめる力を強める。
その体は震え、涙は俺の腕にも落ちていた。
「俺が父さんみたいに帰らぬ人になるのが怖いってことか?」
「……そうだ」
「俺はそんなに弱くはないさ」
「……
「俺が戦うのは終焉じゃないさ。
「…………
母さんの腕は再び俺を力強く抱きしめた。
「
そう心配されてもな。
ここまで足を突っ込んだんだ。
今更、後には引けないよな。
それに、さっきの風間の発症は見過ごせない。
「ダンジョン爆弾による攻撃は水面下で進んでいるようだ。誰かが
「……どうしても引かないのか?」
「
防衛省だけで動かすのは危険だ。
それにベロファーは母さんを狙うかもしれない。
絶対に俺が離れるわけにはいかないんだ。
母さんは震えていた。
「大丈夫。俺は負けないよ」
「うう…………」
「終焉の復活も。
「うううう……」
ああ、涙がすごい。
もう、めちゃくちゃ泣くなぁ……。
「なぁ、母さん……。聞いてみたかったんだけどさ」
「うう……。なんだ?」
「父さんのこと……。今でも好きなのか?」
「愛してるに決まっている」
おいおい即答かよ。
「じゃあ、なんで別れたんだよ?」
「お、男と女には色々とあるんだ。おまえだってそれくらいわかるだろう」
聞くのが野暮ってか?
やれやれ。困った親だな。
「
そういって、俺の首にくぐらせた。
編み込まれた革紐のネックレス。
装飾されているのは緑色の宝石ようだ。
「これは?」
「その石には私と
「お守りか」
「おまえが協力してくれるのは嬉しい。防衛省としても大助かりだ。でも、無茶だけはやめて欲しい。絶対に無茶だけは」
「わかったよ。やばかったら引くからさ。安心してよ」
「絶対だぞ。うう……」
父さんのことは聞けそうにないな。
母さんはなにかを隠している……。
父さんは何者なんだ?
俺は母さんと別れたあとに
俺の配下。くの一
母さんには悪いけどさ。
「片井
「その方は……。もしかして……」
「俺の父親だ。経歴を知りたい。5年前に死亡認定された。どこのダンジョンに潜って、どんな最期を遂げたのか? 探れる記録は全て見つけて来て欲しい」
「は! 承知しました」
「秘密裏に頼む。このことは他言無用だ」
「御意」
男女の仲を探るのは野暮だけどさ。
父さんのことを探るのは子供の特権なんだよな。
風間は謎の探索者MAKOTOが堅牢の勇者だといっていた。
MAKOTOが俺の父親なら、俺には勇者の血が流れていることになる。
────
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