第203話 風間の本性

 俺と風間はパソコンを使って総理にテレビ電話をした。

 もちろん、その横には俺の母親もいる。

 防衛大臣と総理にことの顛末を伝えなければならない。


「古奈美さん。 真王まおくんが無事に帰って来て良かったですね」


「ああ。 衣怜いれちゃん。今日は飲み明かそう」


「あははは。パーティーですね」


 それにしても、日本でパソコンを触るのは至福の時間なんだよな。

 ジーストリアでもネットは使えるけど、常に監視されていることが気になって気が休まらないんだ。


 自由にネットが使える環境って本当に最高だよね。

 ああ、この解放感は俺と風間にしかわからないだろう。


 電話が繋がるやいなや、飛び出たのは総理の叫び声だった。


「うぉおおおおお!! 風間ぁあああ!! 無事でなによりだったぁ!!」


 総理は、風間の姿を見るなりセンスを取り出して広げた。


「あっぱれだ片井どの!! 流石は鉄壁さん!! ここまで難しいミッションをやり遂げてしまうのだから、本当にすごい!!」


 喜んでいるところで、水を差すようで悪いがな。


「このまま帰還したことにしてもいいんですけどね」


 と、ジーストリアの内情を伝えた。


 風間が黙示録の解読に努めていること。

  元老院セナトゥスがダンジョン爆弾の人体実験をしていること。

 そして、暗奏がその実験の1つだったこと。

 最後に、


元老院セナトゥスの目的は世界征服です」


 この漫画のような話を総理と防衛大臣は真剣な表情で聞いていた。

 意外だったのは、まるで知っていたかのように落ち着いていたこと。

 混乱する 衣怜いれとは対照的である。


 総理は目を細めた。

 先ほどの喜びが嘘のようだ。


「まさかとは思っていたが……。やはりという感じだ。ダンジョン爆弾か……」


聖弾クルセイド。と呼んでいましたけどね」


 ダンジョンウィルスを人間に感染させて対象の場所でダンジョンにさせる。


「とんでもない作戦ですよ」


「うむ。そんなことを許せば、 元老院セナトゥスに世界の実権を握らせてしまうな」


「各国に援助を要請するのはどうでしょうか? 栄華でやっていた魔炎石の採掘は動画にありますしね。それを元に協力を仰げば 元老院セナトゥスを追い詰めることができますよ」


 その時である。

 風間が体をうめき声を上げ始めた。


「うううううう………!!」


 彼は全身を震わせて汗を流す。

 そして、額に大きな目玉が現れた。


 あの目玉は研究所で見たことがある。


 まさか、


「感染していたのか!? ダンジョンウィルスに!?」


「し、信じられないけどそのようです……。お、おそらく眠っている隙にウィルスガスを吸わせていたんだと思います」


 ウィルスの発症は環境の変化だといっていたな。

 ジーストリアから日本に来たから、その変化で発症が始まったのか!


 風間が……ダンジョン爆弾。


 彼の周囲に風が吹き荒れる。

 会議室の椅子の吹き飛ばされた。


「ぼ、僕から離れて!!」


 額の目玉はぎょろりと動く。

 彼の全身から稲光が発生した。


「巻き込まれては怪我をします!!」


 いかん。

 このままだと風間がダンジョンになってしまう!


「片井さん……。いや、鉄壁さん。まさか、はじめて会ってこんなことになるとは思いませんでした」


 た、たしか……。ダンジョンに変化した人間は助かる方法がないといっていたな。

 でも、


「風間。諦めるな! なにか方法はないのか!?」


「ありません。僕は研究所の実験で何度も見た。これはウィルスの発症。こうなったら、もう1分ももたないでしょう」


「考えろ! 1秒あればなにかできるかもしれない!」


 くぅ……。

 ジ・エルフィーにエルフ、ネミがいればなにかわかったかもしれない。

 彼女は古代魔字を解読して、青い飴を作ってしまうくらい頭がいいんだ。

 でも、彼女は1階で事務をやっているしな。呼びに行くのに時間がかかりすぎるだろう。

 それに、いくらネミでもこの状況はどうしようもないかもしれん。


「……罰が当たったんです。僕は人殺しの人体実験を見過ごしてきた。助けることもできずに、ずっと見過ごしてきたんです。だから、今その報いを受ける時が来たんだ」


元老院セナトゥスの力は強大だ。無闇に歯向かっても無駄死にするだけさ。おまえはその計算ができたからリベンジのタイミングを見計らっていたんだろう。それは戦略だ。おまえの罪じゃない」


「ありがとうございます。でも……。無力も罪だと思います」


「ふざけんな!」


 風間は風に包まれる。

 彼の下半身は床に溶け始めた。


 ああ、ダンジョン化が始まってるんだ!


「ぼ、僕ね。鉄壁さんの大ファンなんです。暗奏を攻略する以前から配信は必ず見ていました。いつも勇敢で優しくて……。最強なんです。ふふふ。それが鉄壁さん」


 なにか考えろ……。

 なにか、なにか方法はないか??


「でも、最期は夢が叶いました。憧れの鉄壁さんに会えたんだ。僕のこと……忘れないでくださいね」


 風間は風に包まれた。

 その体はダンジョンの入り口へと変貌する。





「風間ぁあああああああああああああああああああああ!!」


 



 突然。


 光が周囲を包み込んだ。

 それは温かく優しい光。


 なんだこれ?


 と、思ういなや。

 その光は風間を包み込み、人間の体へと戻してしまった。


 マ、マジか……?

 なにが起こった??


「え? な、なんで僕……。人間に戻った??」


「いや。俺もわからん」


「け、堅牢だ……」


 はい?


「堅牢の力ですよ!!」


「ああ、勇者の力のことだな……」


「すごい!! やっぱりあなたが堅牢の勇者だったんだぁああ!!」


「いや……。そ、そうなのか??」


「だって、ほら! 僕はダンジョンになりませんでした!! あなたの力がウィルスを浄化したんですよ!!」


「お、おおう……」


 いや、しかし自覚がない。


「うはああああ!! 堅牢の勇者が鉄壁さんだったんだぁああああああ!!」


「は、ははは……。なんかわからんが助かって良かったな」


「覚醒したんですよ!! 勇者の力が!!」


 そういわれてもな。

 なんだこのスッキリしない感じ?

 もうちょっとこう……。覚醒した手応えが欲しかったな。


「あはははは! やっぱり師匠はすごいや!! 最強です!!」


 と、喜んだあとに我に返る。


「あ、すいません。師匠って言っちゃいました」


「……やれやれ」


 こいつは自分が死ぬ時だってのに、俺たちに離れるようにいった。

 爆風に巻き込まれたら危ないからって。

 助けを求めるより、俺たちのことを心配をしたんだ。

 こいつは心底真面目で優しいやつなんだな。


 嫌いじゃない。

 いや、ハッキリいって好きな人種だ。

 だから、


「あーーーー。別にさ。おまえが嫌じゃなかったら。その呼び方でも許してやるよ」


「え?」


「呼びたいんなら、好きなように呼べってこと」


「そ、それって……」


  衣怜いれは満面の笑み。


「良かったね風間くん! 鉄壁さんが弟子を取るなんて世界でもはじめてのことだよ」


「うわぁああああああああああああああああああああ!!」


 いやいや。

 うるさいってば。


「まぁ、俺がおまえに教えることは特にないからさ。仲間みたいな感覚で頼むな」


「はい! 師匠ぉおおお!!」


「ま、気楽にいこうよ」


「はい! 師匠ぉおおおおおおおお!!」


 風間は飛び跳ねる。

 どうやら嬉しすぎて動かざるを得ないようだ。


「師匠ぉ♪ 師匠ぉ♪ うわぁああああい!! 僕は鉄壁さんの弟子になれたんだぁあああああああ!! やったぁあああああああああ!!」


 やれやれ。

 まぁ、なにはともあれ助かって良かったよ。



 俺が総理にことの経緯を話していると、風間は大きな声を張り上げた。


「え!? と、時を止める能力ぅ?? ベ、ベロファーはそんな能力を持っていたんですか!?」


 俺が目を細めると、


「す、すいません! 話の腰を折ってしまって」


 そしてまた話し始めると、


「ベ、ベロファーを倒したぁああああああ!? あ、あのベロファーを倒したのですかぁああ!?」


 やれやれ。


「風間。できれば静かに聞いてくれ」


「は、は、はい。すいません!」


 しかし、風間は終始、鼻息が荒かった。


「ふはーー。すごい。僕の師匠はやっぱりすごい。あのベロファーをむふぅう!!」


 こういうのを教育するところから師弟関係は始まりそうだな。


 報告が終わると、会議室の異変に気がつく。

 風間がダンジョン化した時に出現したダンジョンの入り口が消えないのだ。


「師匠。堅牢の力で浄化できませんか?」


「うーーん。それがなぁ。さっきの光を出す方法がわからなくってさ。困ってんだよ」


 どうやら、あの力を自由に使うのはきっかけが必要なのかもな。


「中は……。シーンとしてますね。ダンジョンが広がってる……」


 モンスターが出て来たら厄介だよな。

 地上に出てくることはないけど、うめき声とか臭いとかが嫌なんだ。


「ちょっと、潜入して駆除しておくか」


「はい」


 と、中に入るも毛虫一匹いなかった。


「なにもいませんね?」


 不思議だな。

 ダンジョンの空間だけが広がっている。


「あ、そうか! 堅牢の力で浄化したからモンスターが発生せずに地下空間だけ残ったんですよ!」


 なるほど。


「あちゃぁあ、会議室にダンジョンなんて、ちょっと不気味ですよねぇ」


 いや。

 そうでもないぞ。


 モンスターが生まれないなら、普通に収納スペースとしても使うことができる。

 その上、どこでもダンジョンに登録すれば、いつでも片井ビルに帰ることができるんだ。


「でかした風間」


「へ? ぼ、僕、なにかやりましたか?」


「流石は俺の弟子だ」


「えええええ!? なんだかわかりませんが褒められました!! 初褒められです!!  衣怜いれ姐さん! 僕、褒められましたぁあ!!」


 これからはダンジョンから片井ビルの会議室に移動が可能になった。

 めちゃくちゃ便利だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る