第202話 風間と鉄壁さん

〜〜片井視点〜〜


 俺はみんなに風間を紹介した。


「すごいです! 無事に助けられたのですね!!」

「おめでとうございます!!」

「さすがは 真王まおさまです!!」

「社長、ご苦労様でした」


 ははは。

 このまま終わりたいんだがな。

 

 ことはそう簡単じゃないんだ。


「ま、ま、 真王子まおこちゃん!? 君が社長って、ど、どういうこと!?」


「ここじゃなんだしな。2階の会議室で話そうか」


 風間は混乱しっぱなしだった。

 会議室につくやいなや。


「も、もしかして、君は鉄壁さんの妹なのかい!?」


 やれやれ。

 先走って考察するのはどうやら癖になっているようだな。


 でも、こいつは信用できる。

 ダンジョン爆弾の実験を見ていた時にわかったんだ。

 こいつは自分の無力さに泣いていた。

 心の底から、捕まった人たちを助けたいと思っていたんだ。

 それに、まだ会って半日も経っていないが、所作でわかる。

 ハッキリいっていいやつだ。年下の 真王子まおこにしっかりと気を使えるやつだった。まぁ、少々、自慢話が好きな困ったところはあるけれど、悪いやつじゃないのは確実だ。

 だから、全部打ち明けてやろう。


 俺は、 偽装カモフラスキルを解除した。


「さぁ、これで会話もしやすくなっただろ」


「ま、 真王子まおこちゃんが男になった!? だ、誰なんだ??」


「初めましてってのもなんだかおかしい感じだがな。俺が片井  真王まおだ」


「え? え??」


「暗奏を攻略した時に新しいスキルを覚えてさ。 偽装カモフラっていうユニークスキル。目で見た映像はコピーできる」


「え? え??」


 やれやれ。

 試しに風間に変装して見せる。


「ほれ。これでわかったろ?」


「ぼ、僕だ!? そんな……」


「声も同じなんだぜ」


「し、信じられない……」


「じゃあ、解除するな」


 俺は片井  真王まおの姿に戻った。


「やっぱ、元の格好が楽でいいや」


「じゃ、じゃあ、あ、あの……。あ、あなたはその……」


「ああ。 真王子まおこは仮の姿さ。本来はこっち。俺は男だったんだよ」


「あ……えーーと……。つ、つまり……その……」


 うん?


「まぁ、驚くのも無理はないか。女の子と思っていたのが男なんだからな。ああ、一応、俺は22歳な」


「えーーと……。その……」


「よし。とりあえず、総理に電話するか」


「ま、待ってください!」


「なんだ? トイレか? それならこの会議室を出て右に曲がった通路沿いにだな」


「ち、違います!」


「……じゃあ、なんだよ?」


「あ、あ、あなたが……。て、て、て、鉄壁さんなんですか?」


 ああ、なんだ。

 そんなことか。




「まぁね。ネットではそんな風に愛称で呼ばれているよな」




 そういえば……。


「おまえ、配信は邪道とかいってたよな? このビルはその配信で大きく発展したんだよな。だから、そんなビルに入るのは気が引けるかもしれないけどさ。まぁ、ゆっくりしてくれよ」


「あ、あああああああ……。ほぁああああああああ……」


 と、そこに 衣怜いれが入って来た。

 どうやら学校帰りのようだ。

 制服姿が眩しい。


真王まおくん、お帰りーーーー! って、ど、どうしたの?」


「いや……。俺もよくわからん」


「この子、体調が悪いの?」


「あーー。多分違うと思う」


 風間は土下座をしていた。

 もう、土下寝といっていいほど頭を床につけている。


「い、い、い、い、い、今までのご無礼。た、た、た、た、大変に失礼いたしました。ま、ま、まさか、あなたが助けに来てくれていたとは! ま、まったく気がつきませんでいた。ほ、本当に申し訳ありませんでしたぁああ!!」


 やれやれ。

 

「そうかしこまらなくてもいいって」


 それでも風間はしばらく頭を上げてこなかった。

 全身は汗だく。

 もう耳まで真っ赤になっている。

 よほど、反省しているようだ。

 別に気にしてないんだけどなぁ……。


 俺は 衣怜いれに風間を紹介した。


「男の子なんだ……。見た目は女の子みたいだね」


「よ、よくいわれます。声変わりもあんまりしていないようです」


「ふふふ。でも、可愛いは正義だからね。それは長所だよ」


 風間は顔を赤らめて恐縮していた。


 そして……。


「て、鉄壁さん!!」


「な、なんだよ?」


「僕を弟子にしてください!!」


「はぁああああ?」


「以前から尊敬していました!! 会うことができたら弟子に志願しようと思っていたのです!!」


 いや、そういわれてもだなぁ。

 弟子なんか募集していないんだ。

 そもそも、


「配信業は邪道なんだろ?」


「申し訳ありませんでしたーー!!」


 ああ、また土下寝モードだ。

 この話題は触れない方がいいようだな。


「これからは心を入れ替えます! 配信、雑用、なんでもやります! どうか弟子にしてください!!」


 急にいわれてもなぁ。


「うむ! 許可します!!」


「おい、 衣怜いれ!!」


「ふふふ。いいじゃない。風間くん可愛いし」


「あのなぁ……」


衣怜いれ姐さんありがとうございます!!」


「わ、私が姐さん?」


「はい! 師匠の恋人ですから、僕にとっては姐さんです!!」


「うん。悪くないわね。弟……。いや、妹ができた気分ね。風間くん。これからもよろしくね」


「はい!! よろしくお願いします!! 姐さん!!」


 やれやれ。


「俺は師匠になる気なんかないからな」


「安心してください! そばに置いていただけるだけで嬉しいんです!! 掃除、洗濯、荷物持ち、なんでもやらせていただきます!!」


「いや。とりあえず却下で頼む」


「ええええええええええ!? な、なんでですかぁあああ?」


 なんでって……。

 

「俺はそんなに偉くはないんだ。弟子をとる器じゃないよ」


「そんなことありません! 師匠はすごい人です!!」


 そもそも、弟子になにを教えるんだよ??

 彼にとっても徳がないだろう。

 絶対に、俺が師匠になんかなっちゃダメだよな。

 そうだ。


静寂の森サイレントフォレストのメンバーで師匠を探せばいいじゃないか」


「先輩方は尊敬はしていますけどね。やっぱり探索仲間なんですよ。僕の師匠になれる方はやはりあなたしかいません!」


 やれやれ。

 随分と高く評価されたもんだな。

 でも、


「弟子は取らないことにしているんだ。悪いが他をあたってくれ」


「はうぅううう……」


「なので、俺のことは片井と呼ぶように。 真王子まおこの時は 真王子まおこちゃんでいいからさ。いいな?」


「は、はい師匠……。じゃなかった。わかりました片井さん」


  衣怜いれは、しゅんとする風間の頭を撫でた。


「よしよし。そう落ち込まないの」


「うう……。姐さん」


 こうやってみると、本当に姉妹に見えるな。

 

 さて、


「それじゃあ、総理に報告しようか。風間が日本に帰って来たことを知ったら喜ぶぞ」


「じゃあ、私は古奈美さんを呼ぶね。この前、会えなかったのをめちゃくちゃ後悔してたからね」


 母さんが来てくれるのはタイミングがいいな。

  元老院セナトゥスの動きは防衛省とも連携をとりたいからな。

 総理には母さんと一緒に報告しようか。


 しばらくすると、彼女は来た。

 その顔は必死である。


真王まお!」


「あれ、なんか来るのが早かったね?」


 俺を見るなり抱きついてきた。


「うぉ!」


「良かった! 無事だった!!」


「お、おいおい……大袈裟だな」


「心配した」


むぎゅぅううう……。


「んぐ。苦しい……」


真王まお……。良かった」


 へぇ……。

 なんか意外だったな。

 こんなに熱い人だったのか。


 父さんと離婚した時はクールだったしな。

 家族のことなんか無関心なんだと思っていたよ。


 聞けば、俺が 粘土使いクレイマンと戦った動画を観たらしい。

 そこから胸騒ぎが止まらなかったのだとか。

 たしかに、相当に強い探索者だったからな。

 それから何回か日本には来ていたけど、結局すれ違いだったし。

 相当にやきもきしていたようだ。


「こ、この人防衛大臣ですよね?? 氷の女王。またの名を美乳すぎる美魔女。防衛大臣がどうして師匠を?? こ、これはどういうことでしょうか?? 師匠ぉ??」


 どうでもいいが俺を師匠と呼ぶんじゃない。

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