第201話 風間の帰還

〜〜ベロファー視点〜〜


 僕は会議室の上座に座っていた。


 聖域に入った壁野  真王子まおこの今後を話し合うためだ。


 メンバーの中には彼女をよく思っていない者も存在する。


「俺っちは、仲良くする自信がありませんね。こそこそ隠れて行動するのがどうにも気に入らないってばよ」


 褐色肌のエルフ、ギーベイクが目を細めた。


「あなたの許可は重要ではない。 真王子まおこの処遇はベロファーさまが決めることだ」


「んだと、このエルフ野郎がぁ!!」


 やれやれ。


「内輪揉めはやめてくれ。壁野  真王子まおこ、こと鉄壁さんは強敵だ。おいそれと判断を下すのは難しいよ」


 それに、


「鉄壁さんは本当に堅牢の勇者なのだろうか?」


「その可能性が高いです。黙示録では日本が出生場所と断定されておりますし、なにより防御魔法を強化して戦う探索者ということです。こんなことができるのは彼しかおりません」


「そうなると、を消滅させるのも彼だけになるな」


「そうです。魔神  魔窟神アンダルガーを封印できるのは堅牢神ガーディインの加護を受けた者だけ。つまり、堅牢の力を使いこなす彼だけなのです」


 魔神  魔窟神アンダルガー

 魔素を扱う最強のSSS級モンスター。

 その力には時を止める能力すらも敵わない。

 こいつを倒せるのは最強の探索者、堅牢の勇者だけだ。


  魔窟神アンダルガーが復活すればこの世界は終わる。


 一度だけ討伐に挑戦したことがあった。

 しかし、とても敵わなかった。

 おかげで、僕の耳裏の皮膚は鱗になっている。

 これが魔神  魔窟神アンダルガーの力。


 僕の力じゃまだ勝てない……。


「堅牢の力なら 鱗化スクアマーも治るのだろうか?」


「あらゆる力を防ぐといいます。きっと治してくれるでしょう」


「でも、鉄壁さんは、まだ覚醒はしていないのだろう?」


「はい。彼はまだ力に目覚めていません。黙示録にも力を体内に秘めていることが記されています」


 それなら……。僕という可能性もある。

 僕はイタリア人だが、黙示録の未解読の部分に載っている可能性があるんだ。

 まだ、力に目覚めていないだけという……。


「彼以外の人間が堅牢の勇者という可能性もあるよね?」


「……解読はまだ完全ではありません。たしかにその可能性は十分にございます」


 自分の可能性に期待したいな。

 最強の探索者というなら、僕しかいない。

 なにせ、僕がこの世界を支配するんだからな。


 しかし、片井  真王まおの可能性が高いのなら、今のうちに懐柔しておくのがベストだろう。最強の存在が僕の部下ならば、なにも問題はないのだからな。

 堅牢の勇者に 魔窟神アンダルガーを討伐してもらって、世界は僕が支配する。

 そのためには彼の弱みを握ることが重要だな。鉄壁さんを僕の意のままに操るだけの絶対の弱み……。


 部下が会議室に入って来た。


「ベロファー様。ジェ・レスペクトの店長から連絡が入りました」


「ほぉ」


「料理は最高のもてなしをしたそうです。そして、今、店を出たとのことです」


 僕は監視室に来ていた。


「今、店から連絡が入った。2人は部屋に帰ったようだ」


 設置される画面には風間の部屋が映る。


 ふふふ。

 あの部屋にはね。風間が外した盗聴器が全てではないんだよな。

 超小型の監視カメラが一台だけ生きているのさ。

 油断するだろうと思ってね。

 風間が盗聴器を外したことはあえて放っておいたんだ。


 それにしては画面が真っ暗だな?

 今はまだ昼の3時なのにさ。

 

「2人はまだ帰ってないのかな?」


 監視員は眉を寄せた。


「いえ。さっき帰宅したのですが……。その……。お楽しみでして」


「お楽しみ?」


「はい……。ど、どうやら2人は恋人同士のようですね」


「ええ??」


「部屋に帰るやいなや、抱き合ってベッドの中に入ってしまいました」


 おかしいな?

 そんな雰囲気はなかったけど……。

 

「録画は見れるかい?」


「はい。ご用意いたします」


 録画を見ると監視員のいうとおりだった。

  真王子まおこは風間に抱きつき、そのままベッドの中に入ったようだ。

 

 意外だったな。

 2人は恋人同士だなんて……。


 しかし、恋人を助けるためにこの島に来たとなれば辻褄が合うな。

 つまり、僕の前では他人の振りをしてたってわけだ。

 ふふふ。恋人同士となれば、あのコルという女より人質の価値は高くなる。

 鉄壁さんの弱点ってわけだ。


「ふふふ」


 鉄壁さんの弱点を見つけたことはかなり進展だぞ。

 なんとしても、やつを服従させなくちゃ。


「それにしても照明を消すと暗くて見えないな」


「暗視モードはありませんからね」


「今度、暗視モードをつけようか」


「え? お、お楽しみを見たいんですか?」


「は?」


「ベロファー様もお好きなんですね。へへへ」


 やれやれ。

 この僕が随分と舐められたもんだな。

 この監視員……。たしか、モブリオだ。

 少しだけ、立場をわからせてやるか。


「モブリオ……。君は誰に口を利いているのかわかっているのか?」


「え?」


「聖域には10軒の飲み屋がある。君はその内3軒に通い詰めているね。仕事終わりには必ず行っているかな。通うには理由があるよね。自分好みの店員がいるからだ」


「な、な、な、なんでそんなことを……?」


「この前、その店員をデートに誘って断られたろう?」


「あ、ああああ……。ど、ど、どうしてぇええ!?」


「僕は、君がその日の晩にナニをやったかも知っているぞ」


「ああ……」


「1人で自分の股間を慰めるのは惨めだなぁ?」


「ああああああ……」


「こんなことを実家の母親に知られるのは嫌だろう? 母親は病院で寝たきりだもんな」


「あわわわわ……」


 やれやれ。

 他人の弱味を握るなんてのは空気を吸うように簡単なんだ。


「僕に対する口の利き方には気をつけろよ。僕は、君のことならなんでも知っているんだからな」


「は、はひいぃいい……」


 聖域には監視室が5カ所もあるんだ。

 その全てが僕の配下。

 聖域に存在する部下のプライベートは全てこの僕が把握しているのさ。


「これは、あくまでも監視だよ。聖域の治安維持には必要なことさ。だから、下品なジョークはやめてくれないか」


「し、失礼いたしました!」


「君は監視のプロだろう? 僕に失望させないでくれよ」


「しょ、しょ、精進いたします!」


 ……まさかとは思うけど、


「ベッドの中でヒソヒソ話をしてる。なんてことはないよね?」


「音声が聞き取れません。風間が盗聴器を外す際にダミー用に音がなる機材を設置したようなのです。今回は、それが邪魔をして室内の音が聞き取れなくなっていますね」


「……じゃあ、今度、風間が外出をしたらスピーカーを改良してカメラも暗視モードを設置しようか」


 念には念をだな。

 鉄壁さんは油断できない男だ。

 VIP待遇にはするが徹底的に監視だけはさせてもらう。


 おそらく、彼のことだから風間と2人で逃げることを考えているだろうな。

 ふふふ。

 この聖域に入ったものは何人たりとも出ることはできないのさ。

 僕の許可なしにはね!


 今は、彼に負けているけどね。

 このチャンスに巻き返してやるよ。

 彼の弱みを知れば必ず勝機が芽生えるはずだ。

 なんとしても部下にしたい。

 鉄壁さんが入れば 元老院セナトゥスは更に強い組織になれるんだからな。


 そのためには、なんとしても弱点を握る。

 その1つが謎の移動アイテムを奪うことだ。

 

 彼の所持品は全て預かっている。

 その中に怪しいアイテムはなかった。

 そうなると寮の部屋に置いていることになるが……。


 監視室の部下が入ってきた。


「ベロファー様。壁野  真王子まおこの部屋を捜索してまいりました」


「バレないようにやったろうな?」


「はい。指示されたとおりに学生寮の管理人を買収して入りましたから問題はありません。また、室内は入室前に写真を撮って復元作業に努めました。クローゼットの隙間3センチでさえ問題なく復元されております。我々が入った痕跡はなに一つ残らないかと」


 よし。


「それで……見つかったのかい?」


「いえ。怪しいアイテムはこれといって……」


 うーーむ。

 やはり隙はないか……。


「ただ……」


「お! なにか見つかったのか?」


「下着が男物でした」


「……くだらないな」


 彼は変装スキルを使うからな。

 部屋の中では男に戻っているんだろう。


 それにしてもわからないな。

 移動アイテムはどこに置いているんだろう?

 もしかして、僕と同じように亜空間収納箱アイテムボックスのスキル持ちなのかな?

 そうなると仕舞っているいるのは亜空間だけになるけど……。


 おそらくそれはないだろうな。

 彼が暗奏で配信をしていた時は、仲間の沖田  衣怜いれに収納してもらっていた。

 自分でできるなら、とっくに使っているだろう。

 それに、暗奏は命懸けの攻略だったはずだ。そんなダンジョンで能力を隠すとも思えない。

 やはり、彼が使えるのは防御魔法と変装スキルだけなんだ。


 変装スキルは、暗奏を攻略した際に身につけたんだろうな。

 暗奏の攻略以前にはそんなスキルを持っている情報はなかったからね。


 なら、移動アイテムはどこにあるんだ?

 寮の部屋とは別の場所に隠しているのか?


 一体、どこに置いているんだろうか?

 


⭐︎



〜〜風間視点〜〜


 僕は 真王子まおこちゃんの案内であるビルの前までやって来ていた。


 片井ビル、と看板に表示がある。


 か、片井といえば、伝説の探索者、鉄壁さんの本名だったはず。

 これは 静寂の森サイレントフォレストの中では有名な話なんだ。


 でもまさかだよね?


  真王子まおこちゃんが、鉄壁さんのビルに入れるなんて……。

 まさか、彼と繋がりがあるなんてあり得ないよね?


「ま、ま、 真王子まおこちゃん……。まさかとは思うけどさ。こ、ここは鉄壁さんの住んでるビルじゃないよね?」


「へぇ。よく知ってるな。 光永みつながさんに聞いたのか?」


 マジかぁ……。


「ど、どうして君がこんなビルを知っているんだい? 僕だって行ったことがなかったのにさ」


 恐れ多くて行けないよね。

 ここは憧れの探索者が住むビル。いわば聖地なんだからさ。


「なんでっていわれてもなぁ……」


「まさか、住んでるとか? ははは、それはないか」


「住んでるけど?」


「え!? て、鉄壁さんと同じビルに!?」


「1階が事務所だからさ。入ろうぜ」


「え!? いや、あの……。ま、 真王子まおこちゃん、ちょっと待って!!」


「なんだよ?」


「ぼ、僕たちが入っていい場所じゃないよ!!」


「なんで?」


「君はB級だろ! そんなレベルの探索者が気軽に会える人じゃないんだよ!!」


「いや。そうでもないって」


 ああ、なんなんだこの子はぁあああ?


 そ、そうか!

  真王子まおこちゃんはくの一だから……。


「ま、まさか、鉄壁さんも手籠にしたのかい!?」


「なんのことだよ?」


「き、君の寝技だよ!」


「エロいなぁ……」


「い、い、一般論だ!!」


「いいから入ろうって。話はそっからだ」


「そ、そんな気軽に!?」


「だって、おまえの感じじゃあ入った方が話が早いからさ」


「いやいやいや! 君は、分をわきまえる、という言葉を知らないのかい!? 事前のアポなしに訪問するなんて失礼がすぎるんだよ!!」


「大丈夫だってば。いこいこ」


「ああああ!」


 僕は強引に中に入れられた。

 従業員が集まってくる。

 全員が女性のようだ。


 と、とにかく謝ろう!


「申し訳ありません! きゅ、急にお邪魔して!! わ、わたくし、風間 潤志郎と申します!!」


 しかし、女の人たちは僕を無視して 真王子まおこちゃんに集まった。


 え? なにが起こった!?


「社長!! お帰りなさい!!」

真王まおさまだ!!」

「社長!!」

「片井社長!!」

「あは!!  真王まおさまーー!!」

「片井さま!! お帰りなさいませ!!」


 ええええええええええええええ!?

 ま、 真王子まおこちゃんが社長!?

 どういうことだぁ!?


 く、くの一じゃなかったのか??

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