第200話 日本に帰る

 俺たちは高級フランス料理店を出て、風間の部屋に向かった。


 道中で適当なダンジョンを発見する。


 良かった。


「聖域の中にもダンジョンはあるんだな」


「ジーストリアはダンジョンの発生率が高い場所だからね」


「駆除はしてるのか?」


「毎週日曜日にね。一斉に駆除するんだよ」


 なるほど。

 んじゃあ、今日は駆除されないわけだ。

 条件は揃ってるな。


「ちょっと入ろう」


「え!? 探索するのかい?」


「まさか。覗くだけだから。入り口だけな」


「ダンジョンの入り口なんてどこも同じだよ?」


「ふふふ」


 これにはちゃんと意味があるんだよな。

 念のため2、3個覗いておこうか。


 これでは完了した。


 俺たちは風間の部屋に戻った。


「君はこの島を出る方法があるとかいってたけどさ。そんなことは不可能だよ。ここに戻るまでもさ。銃を持った兵士が大勢いてたでしょ? 厳重警備だからね。怪しい動きなんかしたら速攻で拘束されてしまうよ。最悪は銃殺されてしまう」


 窓のカーテンは閉めようか。

 とにかく外からこの部屋が見えるのはまずい。


「どうしたんだい? まだ3時だよ?」


「望遠鏡で監視されているかもしれないしな」


「な、なるほど……。でも、見られて困ることはないと思うけど?」


「……お楽しみはこれからだ」


「お、お楽しみ!?」


 風間はこの部屋の盗聴器を全部取り外したといっていたがな。

 どんな形で見られているかはわからない。

 念には念をだ。

 だから、照明も、


「ま、 真王子まおこちゃん。電気を消したら暗くなっちゃうよ!?」


「こっちの方がいいだろ?」


「な、なにが!?」


 さぁて、こんなことは嫌だがな。

 既成事実は必要か。


 俺は風間に抱きついた。


「ま、ま、 真王子まおこちゃん?」


「ベッドに行こう」


「え!? え!? え!?」


「いいから」


 風間は見た目が女の子みたいだからな。

 これは側から見たら百合展開なんだろうな。


 俺は風間をベッドに乗せて馬乗りになる。


「ま、ま、ま、 真王子まおこちゃん。ちょ、ま、待って!」


「いいだろ?」


「いや、あの! た、た、たしかに君は可愛いよ。正直好きなタイプだ。で、でもこういう形はよくないんじゃないかな!?」


「恥ずかしいからシーツを掛けよう」


 この中なら誰にも見えないだろう。


「ま、 真王子まおこちゃん! ぼ、僕たちは出会ったばかりだ! そ、その……。君のことは嫌いじゃないが、こういうことはもっとお互いの理解を深めてから……」


 ふふふ。

 俺の所持品は聖域の入り口で没収されたけどさ。

 胸の谷間に忍ばせておいた、はわからなかったんだよな。

 見た目は俺の体そっくり。 偽装カモフラスキルで偽装しておいたんだ。


 そういって取り出したのは黄金の取っ手。


 てれてれってれーー!

 どこでもダンジョン〜〜。


 と、心の中でいってみる。


「ちょっと、風間、どいてくれ」


 シーツの中じゃ動きにくいよな。


「ちょ、ま、 真王子まおこちゃん強引だよ!」


 布団に扉を発生させてっと。


ガチャ……。


「中に入ろう」


 行く先はジーストリアのダンジョンだ。

 黒いチューリップの事務所近くのダンジョンにした。


 俺たちが扉の中に入るとダンジョンの入り口の天井から落っこちた。


ドスン。


 痛ぁ……。


 下に向けて扉を発生させると、ダンジョンの天井に出るのか。


「ご、強引すぎるよ 真王子まおこちゃん! で、でも、そういうところも嫌いじゃないよ。ぼ、僕は……。その……。初めてだけど……。んーーーー」


 と、目を瞑って口を尖らせてた。

 やれやれ。

 こいつの初めてをもらうつもりはないんだ。


「風間。こっちだ」


「んーー。 真王子まおこちゃん……」


「風間ってばよ」


「んーーーー。好きだ……」


「盛り上がってるところを悪いんだけどさ」


「んーーーー。え……? あれ? こ、ここ……どこだ!?」


、ジーストリアのダンジョンだ」


「え!? ダ、ダンジョンだって!?」


「とにかく外に出よう」


「な、なんで僕たちがダンジョンにいるんだ!?」


 ダンジョンの外は黒いチューリップの事務所近くだった。

 少し歩くと青果店ベジタルマートに到着する。


「ヤミエール」


「ま、 真王子まおこさま。戻ってきてもよろしいのですか? 今は聖域に入られたのでは?」


 流石はスパイ専門のチームだな。

 俺が 元老院セナトゥスのスカウトにあって聖域に入ったことは知っているのか。

 だったら、話は早い。


「実は日本に帰る用事ができた」


 そういって風間を紹介する。


「ま、ま、 真王子まおこちゃん!? このエルフは誰なんだい?」


「心配するな。俺たちの仲間さ」


「な、仲間!?」


「彼女はヤミエール」


 ヤミエールは丁寧に頭を下げた。


「風間さま。ご無事でなによりでございます。そして、 真王子まおこさま。風間さまの救出おめでとうございます。流石は 真王子まおこさまでございます」


「ま、 真王子まおこちゃんが様付けで呼ばれているんだけど……。ど、どういうこと!?」


 説明はあとにしよう。

 今は時間が惜しい。


「これから日本に戻る。変装用の服を用意してもらえるか?」


「承知しました」


 俺は彼女から帽子と眼鏡をもらった。

 風間にはフードのついたパーカーを着てもらう。


「な、なんで顔を隠すの?」


  偽装カモフラで偽装はできるんだがな。

  密偵腕輪スパイバングルで千分の一に弱体化されているからな。

 地上で使える範囲は5メートルと決まっているんだ。


「向こうに着くのはダンジョンなんだ」


 どこでもダンジョンは万能じゃない。

 地上からダンジョンには行けるが、ダンジョンから地上には行けないんだ。

 だから、日本に戻った場合は片井ビルの近くのダンジョンに到着する。よって、ビルまで歩かなければならない。

 俺はネットで目立っているし、風間はジーストリアで死んだことになっているからな。

 とりあえずは目立たないように変装が必要なんだ。


「僕が顔を隠す意味がわからないよ??」


 そりゃそうか。


「まぁ、ついてくればわかるって」


 そういってどこでもダンジョンを使う。

 

「と、扉が発生した!?」


「じゃあ、ヤミエール。行って来るよ」


真王子まおこさま」


 と、顔を曇らせる。


「どうした?」


「ベロファーの一味と思われる集団が、 真王子まおこ様の学生寮に侵入いたしました」


 やれやれ。

 俺が聖域に入っている間に影でこそこそしてるなぁ。


「ま、取られて困る物はないしな。問題ないよ」


 おそらく、ベロファーの狙いはどこでもダンジョンだ。

 念のため、肌身離さずに持ち歩いているからな。


「賊を拘束しようかとも思ったのですが、まずは報告を優先して静観いたしました」


「うん。そうしてくれると助かる。黒いチューリップが動けば、俺に仲間がいることがバレてしまうよ。ベロファーは危ないやつだからな。慎重に行動しよう。しばらくは報告だけを優先してくれ。くれぐれも大胆な行動は取らないように頼む」


「承知しました」


「すごく助かってるよ。ありがとう」


 ヤミエールは全身を赤らめた。


「お、お褒めにあずかり、きょ、恐悦至極に存じます!」


「ははは。そう畏まらないでよ」


「はう……」


「んじゃ、行って来る」


「お、お気をつけて」


 扉をくぐればそこはダンジョンの入り口だ。


 んで、出口に出れば……。


「こ、ここどこぉ!? ジーストリアじゃないんだけどぉお!?」


「ふふふ。どこだと思う?」


 風間はきょろきょろと辺りを見渡して、日本語の看板に気が付く。


「日本だ! すごい!! ここは日本じゃないか!!」


 驚くのは無理もない。

 ジーストリアから日本までは約7千キロは離れているんだからな。

 時差は2時間だから、日本は13時だ。


「し、信じられない……。に、日本だぁ……。うわぁあ……。帰ってきたんだぁ……。これ……。夢じゃないよね?」


「フードを被っとていてくれよな。ないとは思うけどさ。一応、日本にも 元老院セナトゥスが来てる可能性があるからな」


 俺たちは片井ビルに到着した。


 見上げて思う。


 ふふふ。

 この看板を見るとなんだか安心するよな。

 特に海外から帰って来ると感動はひとしおなんだ。

 やっぱり我が家はいい。


「え? ちょ、ま、 真王子まおこちゃん?? このビルって!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る