第199話 勇者の正体は……

「それはウィルスの攻撃さえも抑止する」


「え?」


「勇者の力はダンジョンウィルスを浄化する。感染した人を元に戻すことができるらしい。黙示録にはそう書かれているんだ」


「堅牢の勇者すごいな」


 はい。俺じゃないこと確定ーー。

 やったことはないが魔法壁を強化してもウィルスは防御できないと思う。

 それに、感染者を元に戻すってことは完全に俺の専門外。


「勇者は治癒の魔法とかスキルを使えるってことか?」


「いや。封印に近いね。進行するウィルスを防御する力らしい」


 あくまでも防御なのか……。

  潜伏ハイド 防御ディフェンスに近いのかな。

 でも、俺の防御魔法は風邪を予防したりはできないからな。

 やっぱり俺ではなさそうだ。


「堅牢の勇者は僕たちにとって希望さ。魔族から人類を守る救世主だね」


「でも、そんなすごいやつならさ。もうすでに頭角を出してるんじゃないのか?」


「ふふふ。そうなんだ。解読班の中では、僕がその勇者に該当するという論争も起きている」


「ほぉ」


「なにせ僕は生粋の日本人だ。なにより、勇者になる実力は申し分ないよね」


「おまえ、ベロファーに勝ったのか?」


「そ、それは……。勇者の力に目覚めればあんなやつイチコロさ!」


「早く目覚めてくれよ」


 風間はしょんぼりした。


「……ま、とはいえ僕が勇者なのは期待薄かな」


「どうしたんだよ? 天才探索者」


「はぁ……。僕はなんとなく目星がついていてね」


「誰なんだ?」


「終焉を封印した探索者さ」


 終焉とは、オーストラリアに発生したSSS級ダンジョンのことだよな。

 あそこを封印したとなると相当な実力者だが……。


「あの探索者が堅牢の勇者だよ」


「終焉は大勢で封印したんじゃないのか? 世界中のS級探索者が集まってさ。特定の人物なんて聞いたことがないが?」


「表向きはね。でも、聖域の中じゃあ有名な話だよ。凄腕の探索者がいるってね。きっとその人が堅牢の勇者なんだよ」


 配信してくれてればこんなことにはならなかったのにさ。

 やっぱりダンジョン配信って偉大なんだよな……。


「その凄腕の探索者ってどんな人なんだ?」


「ランクはD級でね。とんでもなく低いんだけど。世界中の誰よりも腕が立つ探索者らしい」


「へぇ」


 D級ってことは俺と同じじゃないか。


「その人も日本人なのか?」


「おそらくね」


 等級が低いから噂にならなかったのかな?


「性別はわからない。男でも女でも使える名前だからね」


「へぇ。教えてくれよ」


「MAKOTOと呼ばれているよ」


「え!?」


「せめて漢字でもわかれば正体が掴めるんだけどね。解読班がわかっているのはここまでさ」


 いやいやいや。

 偶然か?

  真呼斗まことといえば俺の父さんと同じ名前じゃないか。


 オーストラリアのSSS級ダンジョン終焉を封印したのは父さんなのか?


「MAKOTOの名前で日本人をピックアップして探せばすぐだろ?」


「渡航方法が不明なんだよ」


「なんで!? えーーと、探索者のことは環境省直属の探索局が担当か!」


「局が把握しているのはB級までだね。それ以下は探索協会だよ」


「じゃあ、局を通じて協会に連絡してさ」


「それが無理なんだよねぇ」


「なんで?」


「協会は非認可の団体も多くてね。ちまたじゃ『ギルド』なんて呼ばれてるけどさ。日本には1万以上もの団体が存在するらしい」


「でも、その協会の情報を集めているのは探索局だろ?」


「うん。日本に書面で問い合わせた時は次長の 曳替ひきがえが担当していた」


「えええ……」


  曳替ひきがえといえば、カーシャに暴力を振るった最低な男だ。

 俺が考案した青い飴を食べて監視状態にしてるんだよな。


「でも、断られたんだよ。あの人、金にならないことは一切やらないんだ」


  曳替ひきがえらしいな……。

 しかし、もうあいつはいなくなった。自己都合退職したからな。

 今はカーシャが局長だ。


「今は新しい局長が就任したみたいだけどさ。上層部の情報規制が厳しくなってね。僕からの書面が通らなくなったんだ」


「ベロファーにいえば通るんじゃないのか?」


「難しいと思うよ。ジーストリアの上層部は各国と繋がりを持ちたくないからね。外交はさける傾向にある」


「なぜだ? 堅牢の勇者を見つけたいんだろう?」


「ベロファーは、 元老院セナトゥスが独占している魔炎石の採掘場を知られたくないのさ。だから、上層部とも関係を持ちたがらない」


「?」


 えーーと。こんがらがるな。

 ……あ、そっか。 元老院セナトゥスは上層部と対立しているんだった。

 だから、


「採掘場と黙示録はジーストリアの上層部は知らないんだっけ?」


「うん。これらの情報は全て 元老院セナトゥスの独占だよ。 密偵腕輪スパイバングルもね。上層部は存在すら知らないと思う」


 なるほど。

  元老院セナトゥスも俺たちと同じで情報規制を受けているんだ。

 簡単に外部に連絡はできないのか。

 だから、日本と連絡が取れない。


「上層部は血眼になって魔炎石の採掘場を調べようとしているよ。あそこはすさまじい金脈になるからね。 元老院セナトゥスは絶対に隠したいから、上層部との接点を極力持ちたくないのさ」


「じゃあ、ベロファーも国外と連絡を取る手段はないのか」


「そうなるね。あくまでも、 元老院セナトゥスはジーストリアにとって用心棒だから」


 国を動かしているのは上層部か……。


 しかし、解せんな。

 ベロファーが大人しく上層部を放っておく理由がわからない。

 時を止める能力と 密偵腕輪スパイバングルを持っていながら、上層部に逆らえないなんて……。

 

 時を止めれれば暗殺や脅しなんて簡単に……。


 あ、そうか!

  密偵腕輪スパイバングルは、地上で使う場合、千分の一に弱体化するんだ。

 つまり、やつの時を止める能力も弱体化する。

 あいつは何分、止めれるんだろう?

 俺と戦った時は──。

 秒かな? 詳細は不明だが1分は無理だろうな。

 仮に30秒止めれるとして、それを千分の一に弱体化させたら……、


 0.03秒か。


 ははは……。こんな短い時間じゃ何もできないな。こりゃ使いもんにならん。


 だんだんとわかってきたぞ。

 あいつが俺にこだわる理由。


  元老院セナトゥスは力が欲しいんだ。

 だから、俺を勧誘する。


 風間の環境をよくしているのも、その一環だろう。

 反抗されるより協力的でいてくれた方がなにかと便利なんだ。


 聖域に軍人が大勢配置されているのもそういうことだろうな。

 ベロファーはダンジョンの中だと最強かもしれないが、地上じゃただの少年だ。

  密偵腕輪スパイバングルを使いこなせる分、俺の方が圧倒的な強さだろう。

 結局、あいつは軍事力で制圧しているだけなんだ。


「今はまだ堅牢の勇者が誰かはわからない。解読にはまだまだ時間がかかりそうさ」


「勇者がわかれば、その人がダンジョンウィルスの侵攻を止めてくれるのか?」


「黙示録にはそう書かれているね。魔族がウィルスを使って世界征服を企んでも勇者によって阻まれるって」


「じゃあ、そのMAKOTOさんを探せば、なにかわかるかもしれないな」


「だから、無理だって」


「やってみなくちゃわからない」


「色々やったんだよ。そもそも、日本と連絡が取れないんだからさ。君は僕を助けに来てくれたけど、これって実質監禁だよ? 高級フレンチを食べたりさ、ネット通販は厳しい検閲の元で気軽にできるけどさ。その他のメールやSNSは不可能なんだ。僕たちは外に出ることすらできないんだよ。打つ手はないって」


「んーー。そうでもないかもな」


 風間は声をひそめた。


「君はくの一だ。……ここから逃げる忍術でもあるのかい?」


 まぁ、忍術ってか、アイテムは持ってるな。


「ここには私物は持ち込めない。スマホすら没収だ。…………アイテム関連は聖域の入り口で没収されただろうしさ」


「ふふふ。まぁ、いいから早く食って出ようぜ。話しの続きは部屋に帰ってからだ」


────

明けましておめでとうございます。

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