第198話 堅牢の勇者

 俺と風間は聖域の中で運営する高級なフランス料理店に来ていた。


 少し遅めのランチだ。


 そこはとても雰囲気がよく、店内には耳心地のいいお洒落なクラッシックが流れ、壁には絵画が飾っていて、柔らかい室内灯がテーブルを照らしていた。


 流石はベロファーの一押しだな。


 メニューを見たら、目ん玉飛び出るよ。

 トマトパスタが62ユーロもするんだ。

 日本円で約1万円だぞ。

 どんだけ高いんだよ。


 まぁ、ベロファーいわく、俺はVIP待遇らしい。

 店員に聞いたら「お代はいただきません」という丁寧な返答があった。

 そればかりか、優しくお辞儀をされて「ベロファー様には、最高のおもてなしをするようにと言われております」ということだ。


 よって、俺は高級フレンチをただで食べながら、 元老院セナトゥスに関連することを風間から聞くことにした。

 懐柔されてるわけじゃないけど、利用できるもんは使っておこう。


 それにしても、このオマール海老はプリプリで美味いな。


「そういえばさ。堅牢の勇者ってなんなんだ?」


 風間は料理を食べるのをやめた。


「堅牢の勇者は黙示録に載っている、悪役のことなんだ」


「悪役?」


「黙示録は魔族が正義として書かれていてね。地上を侵略する方法が記されている」


「へぇ……。地球を救う書物じゃないのか?」


「どちらかというと魔族の手引き書だね。効率的に人間を制圧してさ、地上を征服する方法が書かれているんだよ」


 なるほど。

 魔族だもんな。


「黙示録は人間のために書いたんじゃなかったのか」


密偵腕輪スパイバングルもね。魔族が地上を制圧するために作られたアイテムなんだよ」


 ああ、たしかにそうだった。

 スパイ活動のためのアイテムだしな。


「魔族はダンジョンウィルスや 密偵腕輪スパイバングルを使って、この地上を制圧しようと考えてたのか?」


「うん。資金源は魔炎石の採掘場を使う。黙示録にはそう書かれているね」


 そうなると、


「黙示録には魔族が地上を襲う方法が書いてあるから、そこから人類がとれる対策を考えるってことかな? つまり、逆説で解釈していると?」


「そういうことだね。その魔族たちの弊害になっているのが堅牢の勇者なのさ」


 魔族の敵ってわけか。だから悪役。


「勇者は魔族を倒す。堅牢の力を使ってね」


「それってどんな力なんだ?」


「どんな攻撃も防御してしまう。最強の力だよ」


 ちょっと俺と似てるな。


「攻撃方法とかは解明されていないのか?」


「詳しくはよくわからない。でも、時間さえも防御してしまうらしいよ」


「なんだそれ?」


「まだ直訳しかできていないくてね。詳細は不明だね」


 うーーん。

 時間ってどうやって防御するんだ??


「んで、その堅牢の勇者は現代にいるのか?」


「魔炎石の採掘場である栄華がみつかったからね。黙示録の内容は本物。つまり、勇者は確実に存在する」


 ほぉ。


「どこにいるんだ?」


「もちろん、僕たちは探したよ。黙示録には興味深い意味合いの言葉がたくさん出てきてね。その一つが『北の島国』という言葉なんだ」


「そこに勇者がいるのか? どこなんだよそこは?」


「黙示録はオーストラリアを中心に書かれていてね。だから、その北の島国というのは、オーストラリアの北に位置するんだ」


 えーーと……。


「地図でいえばオーストラリアの上だよな。たしか、インドネシアとかパプアニューギニアが有名かな?」


「そうなるよね。他にはフィリピン、マレーシア、シンガポールなんかも有名かな」


「あの辺は色々な島国があるよな。その島のどこかに勇者がいるんだな」


 鉄壁財団を動かせば見つかるかもしれないな。


元老院セナトゥスは堅牢の勇者が住む北の島国を探した」


「で、結局どこだったんだ?」


「島国の特定には3年かかったよ」


「随分長いな」


「細かい情報がわからなかったんだ。なにせ、魔族から見た地球の情報だからね。僕たちは誤訳してしまう。それでも、なんとか情報を解読してね。わかったことが1つあったんだ。それは、島国が剣を作っていたこと」


 ほぉ。

 武器を作る国か……。

 そうなって来ると鉱山を調べたり、ある程度は絞れるな。


「黙示録の解読にはアンダルハイヤーの高名な学者たちが10人も従事した。でも、一向に『北の島国』を特定することができなかったんだ。ところがある日、1人の学者が「剣」という言葉に違和感を覚えた。その「剣」は世界一の切れ味を誇るということが記されていたんだ。学者たちは、その情報を元に島国を探した」


「へぇ。ちょっと興味あるな。世界一切れ味のいい剣か。かっこいいよな。それは見つかったのか?」


「切れるというより、叩いたり突いたりする剣ばかりでね。該当する剣は見つからなかった」


「ああ、残念だな」


「と、いうより、正確には剣じゃなかったんだ」


「どういうことだ?」


「黙示録には「人を斬る武器」と書いていたんだけどね。その特徴が片刃だったのさ」


 片刃の剣か……。それって……。


「刀のことか?」


「そのとおり。つまり、北の島国とは世界一の切れ味を誇る刀を作っている場所だったんだ」


 おいおい。それって……。


「日本じゃないか?」


「うん。堅牢の勇者は日本にいる」


 おお……。

 衝撃の事実。


「どうやら一族のようでね。古来から刀を作っていたらしい」


「へぇ……。堅牢の一族」


 そういえば、俺の遠い親族に刀鍛冶がいたな。

 あんまり親しくなかったからどういう人か知らないけど。

 聞けばわかったりして……。


「それで、堅牢の勇者は見つかったのか?」


「僕たち解読班は特定作業中なんだけどね。ベロファーは君が勇者だといっていたね」


 オメガツリーも同じことをいってたんだよな。

 たしかに、親族に鍛治師はいるがなぁ。


「俺は刀なんか作ったことないし……」


「え? 『俺』なんて急にどうしたんだい?」


「あ……」


 うっかり漏れてたや。

 まぁ、でもこいつには俺の正体を説明しないといけないんだけどな。


「黙示録に記されている堅牢の勇者は男でね。残念ながら君じゃないんだ」


「あーー」


 一応、下半身にはぶら下がってるからな。

 黙示録の勇者の性別とは合致するのか……。


「でも、諦めるのはまだ早いよ! 黙示録の解読はまだ4分の1程度だからね。解読が進めば、性別だって変わるかもしれない」


「別に求めてないけどな。勇者になりたいとは思わないよ」


「ふふふ。それは君が勇者のことを知らないからさ。堅牢の勇者はどんな攻撃も防御する無敵の力を持っているんだ」


「おお……。なんかすごそうだな」


 なんか、俺とリンクしてるの気のせいか?


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