第195話 元老院の目的

「わかった! 情報はベロファーから聞いたんだな!」


「え?」


「君はコミュニケーションの達人だ!」


「あ、いや……」


 どちらかというと苦手ですが。


「そういえば、 真王子まおこちゃんは随分と話しやすいもんね。そのトーク技術でベロファーから情報を引き出したんだな。それに、なんだかんだで見た目になるのかもね……。可愛いは正義だ」


 俺の想像がどんどんと変な方向に固まっていますな。


 とまぁ、そんなことより、ここのことをもっと知りたくなったぞ。


元老院セナトゥスは黙示録を使って何をしようとしているんだ?」


「救済だよ」


「……誰を助けるんだよ?」


「地球」


「随分とスケールが大きいんだな」


「近い将来、この星はダンジョンに覆われる。オーストラリアを滅亡に追いやったSSS級ダンジョンの復活。そのことが黙示録に書かれているんだよ」


 これはベロファーも同じことを言っていたがな。

 とんでもない事実だよな。


「その黙示録は信用できるのか?」


「できる。魔炎石が採掘できるダンジョン、栄華のことを教えてくれたからね。魔炎石は金になる。その資金を元手にして世界を救う方法が書かれているのさ」


 なるほど。

  元老院セナトゥスは、その情報を元にして魔炎石の採掘に取り組んだ。

 その現場を抑えたのが風間だったわけか。しかし、 元老院セナトゥスに捕まってしまった。

 風間の実力と魔力量は、黙示録の解読に適任だ。

 だから、死んだことにして身柄を確保して利用したんだな。


 そういえば、ベロファーが自分たちのことを『正義の味方』と呼んでいたな。

 黙示録を使った世界の救済が 元老院セナトゥスの目的か。


 それにしては解せないな。

 ヒーローと呼ぶにはお粗末すぎる。警備員の首をはねたり、俺の仲間を人質に取ったりさ。ベロファーは邪悪すぎるよ。

 そもそも、黙示録なんて誰も知らないんじゃないだろうか?


「このことはダンジョン国際連合は知っているのか?」


「知るわけがないよ。黙示録は 元老院セナトゥスの独占情報だ。ジーストリアの上層部はもちろんのこと、世界にすら秘密にしているよ」


「なぜだ? ダン国連に黙示録の情報を公開すれば全世界で動くはずだ。みんなで世界を救えばいいじゃないか」


「ベロファーはそれを望まない」


 ああ、なんだか、本当に厄介な話になってきたよ。


「君……。その様子じゃ、ベロファーから聞かされていないようだね」


「なんのことだ?」


「魔炎石の使い道さ」


「ジーストリアの金脈だろ?」


「あの石は高値で売れるけどね。本当の目的はそれだけじゃないんだよ」


「へぇ……」


 あの石は火力がすごいからな。


「爆弾を作るとか?」


「ふふふ。面白いね。まぁ、でもそんなことより儲かる方法がある」


 魔炎石の使い道か……。

 いわばダンジョンテクノロジーだな。


「魔炎石の力は発火力にあるんだ」


「ああ、衝撃を加えたら発火する性質だよな」


「そうさ。小指の先程度の大きさでもね。微量な電気を加えてやるだけで十分に発火するんだ」


「それって武器以外でどうやって使うんだ?」


「魔炎石を燃料にした車を作る」


「おお!」


「魔炎石の発火量は小石の大きさだけでもガソリン8万リットルに相当する。これは普通の車が100年間に使用するガソリンの使用量に相当するんだ」


 ほぼ永遠じゃないか。

 魔炎石は小石程度で数百万だ。それでも、小さく削れば安く使えるだろう。

 それに、燃料を給油しない車が誕生するのはめちゃくちゃ便利だぞ。

 

「へぇ……。じゃあ、革命的だな。魔炎石の車が世の中に出ればガソリン車はなくなるわけだ」


「まぁ、ガソリン車はいずれ電気自動車に替わる予定だけどね。それでも、魔炎石は電気よりパワーがあるんだ。だから、船や飛行機、工事車両なんかでも応用ができる」


「完璧にガソリンの上位だな」


「そういうことになるね。このジーストリアがその採掘の中心になるんだよ」


「世界が変わるな」


「18世紀。世界は石炭によって産業革命が起こった。歴史が物語るよね。近い将来、魔炎石によって世界に革命が起こるんだよ」


 上層部がこの島の情報漏洩を厳しく管理してるのはこれだったのか。

 ガソリンの上位燃料なら、絶対に他の国が欲しいからな。

 そういえば、ジーストリアの主権はEUとアメリカと中国だった。

 さては、この情報を知っていたな。先進国である日本の介入を快く思わないのは魔炎石の利権が絡んでいたんだ。


「だからね。上層部は魔炎石の採掘場を血眼になって探しているんだ」


 はい?

 上層部が知らないだと??


「魔炎石の採掘場はS級ダンジョンの栄華だろ?」


「そうだね。僕は魔炎石の噂を聞きつけて調査を始めた。そこで見つけたのが栄華だったんだ」


 ふむ。


「まさか、採掘を 元老院セナトゥスが警備してるとはね。迂闊だったよ。捕まってこのざまさ」


「身の危険を感じて青い飴を食べていたんだよな」


「そうだね。あの発明は鉄壁さんの部下がやったらしいよ。あの飴のおかげで僕の生死は総理に知らせることができた。本当に感謝だよ。だから、君が来てくれた。元を辿れば鉄壁さんのおかげさ」


 あの飴はネミの発明だからな。感謝の言葉は彼女にいってもらおうか。

 そんなことより、


「栄華でやってる魔炎石の採掘って、上層部は知らないのか?」


「もちろん、知るわけがないよ。採掘場は 元老院セナトゥスだけが知っている情報だからね」


「上層部と 元老院セナトゥスは仲が悪いのか?」


「学園で教えてもらったとおりさ。 元老院セナトゥスはS級ダンジョンを討伐するためだけのお助け部隊だよ」


 なるほど。

 ただの用心棒ってわけだ。

 そんな武闘派が金脈の鉱山を探し当てた。


「じゃあ、この場所の管轄って?」


「もちろん、 元老院セナトゥスだ。上層部は入ることができない」


 見えてきたぞ。

  元老院セナトゥスの敵はジーストリアの上層部だ。

 だから、ベロファーは俺を仲間にしたがるのか。

 あれ? そうなると、 元老院セナトゥスの目指しているところって……。


「そもそも、上層部と敵対してる理由ってなんだ? 一緒に魔炎石を守ればいいじゃないか?」


「ベロファーは、黙示録を使って計画しているんだ──」


 風間はまっすぐな視線で俺を見つめた。


「──魔炎石による産業革命。探索者による力の支配……。つまり 元老院セナトゥスの目的は──」


 まるで、終焉を告げる預言者のように言葉を発する。





「世界征服だ」


 



 ああ、風間を助けて終わりってわけにはいかなそうだな。

 じゃあ、


「黙示録の解読による世界の救済は 元老院セナトゥスのためか」


「状況は深刻だよ……。研究所を案内しようか」


「膝の怪我はいいのかよ?」


「ああ、もう血は止まっている。そんなことより早く伝えたいんだ。暗奏がどうやって日本に生まれたのかをね」


「あ、暗奏……?」


「ああ。鉄壁さんが攻略した最強のダンジョンさ」


 暗奏がこの研究所と関係があるのか?

 


────

メリークリスマスですね。

私が皆さんできることは小説の掲載のみでしょうか。

細やかなプレゼントになりますが、明日【25日】も投稿させていただきますね。

素敵なイブをお過ごしください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る