第194話 黙示録

「じゃあ、 真王子まおこちゃん、教えてもらおうかな。君は、どうやってここまで来たんだい?」


 こんなにじっくり会話するとは思わなかったな。

 よし。

 もう、早い段階で俺の正体をバラしておこうか。

 そっちのがてっとり早いしな。

 

「実はな。俺は……」


 と話し始めたところで電話が鳴る。

 重大なことらしく、風間は電話の受話器を取った。


「なんだって!? 呪い文字カースフォントが発動しただって!?」


 え?

 な、なんか大ごとっぽいな


真王子まおこちゃん。戻らなくちゃ!」


「どこに?」


「研究所だよ」


 はい??


「は、話しの途中だが……」


「急がなくちゃ!」


 風間は自転車にまたがった。


「乗って!」


 ええええ……。


 俺は仕方なく後部座席に乗った。


「いくよぉおお!!」


 と、自転車のスピードは上がる。


「な、なんか大ごとだな」


「黙示録のトラップにひっかかったんだ」


 黙示録はベロファーがいっていたよな。

 世界の終末を記した書ということらしい。古代の魔族が書いていて、彼は 元老院セナトゥスに捕まって解読の研究員になったんだ。

 でも、


「なんで解読くらいで大ごとになるんだ? まるで、人命救助じゃないか?」


「黙示録は魔族が書いていてね。簡単には解読できないように罠が仕掛けられているんだよ」


「ほぉ」


「呪いの文字が記されていてね。その呪われた文字を脳内に浮かべただけで呪いが発動してしまうんだよ」


「厄介なことをするんだな」


 たしか、古代魔字の解読だったよな。

 ジ・エルフィーのネミが得意だったんだ。


「古代魔字って面倒なんだな」


「そうなんだ。古代魔字は面倒……。え? き、君はどうして古代魔字を知っているんだ!?」


「なんでって。それより前見て運転しろって」


 解読が得意な部下が身近にいるんだよな。


「き、君は何者なんだい!? 古代魔字の研究はトップシークレットだよ。ダン国連はおろか、日本だって知らない情報だぞ!? 僕だって、この研究所に配属されて勉強したんだからな!」


「いや、だから前見ろってば」


 1人で解読したネミってすごいんだな。

 ……あれ、おかしいぞ?


「風間が、この研究所に配属されたのってそんなに長くないよな? そんな浅い知識の人間がどうして解読チームに配属されてんだよ?」


「僕が日本人だからだよ。黙示録には日本の情報が多く含まれているんだ」


「なんで?」


「まったくわからない。……それより、君が何者なのか、またわからなくなった」


「いや、そんなことより前向いて自転車こげってば!」


「そうか! ベロファーから聞いたんだ! そうだろ!?」


「そんなことより、前、前!!」


「大丈夫、もう研究所に着く──わぁああああッ!」


 ああ……。


 そこは研究所の入り口だった。

 風間の自転車はその壁に衝突した。


 言わんこっちゃない。

 俺は辛うじて身を持ち直したけどな。

 風間は3メートルくらいふっとんでる。


「痛ぅう……」


 見れば、彼の膝はずりむけて血だらけになっていた。


「ほ、骨は大丈夫だと思うけど」


 やれやれ。


「立てるか?」


「ご、ごめん。すまないけど肩を貸してくれると嬉しいよ。解読室まで案内するからさ」


 俺は風間をお姫様抱っこした。


「わ! ちょ、ちょっと、 真王子まおこちゃん!?」


「肩なんか貸してたら遅いってば。人の命がかかってんだろ? どっちだ!?」


「こ、このまままっすぐ」


「あいよ」


ダダダダダダダダダダダッ!


「は、早っ!」


「どっち!?」


「次の角を右」


「オケ」


「階段降りて左」


「おうよ」


「……君。力が強いんだな」


 風間の見た目は女の子だからな。

 華奢な体でめちゃくちゃ軽い。

 なんなら 衣怜いれより軽いかもな。

 本当にお姫様を抱っこしてるみたいだわ。


 俺たちは解読室に着いた。

 風間と初めて会った図書室みたいな部屋だ。


 そこでは1人の男が血を吐いて苦しんでいた。

 耳が尖っているから、どうやらエルフみたいだな。

 その体には黒いオーラをまとっていた。


「風間さん。モーゼットさんの解読パートに呪い魔字が混じっていたんです!」


「解呪魔法を使います!  密偵腕輪スパイバングルは!?」


 え!?

 す、 密偵腕輪スパイバングルだと!?


 地上で唯一魔力が使える超激レアアイテム。

 威力は千分の一になってしまうが、地上でスキルを使える唯一のアイテムだ。


 俺の腕には……あるな。

 腕時計に偽装させてはいるが間違いなく 密偵腕輪スパイバングルだ。

 そもそも、 密偵腕輪スパイバングルがなければ地上で 真王子まおこに変装できないからな。


 研究員は小箱を持ってきた。


「ここに」


 そこには 密偵腕輪スパイバングルが入っていた。


 俺のとは違う、もう1つの 密偵腕輪スパイバングルだ。


 風間はそれを腕にはめて解呪魔法を唱え始めた。

 両手に魔法陣が浮かび上がり、そのまま倒れているエルフの体に添えた。


 男は優しい光に包まれる。

 彼を覆っていた黒いオーラは消滅した。


「ふぅ。解呪成功です」


 周囲の研究員たちは彼を称賛した。


「流石は風間さんだ!」

「わぁああ。助かったぁああ!」

「ありがとう風間さん!」

「あなたは命の恩人だ」

「ああ、風間がいて良かった……」


 なんか人望があるな。


「呪い魔字のチェック漏れが今回の事故の原因だよ。工程の見直しが必要だね」


 風間は研究員たちに指導をしていた。


 それにしても気になる……。


「風間以外は全員、エルフなのか?」


「ああ。アンダルハイヤーのエルフたちさ」


 アンダルハイヤーといえば、ジ・エルフィーのエルフ姉妹が住んでいた地下異世界だよな。


「あのエルフたちは、解呪魔法は使えないのか?」


「もちろん使えるよ。僕は彼らから教わったからね」


「じゃあ、なんで使わないんだよ?」


「魔力不足なんだ。話すと長い」


 ああ、なるほど!

  密偵腕輪スパイバングルは魔力を地上で使える代わりに、その威力を千分の一にするアイテムだからな。

 つまり、エルフたちの魔力量が少なすぎて 密偵腕輪スパイバングルを使った地上では解呪魔法が使えないということか。

 要するに、


「風間の魔力量が多いんだな」


「え? な、なんでわかるんだい?」


「だって、それ 密偵腕輪スパイバングルだろ? パワーは千分の一になるが地上で魔力が使えるんだ」


「ど、どうしてそんなことまで知っているんだい!? このアイテムはSSS級だ!? トップシークレットなんだぞ!?」


 今、俺が使っているから知っているのは当然だよな。

 ってか、


「解呪魔法が必要ならダンジョンの中で解読すればいいのにさ」


「で、できるわけないよ。黙示録の力でモンスターがそこいら中から寄って来るからね。地上じゃないと安心して解読は不可能なんだ……。し、しかし、君は本当に謎だなぁ?? 妙に強いし、色々なことを知っている……」


 やれやれ。

 黙示録に研究所。

 まだまだ、謎だらけだな。



────

短編を書きました。

1万字程度の全3話。

サクッと読めるのでぜひ、読んでみてくださいね。


『男嫌いの美少女盗賊は、凄腕すぎる剣士の荷物を狙う』


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