第193話 真王子と風間

「僕は風間 潤志郎。って、まぁ、挨拶するまでもないか。君は大和総理の命令でここに来たんだろうしね。僕の資料は読んでるよね」


「まぁ、粗方な。でも、前情報は天才探索者の16歳ってことくらいで、その性格はわからないな」


「天才探索者か……。ふふふ。まぁね」


 おいおい。

 否定せんのかよ。

 これは相当、腕に自信があるタイプだな。


 さて、俺の自己紹介はどうしようか……。

 この先のことを考えれば 真王子まおこのまんま通した方がいいようにも思えるしな。なにより、風間の状況がよくわからない。

 俺が片井  真王まおなのは、あとで伝えればいいだろう。


「私は壁野  真王子まおこだ。大和総理に頼まれて君を助けにきた」


「ふーーん。壁野……。壁野……。聞いたことのない名前だね?  探索学園シークアカデミーに入るならそれなりの腕が必要なのにさ。君は 静寂の森サイレントフォレストのメンバーなのかい?」


「いや。フリーだよ。どこにも属していない」


「でも日本の探索者だよね?」


「まぁね」


「おかしいな? どうやって腕前を評価されたんだい?? 大和総理と話せるなんて相当な実力者だよ。えーーと、阿藤さん伝いとか?」


「誰だそれ?」


「じゃあ、飯島さん?」


「知らない人だな」


 風間はS級探索者の名前を羅列した。

 どうやら、 静寂の森サイレントフォレストのメンバーらしい。


「全部知らんな。基本は単独でパーティー組んでやっていたからさ」


「そんなぁあ!? 君の実力が謎すぎるよ!  静寂の森サイレントフォレストは凄腕の探索者なら全て網羅しているんだぞ!!」


「そういわれてもさ。知らないもんは知らないよ」


「ノーマークの探索者? うーーん……」


「それより随分と探索者業界に精通してるんだな」


 風間は鼻を高くした。


「ふふん。当然だろ。僕は 静寂の森サイレントフォレストのメンバーでね。入団の最年少記録保持者なんだ。日本に存在するトップレベルの探索者は全て網羅しているよ」


「ほぉ」


 随分とアイデンティティになっているようだ。


 彼は自慢気にいう。


「僕は鷹森さんと探索をしたことだってあるよ。ふふん」


「知らないってば」


「弓使いの鷹森さんだよ!」


「知らないな」


「暗奏の突入の時に大活躍されたんだぞ!」


「そうなのか?」


 あの時は入るのに必死だったからな。

 協力してくれる探索者は何百人かいたよな。その中の1人といわれてもわからんよ。


「じゃあ、 茶柱岳ちゃばしらだけさんなら知ってるよね? 僕は何回かパーティーを組ませてもらったんだよ」


「いや、知らんってば」

 

「大槌使いの 茶柱岳ちゃばしらだけさんだよ! 探索者なら誰もが憧れる凄腕のS級探索者だ!  栄光なる歓声グローリーシャウトのメンバーだよ!!」


「知らないなぁ」


 俺はD級だったしな。

 S級探索者の情報なんて住む世界が違いすぎて入ってこないんだよな。

 んーー、でも、 栄光なる歓声グローリーシャウトって、たしか、 光永みつながさんがリーダーをしてるパーティーだったよな?


「君はなにも知らないんだな。よくこんなところまで来れたねぇ?? 君の実力がさっぱりわからないや」


「まぁ、探索業は細々とやっていたからね」


「ははは。まぁ、そうなんだろうね。目立たないところを運良く総理に拾ってもらったんだ」


「えーーと」


 大和総理に頭を下げられたから、おまえを助けに来たんだがな。

 それにしても、こいつは俺のことを何も知らないんだな。

  真王子まおこは島内でも案外と知名度が高いんだ。チャンネル登録者は200万人超えだしな。


「風間はダンジョン配信とか観ないのか?」


「あははは。子供の遊びだろ。そんなの観るわけないよ」


 おいおい。

 こっちは真面目にやってんだってば。


「配信なんてのは探索業で食えない三下がやる仕事だよ。 静寂の森サイレントフォレストのメンバーにすれば邪道だね」


  光永みつながさんも似たようなことをいっていたな。

 彼ら上級者にしてみれば配信業は邪道らしい。

 つまり、誇りの高い風間は 真王子まおこチャンネルの配信は観てないんだ。


「もしかして、君は配信をやっているのかい?」


「まぁな。細々とね」


「あはは! そうかい。それは悪かったね。あはは。そうか配信か。なるほどね。じゃあ、細々とやっていた配信で総理の目に止まったとか、そういう感じかい?」


「んーー。まぁ、そうかな」


 大筋はそうだろう。

 暗奏の攻略を総理が観たんだからな。


「あはは! 君のことが少しわかりかけてきたよ。その見た目だ。配信でもそれなりに人気があるんだろう。可愛いは正義。敵を懐柔するなら十分そうだもんね。そこを総理にスカウトされたわけか」


 えーーと。

 どこから突っ込んだらいいんだ?


「ふふふ。配信ね……。もしかしてあれかい? 君も憧れちゃってる口かい?」


「なんのことだ?」


「鉄壁さんだよ」


「えーーと……」


「ふふふ。まぁ、隠さなくてもわかるよ。僕だってそうだからね」


「え?」


「彼はすごいよ。偉大な探索者さ」


「配信は邪道なのでは?」


「彼は別格さ。配信者の中でも、認めれるのは鉄壁さんだけだね。彼は日本が誇る探索者だよ」


「そ、そうなのかな?」


「でもね。だからって真似はダメだ」


「はい?」


「彼の真似をしてたんじゃあ、彼に近づくことはできないよ」


「そうなのか?」


「当然だろ! 鉄壁さんが配信をやっているから自分も配信をやる。それじゃあ素人の考えだ。彼の真似事じゃあ、彼と会話をすることすらできないね」


「そんな大層なことじゃないと思うが」


「知っているかい? 彼は 静寂の森サイレントフォレストの勧誘を断ったんだよ?」


「え……。あ、まぁ……。一応知ってる」


「すごいよね!」


「え……。そうか?」


「すごいよ! だって、あの 光永みつながさんの勧誘を断ったんだからさ!」


「う、うううむ」


静寂の森サイレントフォレストに誘われるなんて名誉なことなんだ。それを断るなんて前代未聞。こんな探索者は彼だけさ」


「そうなんだ」


「僕も君と一緒でね」


「うん?」


「彼には憧れているんだ」


「お、おう……」


「鉄壁さんは本当にすごい探索者だよね」


 しまった。

 先に俺の正体をバラしておくんだったな。


「でも本当に意外だったな。僕を助けにくるのは鉄壁さんだと思っていたからさ」


「ははは……」


 その予想は当たっています。


「じゃあ 真王子まおこ。君の正体がなんとなく掴めたところで、ここに来た経緯を教えてもらえるかい?」


 やれやれ。

 ちゃん付けか。

 まぁ、俺は15歳の設定で、こいつは16歳だからな。

 この年の1歳は大きいよな。

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