第192話 風間に会えた
俺はジーストリアダンジョン研究所の前にいた。
そこはジーストリア島のダンジョンを研究する施設。
ジーストリアはダンジョンの発生率が通常の倍以上のスピードなんだ。
ここはそういったダンジョンの性質を研究しているらしい。
それにしても、随分と綺麗な建物だ。
まぁ、島ができて5年だからな、歴史なんてないだろうけどさ。
こんな場所に風間 潤志郎がいるのだろうか?
もっと、地下の牢獄で監禁されて酷いことをされてるイメージがあったよ。
「ここで風間 潤志郎は働いている」
は、働いてる?
まさか……。
「研究材料としてモルモットになっているとか?」
「研究員だよ。彼は能力が高いからね」
意外だったな。
「なにを研究させているんだ?」
「黙示録の解読だ」
「なんだそれ?」
「オーストラリアに発生したSSS級ダンジョンは知っているだろ?」
「もちろん」
オーストラリア大陸を滅亡の危機に追いやった最強のダンジョンだ。巨体な地震、大津波、火山の噴火。それはもう凄まじかったと聞く。1千万人以上もの死者が出たらしい。ダンジョンの封印には俺の父さんが関与してるみたいだけどさ。詳細は不明なんだよな。
「僕たちは、そのダンジョンを終焉と呼んでいる」
恐ろしくも相応しい名前だな。
「黙示録は終焉のダンジョンボスが持っていたアイテムなんだ」
なるほど。
そういえば、暗奏のダンジョンボス、オメガツリーも書物をドロップしたよな。
あれは、どこでもダンジョンとか
魔族が書いた古代魔字で書いている難しい書物だったんだ。
って、ことは、
「それも古代魔字で書かれているのか?」
「……よく知っているね。古代魔字の存在はトップシークレットなのにさ」
「あ、いや……」
「どうして知っているんだ?」
やれやれ。
ここはスタンスをハッキリ示しておこうか。
「……いう必要はないだろ」
と、睨んでやる。
すると、ベロファーはつまらなさそうに口をつぐんだ。
古代魔字はジ・エルフィーの少女、ネミが解読できるんだよな。
俺の部下が解読できることは黙っておく方が無難だろう。
また、怪しい工作員を日本に送られても嫌だからな。
とにかく、今は黙示録と風間の話だ。
「その黙示録には何が書いてあるんだ?」
「SSS級ダンジョン終焉の復活。この世界の終わりさ」
やれやれ。物騒だな。
「じゃあ、風間はその古代魔字の解読をしているのか?」
「そういうことだね」
「風間は地球人だろ? 古代魔字なんて読めないはずだ」
「最近になってわかったことなんだけどね。黙示録には日本のことが多く書かれているらしい。だから、彼は日本文化を担当しているのさ」
「へぇ……」
なんで日本なんかが、魔族の書いた黙示録に載っているんだろう?
「どれくらい解読が進んでいるんだ?」
「……これはトップシークレットだけどね。君は特別だから教えてあげるよ。まだ、4分の1くらいかな」
半分にも満たないのか。
ネミならもう少し早く解読しそうだけどな。
「まさか、部外者にここまで情報を話すとはね。想像もしていなかったな」
「もう諦めるんだな」
「……君が僕たちの仲間になれば、なんの問題もないけどね」
「それは却下だ」
「僕たちは終焉の復活を阻止するために活動している」
「それがヒーローといいたいのか?」
「そうだよ。救世主ともいうね」
やれやれ。
どこまで信じていいのやら。
随分と広い研究所だ。
15分くらいは歩いただろうか。
そこは図書館のような場所だった。
天井の高さは、20メートルはあるだろうか。
その部屋には本棚がそこら中にあって、それは天井までびっしりと本が詰まっていた。
そこには数十人の学者がいて、昇降機を使って本を取っている。
「ネットの時代に書物で調べるとはな」
「ふふふ。ネットだけが全てじゃないさ。ここにある書物はネットに載せることができない秘蔵の物ばかり。中には違法な物だってある。黙示録の解読には絶対に必要なのさ」
学者の大半はエルフの男。
その中に人間が混じっていた。
それは黒髪で、研究員らしく白衣を着ていた。
「彼が風間だよ」
おお!
やっと出会えた!
「よお!」
「……誰だ君は?」
16歳の少年……のはずだけど。
女の子か??
「あれ? お、男……だよな?」
総理から事前にもらったファイルだと、スーツを来た男の子だったけどさ。
ちょっと髪が伸びてるのかもな。まつ毛が長いのは元々みたいだけどさ。
白い肌と端正な顔立ちがどう見ても少女に見えるんだが?
「……うう。よく女と間違われるけどね。僕は男だよ」
声だって女の子そのものだよ。
「ははは。その感じだもんな」
「君はチャイニーズ? 新しい研究員かい?」
「まさか。日本人だよ」
「え!? に、日本人!? じゃ、じゃあ……。君も捕まってしまったんだね」
「いや。おまえを助けに来たんだ」
「…………え?」
「ははは。だから、助けに来たんだってば」
風間はしばらく目を瞬かして、
「えええええええええええええええええええええ!?」
いやいや。
驚きすぎだってば。
「ど、ど、どうやって!?」
「話せば長い」
彼はベロファーに気がついた。
「あ! 気をつけろ!!」
「なにを?」
「き、君は知らないんだ」
「な、なにをだ??」
「やつの名はベロファー」
「え? ああ……」
「強力なユニークスキル持ちさ。その能力は一切が謎なんだ」
「お、おう……」
風間はベロファーを睨みつけ、だらだらと汗を流した。
「やつは脅威だ……」
ま、まぁ。そうかな。
時間を止めるスキルだからな。
そんなことより、
「怪我は……。なさそうだな。元気そうでなによりだよ」
「……え? いや、待てよ? ど、どうして君はベロファーといるんだよ??」
「あ……。えーーと、彼に連れて来てもらったんだ」
「え?」
「風間の居場所を案内してもらった。こんな広い場所さ。流石に誰もわからないよ」
「……そ、そうか。なるほど。ふふふ。わかったよ」
風間は俺に耳打ちをした。
「上手くやったね」
「なにを?」
「ベロファーを騙せたんだね」
「え? いや……」
正攻法だと思うけど……。
そうでもないのか?
「戦わずして、懐柔する。流石だよ」
「え? いや……」
めちゃくちゃ戦ったよ。
「君は賢い。ベロファーは最強だからね」
「お、おう……」
「それとも大和総理が上手くやってくれたのかな? どちらにしても安心したよ」
「えーーと、話せば長い」
俺は、ベロファーと別れて風間の部屋に行くことになった。
そこは研究所から歩いて10分。
敷地内に設立された研究者の社宅。外観はマンションのような建物だった。
部屋の中は快適。
1LDKの間取り。
風呂とトイレは別々。キッチンもあって冷蔵庫もある。
エアコンが完備されてパソコンもあった。
どうやら、彼はここで自炊をしながら生活をしているらしい。
「敷地内にはコンビニもあってね。生活には困らないんだ」
「金は?」
「もちろん、ユーロで払う。僕の仕事は月給制でね。もちろん、残業代もしっかりともらえるよ」
想像とは大分とかけ離れているな。
これが悪い組織に捕まった人間の待遇か?
「もっと、鉄格子の檻の中でさ。鎖に繋がれて臭い飯を食べるイメージだったよ」
「待遇を良くして、いい仕事をさせる。それが
彼は机の中から小型の機械を手のひらに乗せて見せた。
「この部屋に設置してあった盗聴器。全部で3箇所も見つけたんだ」
「おお」
やれやれ。
こういう監視体制は悪の組織って感じだよな。
「全部取り外してね。適当な生活音が鳴るスピーカーに変更しておいたよ」
「へぇ。機械に強いんだな」
「これくらいできないと、
彼は天才探索者らしいからな。
こういうことも簡単なのか。
「この部屋なら気軽に話せるよ。もっとも、パソコンは監視対象だから、中のデータは全部見られちゃうけどね」
彼はコーヒーを淹れてくれた。
「いいコーヒー豆が手に入ってね。淹れるのにはこだわりがあるんだ」
これなら落ち着いて話せそうだ。
今すぐここを出て行く選択肢もあるんだがな。
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