第191話 スカウト
とんでもないことが起こった。
担任のアービド先生が汗を垂らす。
「か、壁野
生徒たちは大混乱。
「マジかよ!?」
「
「1年をスカウトって前代未聞じゃない?」
「
「すごいわね。流石はワイバーンガール」
「わかった! 見た目だ! 1000年に1人の天使!!」
「羨ましいわぁ」
コルも目を輝かせていた。
「
んなわけないだろ。
俺は大方、察しはついている。
俺の配信メッセージが届いたんだろう。
ふふふ。なにせ、
「あ、あ、有り得ませんわ! スカウトなら
ははは。
まぁ、その理由でいったら俺よりも2位を独占しているコルなんだよな。
学園の門前には立派なハイヤーが止まっていた。
校舎を出るなり、3年生や2年生にも熱い視線を送られる。
「あいやーー。
遠くで大きな声を出しているのは
この学園にとって、
その内情は全くもって秘密だがな。
噂では高待遇らしい。
そういえば、俺をはじめに勧誘に来たギーベイクはそんなことをいっていたもんな。
収入、特権、情報、とあらゆるものが手に入るらしい。
ハイヤーの運転手は俺に丁寧にお辞儀をしたあとに後部座席の扉を開けた。
中には1人の男が座っている。
「あ」
ベロファーじゃん。
「泣き虫貴族」
「だ、誰が泣き虫だ!!」
「嘘つき貴族の方が正確か」
「ぐ、ぐぅうううう……。と、とにかくの、乗ってくれ。話はそれからだ」
「……また、俺を騙すんじゃないだろうな?」
「ぐぬぅううううう……。そ、そんなことはしない!!」
やれやれ。
まぁ、こんな堂々とやらんわな。
やるなら俺の学生寮に来るだろう。
念のために、黒いチューリップのエルフたちに学生寮の警護につかせていたがな。まったく怪しいことはなかった。
こいつは、本当に俺やコルたちに危害を加えるつもりはないんだ。
俺はハイヤーに乗った。
シートはフカフカ。
車内は貴賓あふれるめちゃくちゃいい匂いがする。
「どこに行くんだ?」
「約束を守るといっただろう」
「ほぉ……。詐欺師貴族にいわれてもな」
「だ、誰が詐欺師貴族だ!!」
おまえだっての。
大和総理からは
俺に手を出さないと約束はしたが、俺の仲間に手を出さないとは約束していないからな。
そんな理由で、裏でコソコソ動かれるのは詐欺師の手段だよ。
俺に手を出さないという約束は守っているが常識の範囲があるよな。
「日本で色々やってるみたいじゃないか」
「うぐぅ……!!」
おやおや。やましいことがあるようで。
「随分と汗をかくんだな。また、あのゲームをやったら、速攻で俺が勝ちそうだ」
「ぐぬぬぬ……」
さて、気になることを聞いておこうか。
ジーストリアと
「おまえって逮捕されないのか?」
俺はこいつに化けて生配信をしてやったからな。
「あの生配信は君の仕業だろう?」
「ああ、あんなことができるのは俺しかいないさ」
「ぐぬぅ……。あ、危うく収容所に入れられる所だったさ」
「ははは! じゃあ色々とあったんだな」
「ジーストリアの上層部には、何者かが僕に変装して送ったメッセージだと説明して釈放してもらったよ」
なるほど。
上層部と
もしかして、ベロファーがジーストリアのトップかとも思ったが、どうやら違うらしい。
「ったく。とんでもないやり方だったよ。まさか、僕が逮捕されるなんてね」
「ははは。おまえのメールアドレスを知っていたら送れるんだけどさ。交換もせずに泣きながら帰っていったからな」
「ぬぐう! き、君は卑劣だとは思わないのか!? あ、あんな手段をとって!?」
おいおい。
よくいうよ。
コルと
まぁ、それに、
「あくまでも、おまえと連絡を取る手段だったさ。島内の情報漏洩が目的じゃないからな。漏洩が目的なら、チャンネル登録者300万人越えの
「ぬぐぅ……」
ふっ。
また汗をかいた。
「俺の目的は風間 潤志郎の救出さ。そのためにここへ来たんだからな」
「か、風間は約束どおり返す。今、向かっているのは彼のいる場所さ」
「……本当だろうな?」
「う、嘘なんかつかない! 僕は精神的貴族なんだ! 約束は守る!」
いや、詐欺師貴族だろ……。
まだ、全容がはっきりしないからな。
黒いチューリップのエルフたちと連絡をとって警戒は強めておこうか。
そもそもだけどさ。
「
「ほぉ、いい質問だね」
「そりゃどうも」
ベロファーは上機嫌で答えた。
「僕たちは正義の味方だ」
「はい?」
貴族の次は正義の味方だと?
「スーパーヒーロー。日本でもいるだろう? 仮面をつけたライダーとか、巨大化する宇宙人とかさ。君はライノマンと呼ばれているんだっけ? ふふふ。僕たちも同じさ」
いや、一緒じゃないだろう。
「
おいおい。
「ヒーローごっこで人を誘拐するのかよ」
「世界平和のためさ。時期にわかると思うよ。僕たちの偉大さがね」
やれやれ。
多分、理解できないと思うがな。
しかし、これだけは確認しておこうか。
これは、黒いチューリップから聞いた情報なんだがな……。
「島の海岸で首なしの遺体が見つかったらしいな」
「へぇ。物騒だね。島内は平和なのにさ」
「……あの栄華を警備していた、のっぽのジミーが行方不明らしいな」
「ははは。彼は猫を虐めていたからね。そういう人間は地獄に堕ちるんだ」
「……だからって、殺すのはやり過ぎだろう」
「悪いやつは死んで当然さ」
「おまえたちがやったのか?」
「どうだろうね? でも、僕たちは正義の味方……。この世界を救うね。猫を虐めるなんて絶対に悪者じゃないか。死んで当然だよ。ゴミが掃除されて、この島は更に平和になった。ふふふ」
やれやれ。とんでもないヒーローだな。
ハイヤーは島の市街地を離れた場所に入った。
森を抜けると大きな塀が見える。
随分と長い塀だ。
2、3キロは続いているだろうか。
門扉には鉄門があって、その周囲を軍人が警備していた。
大きな機関銃を持っていてなかなかに物騒だ。
そこがなんの施設なのかまったくわからない。
看板なんかの表示は一切見当たらないな。
「僕たちは聖域と呼んでいるんだ」
「随分と神聖な感じだな」
「
塀の上には有刺鉄線か。
逃亡と侵入の防止だな。
所々に防犯カメラっと。
聖域ってか悪の巣窟みたいだがな。
ハイヤーが門前で止まると、俺は持ち物検査をされた。
盗撮は厳禁。
モスキートカメラを使うことだってチェックされる。
携帯はもちろんのこと。ハンカチだって没収された。
ちなみに携帯は日本政府の支給品だ。大した情報は入っていない。
敷地を出る際に返却されるらしい。
軍人たちはベロファーの姿を見て敬礼をした。
すると、鉄門が開く。
ベロファーは得意気に笑った。
「聖域にようこそ」
どうやら、ここが
聖域にしては武装した軍人がそこら中にいて、言葉の意味なんて微塵も感じさせないけどな。
中は小さな街だった。
所々に工房っぽい建物が並ぶ。造剣場というらしい。
ダンジョン探索で使う武器を作っているんだとか。
敷地の中にはコンビニっぽい店も見えた。
住宅地もあるようだし、本当に小さな街が存在する感じだ。
5分ほど走ると見えてきた。
そこは綺麗な建物だった。
「
と、舌を出して笑う。
やれやれ。
舌に彫られた薔薇のタトゥーが、ヒーローとは程遠い危険な臭いを感じさせるよな。
さて、やっと来れたか。
ここに風間がいる……。
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