第188話 ベロファーは諦めない

〜〜片井視点〜〜


 ベロファーが退散してからは大変だったな。


 気絶したコルと 華龍ホアロンを起こしてさ。


 強いモンスターに襲われたことにしておいた。

 2人はなんとか俺の嘘を信じてくれて、ことなきを得た。


真王子まおこは命の恩人ある!」

「流石は 真王子まおこだ! 略してさすまお!」


 やれやれだよ。


 それから数日が経つがな。

  元老院セナトゥスからの連絡はない。


 ベロファーのやつ。

 自分は精神的貴族だ、とかなんとか言ってたくせにさ。

 ゲームで負けたのに約束を守らなかったんだ。


 まぁ、こっちはジーストリアの秘密を握っているわけだからな。

 それを元に調査を進めさせてもらおうか。

 

  元老院セナトゥスは魔炎石の採掘を隠していた。

 このことを総理伝いに調べてもらえば、この島の全容が掴めるはずだ。


 

 ☆


〜〜ベロファー視点〜〜


 僕はメンバーを会議室に集めていた。


「魔炎石の採掘場が動画を撮影されて、そのデータが日本の首相に渡ってしまった」


 このことにみんなは動揺を隠せない。


「これは 粘土使いクレイマンの失態だ。君が撮影なんかを許すからこんなことになった。君の失敗でこの 元老院セナトゥスが危険に晒されている!」


「す、すいません……」


 他のメンバーが提案する。


「では、鉄壁さん……。壁野  真王子まおこを総動員で攻撃してぐうの音も出ないようにしましょうか」


「ダ、ダメだ。そんなことをすれば日本にいる大和首相が採掘動画を彼のチャンネルにアップしてしまう。鉄壁さんのチャンネル登録者は1億人だぞ。そこから更に拡散されるんだ」


 鉄壁さんは隙がなさすぎる。

 そ、それに薔薇の紋章に誓って、彼には手を出さないと約束してしまったしな。

 

「か、彼はなんとしても仲間にしたい」


  元老院セナトゥスに取り込めば全て解決できる。

 問題はその方法なんだ。


 彼が絶望し、僕を脅威に感じるような……ベストの方法。


「暗殺しかないか……」


 日本の首相をはじめ、彼の部下である片井ビルの主要メンバーを暗殺する。

 

「動画のデータを持っている者を暗殺するんだ」


 くくく。

 自然な交通事故にでも見せかければ問題ないだろう。

 大事なのは気づくことだ。

 僕に逆らったらどうなるのか?

 くくく、後悔させてやる。

 愛しい仲間たちを失って、僕の脅威に気がつくんだよ。


 この提案に答えたのは、褐色肌のエルフ、ギーベイクこと 影闇使いダークマンだった。


「それはできません」


「なぜだ?」


「日本に送り込んだ、 元老院セナトゥスの工作員から連絡が途絶えているのです」


「なに!? こ、工作員は何人だ?」


「30人。全員が音沙汰がありません」


「なにぃいいいいいいいい!?」


「片井ビルの調査に向かわせた工作員です。潜入のエキスパート。探索者ではS級レベルの実力者たちですよ」


「そ、それが30人、全員!? 音信不通なのか!?」


「はい」


「どうして!?」


「おそらく、忍者にやられたのかと」


「に、忍者!?」


「鉄壁さんの部下であるくの一集団です」


「う、ううむ……」


「それに、片井ビルには防衛省の手練れも警備に当たっています。銃の所持ができない国で、銃を携帯して警備しているのです」


「じゃ、じゃあ、その者たちに 元老院セナトゥスの工作員は捕まったのか?」


「おそらく」


 ぬぐぅうううううう!!

 じゃ、じゃあ、


「追加の工作員を送るならどうなる?」


「不可能です。今や日本の空港では厳戒態勢が敷かれております。入国自体が厳しい。首相官邸はおろか、片井ビルに近づくことさえできませんよ」


「ああ…………」

 

 て、鉄壁すぎる……。

 

「ベロファー様。もう諦めてはどうでしょうか? 彼を恐怖で支配するのは不可能ですよ」


「そ、そんなぁ……」


 ぼ、僕が頭を下げるのか?

 精神的貴族の僕が?

 庶民の 真王子まおこに?

 ああああああ……悪夢だ。


「ベロファー様。あなたの野望を叶えるには彼の力が必要です。ご決断の時かと」


 僕の野望……。


 それは魔炎石を使った経済革命。

 

 全ての金融市場を独占して行う国家統一。


 ジーストリアを中心にした独裁政治。


 僕はジーストリアの上層部を欺き、この国のトップに立つつもりだ。

 そして、ゆくゆくは世界の王に君臨する。


 僕は王になる存在だ。

 なんとしても、鉄壁さんが部下に欲しい。

 今は我慢の時なのか?

 うう……。でも、せめて上に立ちたい。

 王として認めさせたい。

 鉄壁さんを負かして、僕の前でひざまずかせたいんだ。


「ベ、ベロファー様! た、大変です!」


 部下がノックをせずに会議室に入って来た。


「なんだ。想像しい」


「と、島内警察が来ました!」


「は?」


 すると、大きな銃と軍服に身を包んだ者たちが5、6名で入って来た。


 いやいや。

 ここは上層部の人間でも許可なしには入れない神聖な場所なんだぞ。


「君たち、上層部の許可は取ったのか? これは厳罰ものだぞ?」


「ベロファー・トングエ。島国情報漏洩罪で逮捕する」


 はいいい!?


「な、なんで!?」


「これを見ろ」


 それは大きなタブレット。

 その液晶画面には、とある配信動画が映っていた。


『どうも〜〜。Bでぇす。初めて生配信しまーーす』


 このBと名乗っている男。

 人気のない屋外で撮影しているのか?


 こ、この顔……。

 ぼ、僕にそっくりだ……。


 な、なんで?

 僕のモノマネをしているのか?


『今は外を散歩中です。僕がいる場所を教えましょうか』


 それにしてはおかしいぞ?

 声だって一緒だし、服装だって、薔薇の紋章がついたフードを着ている。


 どう見ても僕じゃないか!


『ほらぁ、綺麗な海が見えるでしょ? 対岸に見えるのはオーストラリアかな。僕は今、ジーストリアから配信してまーーす』


 なんだとぉおおおおおおお!?

 僕は配信なんかやっていないぞぉおおお!!

 規制の厳しいこの島国でネット配信なんかしたら収容所送りだ!

 どういうことだぁあああ!?


『やっぱりねーー。約束を破るやつって最悪だと思うんですよねぇ』


 や、約束だと!?


 なにを喋ってるんだ!?


『精神的貴族って、なんなんでしょうね? 本当に貴族なのかな?』


 こ、こいつ……。


 こいつの正体がわかりかけてきたぞ……。


『同接は……。ゼロ人か。ははは。やっぱり人気がないから、こんな配信は誰も見てないか。でもね。これはメッセージなんですよね。どうせ監視センターで観てんだろ?』


 メッセージだと!?




『風間を返せ。俺がいいたいのはそれだけだ』




 やっぱり!

 こいつ鉄壁さんだ。

 やつが変装スキルで僕に化けているんだ。


 あの時、僕の姿を見たから、コピーしたのか!?

 警備員のジミーに変装したように、そっくりそのまま。声だって一緒だぞ。


 僕は手錠をはめられた。


「ベロファー・トングエ。島国情報漏洩罪で逮捕する」


「違っ! 誤解だ!! 僕は配信なんかしていない!!」


 ぬぐぅぉおお!!

 屈辱すぎるぅうううううううう!!

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