第185話 鉄壁さん VS ベロファー【前編】
「君が
やれやれ。
そういうことを面と向かっていうんだからな。
舌に薔薇のタトゥーを彫っていることといい、常識というネジがぶっ飛んでるやつだよ。
俺は、ベロファーとゲームをすることになった。
その名も、『汗をかいた方が負けゲーム』。
シンプルに分かりやすい名前だがな。そのルールは残酷だ。
相手を怖がらせて、汗をかかせれば勝ち。
付け加えて、やつがいっていたんだがな。
殺しても勝ち。
ということらしい。
ゲームを始める前にいっておかなければならない。
「俺が勝ったら風間 潤志郎は引き渡してもらう。いいな?」
「ふふふ。もちろんだよ。君が勝てたら風間は返す。でも、僕が勝ったら君は
「ああ。その条件でいいだろう」
「あは!! ベリッシモ!! 最高じゃないか!!」
やれやれ。
イタリア語で絶賛なんかしやがって、もう勝った気でいるのか。
「ふふふ。君は体内に防御魔法を潜ませているんだろう?」
「
「いい名前だね。その
そうなんだ。
俺には体内に付与できる防御魔法がある。
しかも、念のため、
これなら、ベロファーの攻撃は通らない。
この絶望的な状況をどうやって打破するんだ?
「ふふふ……。鉄壁の防御魔法か……。鉄壁さんにダメージは与えられない……。ふふふ」
「なにがそんなにおかしいんだ?」
「君が怖がる顔を想像したんだよ」
「ほぉ……」
「僕はこれを使おうかな」
と、亜空間から短剣を取り出す。
こいつ、収納スキルを使えるようだな。
それにしても、さっきの折れた剣より短いな。
戦力ダウンなのにこの自信は妙だぞ。
「僕はスキルを3つ所有している。1つは時を止める
短剣にオーラが宿る。
「どんな魔法壁でも貫くことができる
やれやれ。
自信の秘密はそれだったのか。
「さぁ、どうする鉄壁さん?
「なるほどな。おまえの自信はそこにあったのか」
「これだけじゃないよ。ふふふ」
と、
「首の頸動脈を斬るとね。血液がドバドバと吹き出るんだよ。でも、ハイポーションを飲めればすぐに治るんだ」
「ほぉ。だから?」
「くくく。わからないかな? 僕は短剣を持っている。止まった時間の中でなら、いつだって君の首をかっ切ることが可能なんだよ」
「ハイポーションはなんだ?」
「君が必要だろ? ふふふ。僕は優しいからね」
要するに、俺の首を斬ったあとに、ハイポーションで助けを求める状況にしたいということだな。
「いくら鉄壁さんだって死にたくはないだろう? 出血が酷ければ死んでしまうかもしれないねぇ。くくく。怖いだろう? 今から頸動脈が斬られてしまうんだよ?」
たしかに、動脈を斬られるのは絶対に避けたいな。
「ふふふ。まだ、汗をかかないね。流石は暗奏を攻略した探索者だな。ますます部下に欲しいね」
「そりゃどうも」
「でも、血が吹き出たらどうだろうねぇ? フヒャヒャ! 僕はハイポーションを持っているけどさ。すぐにあげないかもしれないよ? 飲むのが遅れたら死んじゃうかもしれないねぇええ!!」
「じゃあ、対策をしておこうかな」
俺はおもむろにハンカチを取り出した。ゆっくりと、それを首に巻きつける。
「は? おいおい。なんのつもりだよ、それ?」
「んーー。防御策かな。首が斬られるかもしれないしな」
「ブハ! マジ!? 君、本気かい!?」
「ああ。大真面目さ」
「ぷふぅうう! 頸動脈の出血をハンカチで止める気かい!?」
「ないよりマシだろう」
「あははは! ベリッシモ! ウケる!! 鉄壁さんはジョークの達人だ!!」
「……いたって真面目だがな。それにハンカチは止血だけの意味じゃないさ。おまえのへっぽこ剣技じゃあ、ハンカチの布を斬るのも一苦労だろうよ。それに、この布の分厚さが頸動脈の位置を不明確にする。切り込みが深過ぎればハイポーションを飲むことはできない。いわば死亡確定だ。おまえの交渉は不可能になるな。そうだ、アドバイスしておこうか。出血多量ならば別に首の頸動脈じゃなくてもいい。四肢の切断でも十分にそれは可能なんだ」
ベロファーから笑みが消える。
つまらなさそうに眉を寄せた。
「あ、そう。アドバイスどうも。じゃあ、試した方が早いね」
と、言った瞬間である。
ベロファーは俺の真横に立っていた。
舌を出してニンマリと笑う。
やれやれ。
時を止めて移動したな。
「もう逃げることはできないよ。次の瞬間には流血事故さ。さぁ、確認しようか? くくく。君の血の色は何色なんだろうね?」
☆
〜〜ベロファー視点〜〜
片井
どんな攻撃を防御する無敵の探索者。
通称、鉄壁さん。
気に触るやつだ。
僕と対峙して、ここまで汗一つかいていない。
こんなことは初めてだよ。
必ず、焦っているはずなのに。
死を目の前にして、汗をかかない人間なんているもんか。
僕は大勢見てきたんだ。
みんな、汗を流す。
僕に恐怖を感じてね。
僕の力は無敵なんだ。
僕は畏怖の対象。
僕こそ、無敵の探索者なんだよ。
僕の攻撃が防げるもんか。
〈
さぁ、恐怖の時間だぞ。
「あーーーーーーーーーーーーーー」
くくく。
僕は止まった時間の世界の中で、声を出している間だけ動くことができる。
これが僕のユニークスキルだ。
「あーーーーーーーーーーーーーー」
この声を出している間しか時を止めれないのは、このスキルの弱点なんだがな。
時が止まった世界は僕しか動けないしね。この弱点が誰かに知られるということはありえないのさ。
ふふふ。つまりは、無敵のスキルってわけだ。
さて、鉄壁さん。
君には痛い思いをしてもらおうか。
首の頸動脈を斬ってさ。
くくく。
血がドバッと吹き出れば、いくら鉄壁さんだって恐怖を感じるだろうさ。
そして、だらだらと大汗をかくんだ。
くくく。
想像するだけで笑いが止まらないよ。
君が「助けてくれ」と懇願すればハイポーションを渡してやるよ。
ふふふ。そうなれば、晴れて僕の部下に昇格さ。
主従関係というものは、恐怖で支配することなんだよ。
君に恐怖を与えるのは上司の役目なのさ。
僕は畏怖の対象なんだ。
「あーーーーーーーーーーーーー」
さて、頸動脈の斬り方だがな。
こいつは生意気にも、僕の剣技がへっぽこと言ったな。
それに、ハンカチで頸動脈を斬れないだって?
バカな。そんなことで僕の計画は狂わないのさ。
首を狙うのをやめて君の四肢を斬り落とすなんて、無様なことは絶対にできない。
だから、その剣技でハンカチごと斬ってやるよ。簡単さ。ハンカチ越しに頸動脈を切断するなんて。僕なら目をつむってもできる。
それよりも悪手なんじゃないか。
傷口にハンカチの布切れが食い込んで、症状が悪化するかもしれないよ。
くくく。
さぁ、どんな風に汗をかくかな?
恐怖を与えてやるぞ!
僕は、短剣を彼の首めがけて振った。
ふふふ。
防御魔法なんか通じない。
頸動脈だけを斬るなんて簡単。
なにせ僕の剣技はSS級の探索者なのだからなぁ!
と、思うや否や。
短剣がハンカチに到達すると爆発が起こった。
それは、まるで地雷でも踏んづけたような火力。
ドバァアアアアアアアンッ!!
なにぃいいいいいいいいいいいいいい!?
なにが爆発したんだぁあああああああ!?
僕は吹っ飛ばされた。
さ、最悪だ。
熱い! 痛い!!
で、でも、体はギリギリ動く。
全身が火傷を負ったレベルだ。
し、しかし、
「ゲホッ! ゲホッ!!」
の、喉に火が入ったぁああああああ!!
ぬぐぉおおおおおおお!!
喉がぁああああああああ!!
声が止まるのと同時に
「ああ、どうやら発動したみたいだな」
「ゲホッ! ゲホッ!! は、は、発動だと!?」
「ふふ。実はわくわくしていたんだ」
「ゲホッ! ゲホッ!! な、なにをしたんだ!?」
「これをさ。ハンカチの中に仕込んでおいた」
な、なんだ、あの石は?
中が赤いぞ。まるで炎が燃えているようだ。
ま、まさか!?
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