第184話 ベロファーのスキル

 ベロファーのユニークスキルの謎。

 

 それが少しわかりかけてきた。


 ……もしも、こんな能力が存在するのなら無敵だがな。俺の考えが正しいかはまだわからない。


 ちょっと、確かめてみようか。

 俺の考察を裏付ける実験だ。


攻撃アタック 防御ディフェンス


 俺は20枚以上の魔法壁を周囲に発生させた。


 これを全て、



「壁パンチ。だ、だ、だ、だ、だ──」



 壁パンチの猛ラッシュ。

 さぁ、どう出るベロファー?

 とても逃げれる隙間なんかないぞ。


 ベロファーは薔薇のタトゥーが入った舌を出してニヤリと笑った。


「こんな攻撃で僕を倒そうっていうのかい? 愚かだね」





〜〜ベロファー視点〜〜


 壁パンチのラッシュか。

 くだらない攻撃だね。


  死んだ時間デッドタイム


「あーーーーーーーーーーーーーーー」


 この技が発動すれば、時間を止めることができるんだ。

 もちろん、止まった世界の中で動けるのは僕だけさ。


 これが僕のユニークスキル。


 世界でただ1人。

 僕だけが使える能力だ。


「あーーーーーーーーーーーーーーー」


 少しだけ不便なのは声を出さないといけないことかな。

 

「あーーーーーーーーーーーーーーー」


 声を出している間だけは永遠に時を止めておける。


 だから、こんな壁パンチのラッシュなんかさ。


 ひょいひょいっとね。

 隙間を縫って躱すことが可能なのさ。


 この時を止めている世界なら、僕が人間の首を斬れば、その結果だけが残る。

 警備員ジミーの首を斬ったのはこの力だ。


 彼は猫を虐めていたからね。

 殺されて当然の人間。いわば、島に巣食う害虫さ。

 害虫は駆除しなくちゃね。


 さて、声を出すのも疲れたし、壁パンチの猛攻は全て躱すことができたから、 死んだ時間デッドタイムは解除しようか。

 声を止めれば、自動的に解除されるんだ。


 


〜〜片井視点〜〜


 瞬間。

 魔法壁のラッシュは空を切った。

 俺が撃った壁パンチは全てが何事もなかったかのようにダンジョンの壁に衝突したのだ。


 ベロファーは涼しい顔をして俺の目の前に立っていた。


 やれやれ。

 動いた素ぶりさえ見えないのか。

 でも、これでほぼ確定したな。



「おまえ……。時間を止めれるのか? その中を自分だけが動けるんだ」



 さっき、剣が折れた音が半分しか聞こえなかったのは時間が止まっていたからだ。

 やつは止まった世界の中で俺の背中を斬りつけた。そして、 潜伏ハイド 防御ディェンスが発動して剣が折れた。時間が動き出したのは剣が折れた瞬間。だから、折れた音が半分しか聞こえなかったんだ。


 これは相当に動揺するんじゃないだろうか?

 なにせ、時間を止めれる能力を隠していたんだからな。

 正体を突き止められたんじゃ、動揺も隠し切れないだろう。


「へぇ……。この能力に気がつく人間がいたのか。初めてかもね。普通はパニックになってさ。僕にひれ伏すのにね」


 あっさり認めた。

 少しだけ眉がピクリと動いていたが、それほど動揺しているようにも見えないな。

 よほど、自分のスキルに自信があるらしい。


 それにしてもまいったな。

 時を止める能力。

 漫画とか映画じゃよく見るアイデアだけどさ。

 まさか、そんなスキル持ちと戦うとは思わなかったよ。


「僕の愛称は『 時間使いクロックマン』。 元老院セナトゥスの中だとユニークスキルの名前が愛称になるんだけどね。それだと能力がネタバレしちゃうだろ。だから、僕だけは本名で呼んでもらうようにしているんだよね」


 なるほどな。 元老院セナトゥスでも口外禁止の能力だったか。


 そういえば、 粘土使いクレイマンってのは粘土使い。

 奴が仲間を呼んでいたのは、たしか…… 飛行使いジェットレディだったな。

 ジェットは飛行かな?  元老院セナトゥスは飛行スキルを使う者がいるらしいからな。そういうことなのだろう。

  時間使いクロックマンだから時間を止めるユニークスキルってことか。


 しかし、そうなってくるとおかしいな。

 愛称を隠すほどの秘密の能力だってのにさ。

 俺に暴かれても動揺する様子がない。


「さて、挨拶はこれくらいにして、本題に入ろうか」


 ん?

 本題……だと??


「片井  真王まお。いや、鉄壁さんと呼んだ方がいいかな。僕たちの仲間にならないかい?」


「なんの話だ?」


「僕がここに来た理由さ。君が敵か味方かはっきりしたい。君のことは1度誘っているけどね。あの時は 影闇使いダークマンが対応したんだ。君は断ったけどさ」


影闇使いダークマン?」


「ああ。褐色肌のエルフだよ。ギーベイクって名前なんだけど、覚えてない?」


 ああ、日本に来た、監査官に化けていたやつだな。

 愛称を持ってるってことはユニークスキルがあるのか。


「今回は2度目の勧誘になるね。 元老院セナトゥスのトップが直々に君を誘いに来たってわけだ」


 それがこいつの目的だったのか。

 つまり、仲間にならスキルの秘密を明かしてもいいわけだ。

 それにしては荒っぽい勧誘だよな。

 コルと 華龍ホアロンは、未だに気を失ったままだ。


「仲間を気絶させて、俺の背中を剣で斬ってから勧誘してくるとはな。随分と傲慢な交渉術だな」


「恐怖で支配するのが僕のやり方だからね」


 それを飄々と抜かすのか。

 価値観がぶっ飛んでるな。


 こんな勧誘は速攻で拒否するのが当然なんだがな。

 利用できるかもしれない。

 こいつの目的が俺の勧誘なら、場合によっては交渉が成立するかもしれないぞ。


元老院セナトゥスの全容が見えないからな。すぐに返事は難しいさ。それより風間は無事か? 俺は彼を探しに来たんだからな」


「彼は元気さ」


 ほぉ、


「どこにいるんだ?」


「秘密♪ 仲間になったら教えてあげるよ」


 やれやれ。


「断ったらどうなるんだ?」


「もちろん、僕の敵ということになる」


 ベロファーはニヤニヤと笑う。


「じゃあ、ゲームをしようか?」


 やれやれ、遊んでいる場合じゃないがな。


「その名も、汗をかいた方が負けゲーム」


 なんじゃそりゃ?


「恐怖をすれば汗をかく。簡単なゲームさ」


「怖がらせた方が勝ちってことか」


「そのとおり。負けた方が相手の要求を聞くんだ」


「ほぉ……」


「もちろん、相手を殺しても勝ちだよ」


「俺がおまえを殺したら風間の行方はわからない。おまえが俺を殺したら、勧誘は失敗する。なにが、勝ちなんだよ?」


「勝ちは勝ちさ。もちろん、やるよねぇ? 君は、無敵の探索者、鉄壁さんだもん」


 ベロファーは舌を出してニヤリと笑う。

 

 どうでもいいが、命をかけるにしては、ゲームの名前がお粗末すぎるよな。

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