第182話 ダンジョン寿司

 俺とコルの配信は絶好調だった。


 今日は 華龍ホアロンとコルと俺の3人でダンジョン飯の企画だ。


「寿司? ってなんだ?」


 と、コルはコウモリカメラの前で小首を傾げた。


「ふふふ。これぞ、日本食の真骨頂さ」


「おお。なんだかわからないけど、わくわくする」


 日本政府からは自炊用の食材が送られくるんだがな。

 その中に、米と酢と海苔が入っていたんだよな。

 これは使わない手はないって。


 ジーストリアは海に囲まれていて寿司との相性は抜群なんだがな。

 いかんせん、情報規制が厳しい。風景写真をネットにアップするだけで逮捕されて強制収容所行きなんだ。

 そうなると、近海で捕れる魚介類も問題だよな。

 魚の種類で国の場所が特定される可能性がある。

 そんな寿司で配信は危険だよな。


 だから、ダンジョンの食材を使う。


 ダンジョンの中には綺麗な小川が流れている場所があって、そこにはダンジョンフィッシュが棲んでいるんだよな。

 この魚は白身で旨い。鯛みたいな味なんだよな。


「このダンジョンフィッシュをさ。持ってきた包丁でさばく」


 ささささっと。


「おお! 綺麗に3枚おろしになったある!」

「包丁さばきがすごい!」


 ふふふ。

 この魚は、俺が極貧生活をしていた時にお世話になったんだよな。

 ダンジョンで捕まえれば無料だからな。


「新鮮なダンジョンフィッシュは刺身でも食べれるんだ」


「な、生で食べるの?」

「ちょっと、抵抗があるあるな」


「まぁそう言わずに。醤油とわさびをつけてね。まずは刺身からいってみようか。食べてみてよ」


 2人は意を決して刺身を口に入れた。


「ん、旨い!」

「たんぱくでコクがある旨みね! 美味しいある!」


 癖のない魚だからな。

 油と旨みだけが口の中に広がるのさ。

 コメントも盛り上がっていた。


『旨そう!』

『食べたい!』

『ジャパニーズ刺身!』

『醤油はムラサキっていうんだよね?』

『いいなぁーー』

『美少女3人で刺身食うとか天国かよ』


 んじゃ、メインいってみるか。


「続いて、事前に作っておいた酢飯の上に刺身を乗せる。これが寿司だ」


 シャリの握り方は口の中でフワッとなるようにさ。イメージが大事なんだよな。

 

 2人はパクついた。


「ん、旨い!」

「酢飯と魚の旨みがマッチしてるあるね! 米がフワッと口の中に広がって、ダンジョンフィッシュの旨みに絡まるあるね! 美味しいある!」


 コルのボキャブラリーの少なさが若干気になるが、美味しいものを食べた時って言葉が出ないもんだからな。


真王子まおこ。もっと食べたい」


「よしきた。次は軍艦巻きいってみるか」


 海苔、酢飯、ネタ。の三拍子だ。


「ん、旨い!」


 やっぱりボキャブラリーが少ないな。

 企画配信だからもう少し話して欲しいんだがな。まぁでも、初めに比べたらこれでも話してる方か。彼女にすれば十分に成長してるよな。


「いくらでも食べれる。ボク、寿司が好きかもしれない」


 気に入ってくれてなによりだ。


「これ、あたしの店でも出したいあるな……」


  華龍ホアロンの実家は陳珍軒という中華食堂を経営している。

 中華で寿司とは中々にトリッキーだよな。


『寿司うまそう』

『旨いしか言わないコルちゃん可愛いw』

真王子まおこは職人なのか?』

『しゃりを握るのは腕がいると聞いたことがある』

『いいなぁ。ダンジョン寿司とか美味しそう』

『寿司は国境を越えるなw』


 コメントもいい感じで盛り上がってるし、企画は大成功だな。


 さて、せっかく配信をしてるしな。

 

「お腹が膨れたら運動がてらダンジョン攻略といきますか」


 俺たちはダンジョンを進んだ。


 まぁいつもの配信だ。

 しかも、今回はレベルの低いD級ダンジョンだからな。

 ぱぱぱっと攻略して終わればキリがいいだろう。


 などと思っていると……。


 辺りは霧に覆われた。


「あれ? なんで霧が?」

「おかしいあるな?」


 コメントもおかしい。


『あれぇえ? 映らないよぉお?』

『トラブルか?』

『映像がフリーズ中です』

『おーーい』

『コルちゃーーん。 真王子まおこちゃーーん』

『誰か返事してーー』


 この霧。

 ただの霧じゃないぞ。

 コウモリカメラの録画機能を完全に停止させるギガミストールだ。


 そう思ったのも束の間。

 コルと 華龍ホアロンは床に伏せていた。


 なに!?

 いつの間に攻撃を受けたんだ!?


「おい。大丈夫か!?」


 気がつけば、1人の少年が目の前に立っていた。


「おまえ……いつから?」


 やって来る姿も気配もなかったのに?


 少年は舌を出してニヤリと笑った。


 ……何者だ?

 舌の中に……薔薇のタトゥーが彫ってあるぞ。

 なんかヤバそうな奴だな。


 警戒する俺に、少年は無邪気な笑顔を見せた。


「やぁ。僕はベロファー」


「…………」


 どうやら1人のようだな。

 こいつが、2人に攻撃をしたのか?

 どうやって攻撃したんだ?


 少年の胸には薔薇の紋章……。

 俺より年下に見えるが、


「おまえ……。 元老院セナトゥスか?」


「ふふふ。話が早くて嬉しいね」


「2人になにをした?」


「安心してよ。気を失っているだけだからさ」


「……目的はなんだ?」


「それはこっちのセリフさ。君は魔炎石の採掘を見ただろう?」


 なに!?


「隠しても無駄さ。君が警備員のジミーに変装していたんだ」


 こいつ……。どうしてそんなことまで?



「壁野  真王子まおこは仮の姿だよね。本当の名前は、片井  真王まおだ。またの名を鉄壁さん」



 やれやれ。

 どうやら、随分と調べがついているようだな。

 あの粘土を使う探索者から俺の正体がバレたのか。

 あの時は 偽装カモフラスキルで警備員に変装していたんだがな。

 壁パンチを見せたから、正体がバレてしまったんだ。


 でもな。

 実は、これを待っていた。

  元老院セナトゥスから接触してくれるのをな。


 俺の名前を知っているということは、


「俺の目的もわかっているよな?」


「まぁね。風間 潤志郎を探しに来たんだろ?」


「話しが早いな」


「彼が栄華の探索で死亡したのは知らないのかい?」


「もちろん、知っているさ。彼が生きてることもな」


「なんだ。やっぱり、知っていたのか」


 ……コルと 華龍ホアロンは謎の能力で気絶させられた。おそらく、こいつのユニークスキルだ。その力の謎を解かないと、俺の魔法では防御できないかもしれない。

 俺を攻撃して来なかったのは、なにか理由があるはずだ。風間の身柄の引き渡しは、その理由を前提に進めるしかないな。


 やれやれ。

 スキルの謎解きと風間の交渉か。

 脳みそフル回転だな。

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