第181話 鉄壁さんの正体

  元老院セナトゥス本部。


 建物の入り口には薔薇の紋章が輝く。


 会議室の上座には歳若いリーダーが座る。 

 それは15、6歳くらいに見える少年。

 ベロファーは部下が集めたファイルを見つめていた。


「壁野  真王子まおこか……」


  粘土使いクレイマンは眉を寄せた。


「まさか、風間以外にも日本人が来ていたなんて意外でしたね」


「おそらく、政府の差金だろう。風間を探しに来たんだ。こいつが変装スキルの使い手さ」


「え? じゃあ……。こいつが」


 ベロファーはニヤリと笑う。




「鉄壁さんだ」


 


 一同は目を見張る。


「少女ではないか」

「俺っちが苦戦したからな。鉄壁さんの実力は本物だぜ」

「女子学生に変装するとはまさかだな」

「声まで偽装ができるのは相当に厄介だわ」


 ベロファーは片井を勧誘したことを思い出す。


「勧誘は日本だよね。たしか、担当したのは 影闇使いダークマンだ」


 みんなは1人の男に注目した。

  影闇使いダークマンと呼ばれた者は、褐色肌をしており、鋭い目と尖った耳を持っていた。


「おい。ギーベイクよぉ。おめぇはアンダルハイヤーのエルフだろぉ? 地球人の勧誘の仕方を知らないんじゃないのか?」


粘土使いクレイマン。私の名前は 影闇使いダークマンと呼んで欲しいね」


「ふん。 元老院士セナトゥサーのユニークスキル持ちはその名前で呼んだりするけどよ。それは同じ地球人だからだよな。ギーベイク。おめぇは卑しいエルフだってばよ」


 ベロファーは目を細める。


粘土使いクレイマン。仲間同士仲良くしてくれ。 元老院セナトゥスの紋章は薔薇のマークだ。これは友情を意味するんだよ」


「ベロファー様がいうなら……。そうしますけどね。エルフはなにを考えているのかわからねぇんですよ。どうにも好きにはなれませんね」


「そういわないでよ。 影闇使いダークマンがいないと研究所も作れなかったんだからさ」


「その研究所が問題なんですよ。アンダルハイヤーの学者を10人も連れ込んでさ。黙示録の解読が進んでないじゃないですか。せっかく 寺開じあく財団から金を引っ張ったっていうのによ。無駄金だったっすよぉ!」


  影闇使いダークマンは目を細めた。


「黙示録の解読は絶対です。あの書物にはこの星の未来がかかっているのですから」


「へん。どうだかなぁ? そもそも魔族が書いたってのも胡散臭いぜ。古代魔字だっけか? その文字を読めるエルフがどうして解読できねぇんだよ?」


「黙示録には地球の情報が多く含まれているのです。アンダルハイヤーのエルフだけでは解読ができません」


「だから、日本人の風間 潤志郎を入れたんだろうがよぉおお! ちょっとは進んだのか? んん?」


「解読は順調です」


「だったらあああ! この星を救う堅牢の勇者は誰なんだってばよぉおお!? 言ってみろごらぁああああ!!」


「それは……。まだ、推測の域を出ません」


「ほぉおらな! これだからエルフは無能なんだぜ! 堅牢の勇者はここにおられるベロファー様なんだってばよ!! ベロファー様は最強の力を持っているんだからなぁああ!!」


 ベロファーは眉を上げた。


「そういえば、 影闇使いダークマンは色々と日本で画策していたね。研究所の費用を捻出するために 寺開じあく財団と手を組んでいたんだっけ」


「魔炎石の採掘が順調になりましたからね。 寺開じあく財団はもう使いません」


「黙示録は未だ全容がわからない。でも、堅牢の勇者がこの星を救うのは確かなんでしょ?」


「はい。それだけは確実です」


「……まぁ、君が設立した研究所のおかげでは防げているからね。黙示録の効果はあるのか」


「黙示録の解読は必ず光明をもたらします。堅牢の勇者さえ見つかれば、この星は救われるのです」


「僕は堅牢の勇者じゃないんだよね?」


「それは……」


「推測でいいからさ。君の見解を聞かせてよ」


「しかし……。不確定なことは混乱を招きます」


「構わないよ。あくまでも参考にするだけだからさ」


「では……。推測を述べましょうか。私は堅牢の勇者をある1人の男だと断定しました」


「へぇ。もう目星がついてるんだ。一体誰だい?」


  影闇使いダークマンは息を吸った。


「片井  真王まおです」


「聞いたことがないね。誰なんだい?」


「日本の探索者。等級はD級だが、実力は折り紙つき。暗奏を攻略した日本の英雄です」


「なに!? じゃあ……」


「そうです。ネットの愛称は『鉄壁さん』。つまり、変装スキルによって姿を変えた壁野  真王子まおこです」


「ほぉ……。 真王子まおこが堅牢の勇者……。根拠はあるのかい?」


「彼が使う防御魔法は、強度と性質を変化させる。こんな魔法は存在しません。アンダルハイヤーではロストマジックとなっています」


「なるほど。少しは根拠があるのか……。じゃあ、SSS級ダンジョン終焉を封印したMAKOTOとも関係があるのかな?」


「それはわかりません」


「その……。片井  真王まおの素性は調べたのかい?」


「それが調べられないのです」


「なんで? 本名がわかっているんだろう?」


「年齢は20代前半と推測されます」


「そんなのは配信でわかることだよね。彼の身辺はどうなっているんだい?」


「片井の組織は複雑です。片井ビルという自社ビルを2つ持ち、その中にいくつかの事業展開をしています。彼の傘下には腕の立つエルフと忍者の団体がいるようです」


「へぇ……。若いのにすごいな」


「加えて、日本政府と 静寂の森サイレントフォレストとの繋がりもあるようです」


静寂の森サイレントフォレストって、たしか日本のS級探索者だけの友愛団体だよね?」


「そうです。 光永みつながを筆頭にした秘密結社。その全容は謎に包まれています」


「ふぅむ……。S級探索者くらいならば大した存在ではないけどね。団体となると厄介だな」


「片井は複雑な人脈を形成しています。驚いたのは日本のヤクザとも繋がりがあることです」


「なに!? ヤクザだと??」


「恐龍会といいます。かなり武闘派のヤクザですよ。どこまで片井と関係があるのかはわかりませんが、組員の中にはサイの刺青を彫る人間が続出しております。相当な崇拝具合とみていいでしょう」


「うううむ……」


「彼の素性を探ろうとすると、防衛省と環境省が間に入ります」


「なんで?」


「わかりません。ただ、簡単には探れないということです。一度、片井ビルを調べようとしたことがあります。しかし、できなった。日本では、法務局管轄の誰でも取得できる片井ビルの登記事項証明書が、防衛省の介入により制限されていたのです。その他、片井  真王まお名義の素性も調べることはできませんでした。学歴、生まれた病院。彼の過去を調べようとすると必ず制限がかかる。これ以上探ればこちらの存在が怪しまれます」


「……何者なんだろう?」


 みんなが片井の素性を考察する中、ベロファーはふとなにかに気がついた。


「あれ?  影闇使いダークマン。もしかして君は 真王子まおこのことは知っていたのか?」


「そ、それは……」


 これには 粘土使いクレイマンが黙っちゃいない。


「おいおいおーーーーい! これだからエルフは嫌になるぜ! おいギーベイク!! ふざけるんじゃないってばよ! 俺っちはやつの壁パンチをモロに喰らったんだからなぁああ!! 正体を知っていたのに黙ってやがったのかよおおお!!」


「だから、私のは推測だと言っただろう」


「うるせぇええ!! もっと早くいってくれりゃあよ。無駄な捜査はしなくて済んだのによぉおお!」


「そもそも。私は 真王子まおこと敵対したいわけじゃない。彼が堅牢の勇者なら絶対に仲間にするべきなんだ」


「るせぇええ!! 俺っちは痛い目にあってんだってばよ!! んなやつを仲間にできっかよぉおおお!!」


 その瞬間。

  粘土使いクレイマンは吹っ飛んだ。

 鼻から真っ赤な血がツーーと流れる。


 上座ではベロファーが凄まじい剣幕だった。





「黙れ」





  粘土使いクレイマンは自分を殴ったのがベロファーだと察した。


「す、すいませんでした……」


 ベロファーは 真王子まおこの写真を見つめる。


「彼女の目的は風間の救出だろう。問題はそれだけで終わるかどうかなんだ。確認しないとな──」


 一同は彼の言葉に注目した。



「壁野  真王子まおこ……。敵か味方か?」

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