第180話 陰キャの力

 俺とコルの配信は絶好調だった。


 ブラックスとのコラボは大好評。

 その日の内にチャンネル登録者は100万人を突破した。

 学園内で大人気となってしまう。


 おかげで2年生からのコラボ依頼は殺到している。

 これをきっかけに風間のことを探ったが、どうやら、彼は周囲と交流を持っていなかったらしい。

 非常に影が薄く、性格も行動範囲もよくわからない人物像だった。

 彼を探って居場所を特定するのは難しそうだ。


 こうなると 元老院セナトゥスのことを探る必要があるんだがな。

 島内でもこの組織のことは謎が多かった。


 どうやって 元老院セナトゥスを調べるか?

 そんなことを考えながらも、俺の学生生活は続く。

 

 面白くないのは、 翼山車よくだしの娘デザイアだ。

 彼女はブラックスとコラボをしていたのだが、その影響でチャンネル登録者は150万人になっていた。

 とはいえ、俺の伸び方に危機感を募らせる。


わたくしは150万人ですのよ! 150万人! ひゃく、ごじゅうまんにん!! ですの!! ブヒョヒョヒョ!!」


 聞いてもいないのにアピって来る。

 特に酷いのはコルへの態度だ。


「コルったらまだ登録者は80万人のようね。ふふふ。やっぱり陰キャにはそれが限界かしらぁああ?」


 コルは眉を寄せるだけだった。


 こういうのって配信者としてのプライドが疼くんだよな。

 日曜日だけの配信じゃあ、デザイアに追いつくのは大変だ。


「よしコル。配信する量を増やそう」


「どうやって?」


「朝に申請を出せば放課後には許可がおりる。レベルの低いダンジョンを片っ端から攻略していこう!」


 俺たち2人の配信活動が始まる。

 C級レベルの難度の低いダンジョンを攻略しまくった。


 チャンネル登録者はうなぎ上り。


 うーーん。

 もっとパンチが欲しいか。


「コルはコスプレをしてみるか」


 ふと、俺の中のプロデュース気質がその発想にいたった。

 現在、彼女のチャンネルは登録者120万人だ。

 これを伸ばさない手はない。

 彼女の見た目なら十分にアイドル路線でも売れるだろう。


「ボクがコスプレ……。なんで?」


「流行りといえばダンジョンダンスだけどさ。踊るのは苦手だろ?」


「ダンスはよくわからない」


 一度、挑戦させてみたが、ゾンビが狼狽えている仕草にしか見えなかったもんな。


「可愛い格好をしてさ。男のファンを喜ばせればもっと人気が出ると思うんだ。更に配信が盛り上がると思うんだよな。コルは可愛いしさ」


「ボ、ボクが……可愛い」


「ああ。おまえは可愛い」


真王子まおこぉおおおお!!」


ゴロゴロゴローー!


「転がるな」


真王子まおこと一緒だったらいいよ」


「はい?」


 と、いうわけで島内でも珍しいコスプレショップにやって来た。


 チャイナ服。ナース。バニーガール。

 

 コスプレ服は色々とあるけどな。


真王子まおこはこれが似合いそうだ」


「いや。スク水は勘弁してくれ」


 22歳のいい歳した男が着るにはキツすぎる。

 ……まぁ、女の格好自体が結構キツイけどな。

 てか、よくこんなもん置いてるな。


「じゃあ、アニメのコスプレがいいかも。魔法少女は日本のアニメだ。 真王子まおことは親和性がある」


「スカートが短すぎる。勘弁してくれよ」


「そこがいいんじゃないか。はぁはぁ」


「変態」


「あううう。じゃあ、試着だけでも希望する」


「却下だ」


「うう……」


 と、しょんぼりとする。


 やれやれ。しぼんだアサガオみたいな顔しやがって。


「わかったよ。試着だけはしてやるからさ。着て欲しいのを持ってこいよ」


「やった!」


 彼女は両手一杯にコスチュームを掲げた。

 何十着あるんだよ?


「これ。頼む」


「どれ?」


「全部」


「多すぎだろ」


「試着は着てくれるって言った」


 言うんじゃなかった……。


 俺が魔法少女の格好をすると、コルは下のアングルから写真をパシャパシャ撮っていた。


「おい。アングルが下すぎるだろ」


「ニーハイソックスとミニスカートの絶対領域。加えて恥ずかしがってる 真王子まおこは最高だ……はぁはぁ」


 やれやれ。

 こいつ、ロシア人だけど日本のオタ文化が好きみたいなんだよな。

 どうやら俺の影響で日本アニメを見ているらしい。


 この後も、様々な服を着させられた。

 ポリス、サンタ、赤ずきん。ヴァンパイアってのもあったな。

 その度にコルは鼻息を荒くして写真を撮っていた。


 コルはなんでも似合う感じだ。

 ロシア人特有の真っ白い肌は童話の主人公に似合っていた。

 中でも不思議の国のアリスはハマり役だったな。そのまま映画の主人公っていわれてもなんの違和感もないって。

 

 試行錯誤の末──。

 俺たちが選んだのはセーラー服だった。

 

 念を押しておくが、俺が着ているのは完全に不可抗力だからな。

 学芸会のノリだと思って欲しい。ゲテモノを楽しむ感じというか……。

 もちろん、スカートの丈は長いし、中にスパッツは履いている。


 配信の企画内容は女子高生がダンジョン探索をするというもの。


 基本はバトルシーンを見せれればいいからな。

 C級の簡単なダンジョンをサクッとクリアする。


 セーラー服でダンジョンを探索する姿は中々に珍しい。

 その上、モンスターを殲滅しまくるからな。

 コメントは大盛り上がりだ。


『セーラー服かよ!!』

『似合いすぎワロタ』

『めっちゃ似合っている!!』

『眼福』

『可愛いい!!』

『最高!!』

『マジ天使!!』

『コスプレシリーズもっとやって欲しいです!!』

『黒髪のポニーテールと相性抜群です!』


 肯定コメントばっかかよ。

 ……できれば、ゲロ吐いて笑ってくれた方が救われる。


 企画配信は、なんだかんだで大成功を収めた。

 ネットニュースにも掲載されてしまう。


【千年に2人の天使。セーラー服でダンジョンを舞う!】


 俺のチャンネル登録者は200万人を突破。

 コルは170万人になった。


 デザイアの登録者は155万人。


 なんとついに、コルが彼女に勝ったのだ。


 その頃からデザイアは変わった。

 目を合わせば視線を逸らし、冷や汗を垂らす。

 それでもデザイアに対する敵対心は消えないらしい。

 なにせ、学年で発表されるグレイドランキングでは1位がデザイア、2位がコルなのだ。この不動の位置がデザイアのライバル心に火をつけているようだ。

 放課後にもなると、彼女は自分の仲間たちと嫌味を言うのが精一杯だった。

 普通の会話とは思えないほど大きな声を放つ。


「陰キャは友達が少なくて嫌になりますわねーー。友達2人だけって、ああはなりたくありませんわぁああ! ブヒョヒョヒョ! これは友達同士で会話をしているだけですわぁああああああ!」


 やれやれ。丸聞こえだっての。


 などと呆れていると、コルは珍しく声を張った。

 それは誰に言うでもなく、独り言のように空に向かって。




真王子まおこぉおお。努力は人を裏切らないなぁあ。陰キャでもね。チャンネル登録者は170万人になったもんねぇえええ。陰キャなボクでもねぇええ!」



 

 デザイアは「むきぃいいいいい!!」といったあとに教室を出ていった。全身はタコのように真っ赤だ。


 俺たちはニヤリと笑う。


「2人だけの会話だもんな?」


 コクン。

 

 コルは力強く頷いた。

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