第177話 栄華を探索
俺はS級ダンジョン栄華の中へと進んだ。
その姿は入り口の警備員ジミーの姿を借りている。
おかしいな。
モンスターがまったく出てこないぞ?
誰かが討伐しているのか?
すると、奥の方からガチャンガチャンと、機械が動く音が聞こえてきた。
なんだろう?
地下5階。
そこは広い空間になっていた。
奥の方で誰かが戦っている。
それは1人の探索者。
S級モンスターのアポカリプスキャンサーと戦っていた。
ここはボスルームじゃないからな。使役モンスターでS級クラスが出るってことは相当にレベルが高いダンジョンだよな。
突然、アポカリプスキャンサーが地面に伏せる。
どうやら、一瞬で倒したようだな。
早過ぎて攻撃が見えなかった……。
やや筋肉質の体。おそらく男だろう。相当な実力者だ。
探索者はフードを被っていた。
そのフードには薔薇の紋章。
あれはどっかで見たことのあるデザインだな……。
そうだ。
俺が初日に受けた授業。
スピードスターワイバーンに襲われた時だ。
遭難した1年生を救助に来た時に
って、ことはあいつは
それなら強さの秘密も頷けるな。
でも、どうして
広場には小屋があって、その中には掘削機が忙しく稼働していた。
あのガチャンガチャンという音は、どうやら掘削機のようだな。
なにかを掘っているのか?
俺は岩陰に隠れながらその小屋に近づいた。
グニャ……。
ん?
ぬかるみか?
グニグニ……。
どうやら粘土質の地面みたいだな。
俺は気にも止めず小屋に近づく。
注意するのは向こうにいる探索者だけだ。
あっちは俺に気がついていない。
今のうちに色々と探らせてもろうか。
小屋の中は無人か。
どうやら、あの男が1人でこの場を見ているようだな。
機械は自動だから、あいつは見張り役か。
小屋に近づくモンスターを退治してるんだな。だから、入り口からここまでモンスターに遭遇しなかったんだ。
掘削機は赤い石ころをベルトコンベアを使ってコンテナの中に運んでいた。
なんだこの石?
掴み取ると冷たい。
それは5センチ程度の大きさ。外面は氷に覆われている。
石は透明なクリスタル状で、中には炎が燃えていた。
これはS級アイテム……魔炎石だ。
それを氷で包んでコンテナに入れてるのか。
この石はわずかな衝撃を加えると爆発するからな。
発火しないように氷で包んでいるのか。
これ1個でも100万円はするだろうな。
相当な数があるぞ。
これだけあれば億万長者だな。
このダンジョンは魔炎石の採掘場だったのか。
やれやれ。これで風間が行方不明になった理由が少しだけわかったな。
彼は捜査の途中でこのダンジョンを発見してしまった。
おそらく、口封じのために捕まったんだろう。
それに、ジーストリアがこのダンジョンを隠す理由がわかったよ。
入り口の警備を手薄にしているのは注目を避けるためだろう。
フリーの探索者が間違って入らないようにしているんだ。
その証拠にジーストリア公式のアプリでは名無しのA級指定だからな。
おそらく、このダンジョンはジーストリアの金脈。他の国に狙われる弱点だ。
これは大和総理に報告だな。
島の秘密が少しわかったぞ。
『どうして警備員がこんな所にいるんだ……?』
それは男の声だった。
俺の眼前には男の顔。それは粘土のような材質で、地面から生えた新芽のように、ウニョウニョと蠢いていた。
その顔は、まるで生きているように喋る。
『おまえ……ジミーだな? 入り口の警備員だろう? どうしてこんな所にいる?』
ヤバイ!
見つかった!!
たぶん、さっき踏んだ粘土だ。
あれが侵入者を察知するスキルだったんだ。
とにかく逃げよう。
走り出す俺に、粘土の男は叫んだ。
『逃すか!』
粘土の顔は大きな拳となって俺の体に衝突する。
バグンッ!!
強烈な一撃。
やれやれ。
こんなのをモロに食らったら全身複雑骨折でゲームオーバーだよな。
俺は瞬時にして魔法壁を張っていた。
だからノーダメージ。
しかし、打撃の力は想像以上にパワフルだ。
俺の体は凄まじい速度で吹っ飛んだ。
おおお、強いな。
でも、ちょうどいい。
この力を使わせてもらおうか。
俺が吹っ飛ぶ方向に、
その壁はゴムのように柔らかい。
グニョォオオオオオオオオオオオオン……。
それは俺をしっかりと包み込み。
弾く。
バシュゥウウウウウウウウウウウウッ!!
小屋から脱出だ。
『俺っちから逃げるだとぉおお!?』
粘土の顔はまるでイルカのように地面を泳ぎながらこちらに近づいて来た。
『待てぇえええ!!』
その速度は凄まじく速い。
流石は
もう少し距離を離さないと、どこでもダンジョンの扉が見られてしまう。
俺が走るものの、あっという間に追いつかれてしまった。
速ッ!
『ジミー! 隠れてコソコソしやがって目的はなんだってばよ!?』
言えるわけないってば。
『捕まえてやる!!』
粘土はタコのように触手を広げた。
そうはいかない。
「
『ふん! んなもん、俺っちの粘土に効かないってばよ!!』
触手は魔法壁を包み込む。
バリバリとタコが餌を捕食するように粉々に潰してしまった。
粘土は再び大きな拳に変化した。
さっきより大きいな。粘土の量を増やしたのか。
『今度こそ、動けないようにしてやるかんな!』
「
『しゃらくせぇえええ!!』
バリィイイイイイインッ!!
あらら。魔法壁が簡単に破壊されてしまった。
『終わりだぁあああああ!!』
まだまだ。
「
粘土の拳は魔法壁に弾かれた。
ガシィイイイイイイイインッ!!
『んぐぅう!! か、硬ぇええええ!』
よし。
これなら破壊されないだろう。
俺は再び走り始める。
『うらうらうらうらうらぁああああああああッ!!』
拳の連打。
ダダダダダダダダダダダダダダッ!!
それは魔法壁を破壊した。
おいおい。
シンプルに打撃で壊すのかよ。
どんだけ強いんだって。
『ギャハハハ! 俺っちに破壊できない魔法壁はなぁああいッ!!』
やれやれ。
そうこうしているうちに粘土の使い手が追いついてしまった。
「おめえ、一体何者だよ? ただの警備員じゃねぇよな?」
それだけは言えないよな。
「まぁいっか。骨を砕いて捕まえて拷問してやるからさ」
それは嫌だな。
男は粘土を操った。
大きな拳を作る。
「へへへ。フルパワーだぞ」
ああ、これはデカいな。
「これで終わりだぁあああああ!!」
だから、そうはいかないってば。
「
ガシィイイイイイイイイイインッ!!
「なにぃいいいいいい!? 俺っちのフルパワーが効かないだとぉおおおおお!?」
ググググググゥウウウウウウウ……!!
お、押される。
100倍の魔法壁が押されるだと!?
シンプルに強いな。
だったら、100倍のぉ……。
「壁パンチ」
その一撃は男を吹っ飛ばした。
魔法壁とダンジョンの壁に挟まれる。
「ぐえぇええええ!!」
ああ、やり過ぎてしまったな。
普通の人間に100倍の壁パンチなんて初めてだ。
しかし、罪悪感に浸る暇はない。
魔法壁の隙間から男が顔を出す。
「い、い、痛でええ……。こ、こいつ、強ぇえええ……」
おいおい。
それはこっちのセリフだってば。
100倍の魔法壁。
S級モンスターを一撃で葬るほどの威力がある技なんだぞ。
それを食らって動けるだと?
「ジェットレディーー!! 敵だぁああ!! 侵入者だぁああああ!! 早く来てくれぇええええ!!」
仲間がいるのか!?
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
それはダンジョンの奥から吹いてくる強風だった。
何か来る!
凄まじい速さだ。
2人で組まれたら厄介だな。
早く逃げよう。
俺は男から離れた。
ここなら絶対に見えない。
「どこでもダンジョン!」
念のため、学生寮から離れたダンジョンに移動だ。
俺は直ぐに扉の中に入った。
そこは学生寮から車で20分の場所だった。
S級ダンジョン栄華からも離れた場所。
学生寮まで歩けば2時間はかかるだろうか。
やれやれ。
強い敵だったな。
まだ、心臓がドキドキいってるや。
ジェットレディって言ってたか……。
あいつの他にも、まだ強い探索者がいるんだな。
2人がかりでこられたら勝敗はわからなかったかもな。
「ふぅ……」
世界は広い。
初めてだ。
こんなにも強い探索者に会ったのは……。
命の危険に晒されたんだがな。
なんというか……わくわくしている。
それはヒーローに憧れる子供心のような……そんな高揚感。
すごい組織だな。
……そうだ。
日本に帰って栄華のことを総理に知らせておこうか。
☆
片井がどこでもダンジョンで逃げてから、栄華にて。
強風とともにやって来たのは髪の長い女の探索者だった。
凄まじい速度で空を飛び、周囲を旋回する。
「
「出口の方へ向かったってばよ! まだいるはずだぜ!!」
女は、ジェット機のような速度で出口の方へと飛んだ。
そして、1分もしないうちに男の元へと戻って来た。
「いないったら。どこにいるのさ?」
「そんなことがあるかよ! ここは地下の5階だぜ!? 人の足で出口まで戻れるわけがない!! どっかに隠れてやがるんだってばよ!!」
「そう思って生体感知スキルを使いながら飛行したけどね。人間なんて1人もいなかったさ」
「いたんだってば! 俺っちが攻撃を受けたんだからな!!」
「どんな姿をしていたのさ?」
「ジミーだ!! 警備員のジミーだってばよ!!」
入り口ではのっぽの警備員ジミーがいつものように野良猫を虐めていた。
ソーセージの切れ端でおびき寄せて、近寄って来たところを蹴り上げるのである。
『フギャアアア!!』
猫の叫び声にケタケタと笑う。
そんな彼の前に2人の探索者が立った。
ジミーは警備員らしく敬礼をする。
「や、これは!
「
「ああ、間違いっこねぇ。絶対にジミーだってばよ」
「は、はい……? お2人とも怖い顔をしてどうされたんです?」
ジミーは身柄を拘束されて連行された。
「わ、私がなにをしたんですかぁああああああ!?」
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