第173話 お久しぶりの片井ビル

 俺とコルは寮に帰った。


真王子まおこ。今日はどこに晩御飯を食べに行こうか? へへへ」


「悪いな。今日は疲れたから寝るわ」


「ええええ。 真王子まおこ、お疲れかぁ。大丈夫?」


「ちょっと疲れただけだよ。寝れば治るって」


「あ、じゃあ夕飯を作ってあげようか? ボクが作るボルシチはママ譲りで旨いんだよ」


「悪いな。早く寝たいからさ」


「あうう……。そんなにお疲れかぁ」


「心配すんなって。本当に寝れば治るからさ」


「ボクが添い寝をすれば早く治るかもしれないよ」


「あのなぁ」


「安心して欲しい。 真王子まおこの寝顔を見ながらハァハァしないから」


「変態は自分の部屋に帰れ」


「誤解するな。ハァハァはちょっとしかしない」


「添い寝を許可してないからな」


 コルは渋々帰って行った。


 やれやれだ。

 

 俺は部屋に入ると準備を始めた。

 入り口はしっかりと施錠。

 窓のカーテンは閉めて、外から見えないようにする。

 うん。準備万端。


 そして、最後はこれだ。

 鍵付きのキャリーバッグから取り出したのは黄金の取っ手。


「てれてれってれーー! どこでもダンジョン〜〜」


 まぁ、部屋の中は俺1人なんだけどさ。

 一応な。

 なんとなくやってみたくなったんだ。


「この取っ手を壁に付けると……」


 壁には扉が現れる。

 その横には一覧表が浮かび上がっていた。


 ふふふ。まさか、海外から使うとは思わなかったな。


「片井ビルに近いダンジョンは何個か登録してるんだよな。えーーと、ここなら徒歩で10分程度のダンジョンかな」


 よし、入ろう。

 

ガチャ……。


 扉を開けると、ムワァっと湿った空気が噴き出る。

 ダンジョン特有のものだな。


 中に入ると、ダンジョンの入り口なんだ。

 ふふふ。このまま奥に進むとダンジョンだけどさ。

 進むのは明るい日が射している出口なんだよな。


 このまま出てもいいけど、 真王子まおこはネットデビューしちゃったからな。

  偽装カモフラスキルを使って老人の格好にでもなっておこうか。

 さて、いざ日本へ。


「うわぁああ……。久しぶりだなぁ」


 見慣れた日本語の看板。

 左車線を走る車。  

 日本語で話す人々。そのほとんどは黒髪だ。


「うん。懐かしい」


 街頭の時計は15時を差していた。

 ジーストリアとは時差が2時間あるからな。

 こっちのがまだ明るいや。


 俺は老人のまま片井ビルに向かった。

 10分も歩けば到着だ。

 

 留守にしたのは、ほんの2ヶ月程度だがな。

 随分と長い感じがするよ。


「あれ? 入り口が開いてるや」


 俺の時はシャッターを閉めてたのにさ。

 ブームが落ち着いたから通常営業にしたんだな。


 どうやら来客はないようだな。

 いいタイミングだ。入ろう。

 

 1階の受付に立つと社員たちが笑顔で出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ」


 うん。気持ちのいい接客だな。

 笑顔が気持ちがいいや。


 今日はネネが受付の担当らしい。

 彼女は、ジ・エルフィーの末っ子、褐色肌のエルフだ。

 普段は甘えただが、接客はどうだろうか?


「今日はどういったご用件でしょうか?」


 ふふふ。

 ネネがかしこまってるのはなんだか新鮮だな。

 敬語や仕草は問題ないな。

 随分と成長したもんだ。


 俺がニコニコと微笑んでいると、 衣怜いれがやってきた。


「おじいさん。お困りですか?」


 おお……。いい匂いだな。

 石鹸とリンスの香り。

 ふふふ。 衣怜いれってこんなにもいい匂いだったんだな。


「これはこれは。 衣怜いれさんが自ら受付をしてくれるなんて豪華ですな」


「えーーと。私の……。ファンの方……? ですか?」


「ファンというか……。まぁよく知ってますね」


「え!? おじいさんとどこかで会ったかなぁ?」


「ふふふ。最近はどうですか? 元老院の怪しい連中は来ていませんか?」


「え!?」


 急に空気が変わる。

 事務所のエアコンが冷風にでもなったように。

 社員全員からは、痛いほど鋭い視線を向けられた。


 その瞬間。


 俺は何十人もの人間に囲まれた。

 それは忍者の格好をした女たちと、黒いスーツに身を包んだ男たちだ。

 女たちはクナイを構え、男たちは銃口を俺に向けていた。



「「「 何者だ!? 」」」

 


 は、ははは……。

 これはおふざけが過ぎたかもしれん。


みやび。久しぶりだな」


「なに!? どうして私の名前を知っている!?」


「この銃を構えている男たちは母さんの部下だな」


 みんなは眉を寄せた。


 銃の所持は、俺の部下じゃできないからな。


「あなたたちは防衛省の人でしょ?」


 みやびは混乱する。


「あなた……。母さん……。と言いましたか? そんな……。どうして? いや、どうやって帰って来た? か、帰れるはずがないのに……?」


 男たちの指は今にも引き金を引きそうだ。


「ごめんごめん。勘弁してよ。 偽装カモフラ解除」


 俺は片井  真王まおに戻った。


「これでいいだろ?  真王子まおこの姿は目立つようになっちゃったからさ。配信見てないかな?」


 片井ビルに社員たちの声が響く。


真王まおくん!!」

真王まおさま!!」

「社長!!」

「片井さま!!」


 みんなが俺の周囲に集まる。

 

 紗代子さんは目を丸くした。


「しゃ、社長。ど、どうやって帰って来られたのですか!?」


 黄金の取っ手を見せて、


「どこでもダンジョンを使ったのさ」


 みんなは感嘆の声をあげる。


  衣怜いれは俺に抱きついた。


真王まおくん。お帰りなさい!!」


「おう。ただいま」


 彼女の声を筆頭に、みんなが俺に「おかえりなさい」を言ってくれる。

 やっぱり片井ビルは居心地が最高だな。


真王まおくぅうん」


「ははは」


 柔らかい……。

 Hカップの爆乳が俺の体に密着する。

 うう……。久しぶりだから反応してしまうな。このまま狼になりそうだ。ガルル。


「もう、任務は完了したのね!」


「あ、いや。実はその確認で来たんだよな」


 狼になっている場合じゃなかった。くぅん。


 俺は事務所の電話から総理官邸へと繋げた。


 風間が死亡していることを確認しなくちゃな。


 少しばかり世間話をしたあとに、本題に入ると、大和総理は深刻な顔で答えた。


「いや。風間は生きている。ジーストリアの情報は嘘だ」


 やれやれ。

 そんな気はしていたんだけどな。

 

 どうやら、総理は風間が生きている証拠を持っているらしい。

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