第172話 風間の行方
俺とコルは2年生の校舎に通いつめた。
その目的は配信のコラボ企画を詰めることだ。
2年生の校舎内にある会議室で行われる。
この場所は学園からの指定を受けていた。
つまりは監視対象ということだ。
部屋の角にはしっかりと防犯カメラが設置されている。
俺の目的は日本政府のスパイ、風間 潤志郎を探し出すことだ。
何気ない会話の中で、それとなく風間の行方が探らなければならない。
ちなみに、この島のスパイや情報を外部に漏らす人間は厳罰処分にあうらしい。
投獄をされて厳しい拷問をされるという。最悪は命の危険があるそうだ。
上層部の情報が漏れてこないので、あくまでも噂話だがな。事実、逮捕されて戻って来てない人が何人もいるんだ。だから、島民は情報漏洩には敏感だ。
そんなジーストリアで風間を探しているわけだがな。
チャンスは早くも訪れた。
ブラックスが風間の話を振ってきたのだ。
「そういえば、2年に
「覚えてないあるな。いたのは知っていたけど、グレイドランキングは上位じゃなかったあるよ」
なるほど。
目立たないようにしていたのかもしれないな。
このまま話を広げないと終わってしまうよ。
「風間じゃないですか?」
「ああ、そうだ! 風間だ。
「いえ。一応、日本政府から特待生として選ばれた時に、前情報として聞いていたくらいですね」
「そうか。……まぁ。残念な結果だったよな」
うん?
「残念って、どういう意味ですか?」
「なんだ知らないのか? 風間は亡くなったんだぞ」
「え!?」
「君が入学する前だったかな。ダンジョンに入ったまま連絡が途絶えたらしい」
「風間は配信をしていたんですか?」
「どうだろうな。有名じゃないからそこはわからないな。しかし、授業外でのプライベート探索で行方不明になるのは学園内じゃよくある話さ。彼は島内初の日本人だ。珍しい存在だったからね。俺は少しだけ気にかけていたのさ」
ふぅむ。
総理は連絡がつかなくなって1ヶ月と言っていたな。
「
あり得るのかな?
「風間の詳細はどこで知れますか?」
「職員室で聞けるだろうな。学園内の情報は職員が管理しているからな。ただし、学級で校舎が分かれていて、専用の職員室があるので、2年生の風間のことは2年の職員室じゃないとわからないと思うぞ」
やった。
最高の情報だな。
うっかり、1年の担任であるアービド先生に聞くところだったよ。
不必要な情報の請求は監視対象だろう。
慎重にいかなくちゃな。
俺は2年生の職員室に行って風間のことを聞いた。
男の教員はパソコン画面を見ながら答える。
「やっぱり、死亡情報は本国に送っているね」
と、マウスをクリックする。
あの画面に風間の情報が映っているのか。
俺の方からは見えないな。
「送信日時は……当日だね。君も知っていると思うが、ダンジョンに入るのは学園に申請が必要だ。その日から1週間以内に帰還されない場合は死亡認定になる。認定を受ければ当日の内に死亡通知が本国に送信されるのさ」
そうなると、死亡情報は入学式の前に送られている。
つまり、日本政府と風間の連絡がつかなくなった時期と一致しているんだ。
この教員が嘘をついているとは思えないけどな。
あのパソコン画面の情報が欲しい。
見せてくれとは言えないから……。
貰ってしまうか──。
俺のスキルは、地上で出す場合、
だから、通常の
しかし、俺は魔法壁の威力を倍化できるからな。その力は
100倍まで倍化すれば、5センチの100倍で5メートルまで発生させることができる。その半分。50倍なら2メートル50センチまで魔法壁を発生することができるんだ。
なので、今は2メートル50センチの場所に
この位置は丁度あの教員の背後に当たるんだ。
加えて、その魔法壁に
転写したイメージは鏡だ。これで鏡面仕様の
教員は気がついていないようだ。自分の後ろに鏡があって、パソコンの画面がそっくりそのまま映されているなんてな。
まぁ、文字は逆に映ってるけどさ。
それでもよく見えるよ。
あとは俺が画面を記憶すればいいだけだ。
少しだけ時間を稼ぐ。
「私はそんな話を聞いていません。なにかの間違いではないでしょうか?」
「学園内では毎年100人程度の死亡者が出る。普通にあり得る事案だよ」
「彼に会えることを楽しみにしていたのですが……」
「日本政府は君に気を遣ったのかもしれんよ。残念だがね。諦めたまえ」
「そうですか」
「お気の毒にね。君も配信でダンジョンに潜る時は気をつけるんだよ」
「はい。ありがとうございます」
俺は職員室をあとにした。
さて、パソコンの画面を記憶する、なんていったがな。
実際は見るだけでいいんだ。
俺の視野に入った物はすべて
なので、
「
そこに、
「
これだけでさっきの画面をそっくりそのまま魔法壁に映すことが可能だ。
しかし、このままじゃあ鏡に映った逆さまの文字になっていて読みにくい。
だから、魔法壁をクルっと裏返すんだ。
これでパソコン画面のコピーのできあがりさ。
「はい。風間の情報いただきましたーー」
そこには彼のプロフィールが載っていた。
住所や入金口座。ジーストリア専用アプリのアカウント暗証番号まで。
そして、最後の特記には潜ったダンジョンと死亡の記載があった。
「やはり、学園は死亡認定を出しているな」
大和総理に確認した方がいいかもしれない。
もしも、手違いで本当に死亡しているなら俺の任務は終了だからな。
さて、次はこの情報を大和総理と共有したいんだがな。
その方法が問題なんだ。
メールは送ることができない。
正確には送ってもいいが、サーバーはジーストリアが管理しているからな。
ネットの通信手段は全て監視対象になっている。
違反をすれば逮捕されて厳罰処分だ。
ふふふ。
持って来てて良かったよな。
どこでもダンジョン。
取っ手型の激レアアイテム。
暗奏を攻略した時にオメガツリーが落とした超貴重なアイテムだ。
このアイテムがあれば、飛行機なんか使わなくても日本に戻ることが可能だ。
取っ手を部屋の壁に付ければそこから日本のダンジョンに潜ることができる。
問題は戻る方法なんだよな。
日本からジーストリアに行く時は、島のダンジョンを登録しておかなければならない。これをしておかないと片道切符。日本に帰ってからジーストリアに帰れなくなってしまうんだ。
俺は散歩と称して手あたり次第にダンジョンに潜っていたんだよな。
もちろん、攻略目的じゃない。入り口だけ入って、どこでもダンジョンに記憶させるためだ。
このアイテムは1度でも入ったことのあるダンジョンは記憶してくれるからな。
だから、学生寮の近くにあるダンジョンを片っ端から登録してやったのさ。
これで自由に日本とこの島を行き来できるって寸法だ。
──
次回、久しぶりの片井ビルです。
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