第171話 どっちを選ぶ?

 俺は2年生の校舎に来ていた。


 ブラックスと 華龍ホアロン

 どちらかとコラボを配信をするためだ。


 さて、どっちを選ぼうか?


 ブラックスは勝ち誇った笑みを見せる。

  華龍ホアロンは俺の言葉に関心を寄せながらも、コルを抱きしめて遊んでいた。


「さぁ、 真王子まおこ。どうなんだ?」


 急かすようにブラックスが聞いてきた。


 彼を選べば1ヶ月間は他の人とコラボができないペナルティ付き。

 しかし、チャンネル登録者は200万人。学園内でも人気者で、俺の目的である、風間 潤志郎の情報も知っているかもしれない。


  華龍ホアロンはチャンネル登録者100万人。

 人脈は彼より劣ると思われる。


 彼女より、明らかにブラックスが優先だろう。


 でもさ。


「すいません。選べませんね」


「なんだと!? コラボの企画を持ちかけてきたのは君の方なんだぞ?」


「それはそうなんですけどね。ブラックス先輩を選んだら 華龍ホアロン先輩が悲しむじゃないですか」


「そんなことは知ったことではないな。これは遊びじゃない。ビジネスだ。2人を選んだ時点で片方が負けるのは必須だろう」


「んーー。じゃあ、4人でやるのはどうです?」


「はぁあ?」


「私とコル。ブラックス先輩と 華龍ホアロン先輩。この4人でコラボをするんですよ」


「ふざけるな。ナンセンスだ。コルは……まぁ、いいとして。 華龍ホアロンとコラボをやるなんてあり得ない。俺と彼女はライバル配信者なんだからな」


「難しいですね」


「簡単な話だよ。君は俺を選べばいい。答えは出ているんだ」


「そんなことをすれば 華龍ホアロン先輩が悲しむじゃないですか」


「良い顔をするんじゃない!!」


「そういうんじゃないんですよ。なんていうのかな……。配信って楽しいもんじゃないですか? 勝った負けた、はモンスター討伐だけでいいですよ」


 コルが手足をバタつかせる。


「ボ、ボクは 真王子まおこの意見に賛成だな。ボクは感動している。 真王子まおこの意見は誰も傷つかない優しい選択だ」


「あはは!  真王子まおこ、良いこと言うあるね。あたしも感動したある! んで、コルは可愛いある」


「あうう……」


 ブラックスは机を叩いた。


「くだらん! そんな選択は合理的ではない!!」


 やれやれ。

 まぁ、俺にとっちゃあ合理的なんだよな。

 そもそも、チャンネル登録者を伸ばすのが目的じゃない。

 重要なのは2人を通じて風間 潤志郎の行方に辿り着くことなんだからさ。

 だから、フォローはしておく。


「まぁ、そう怒らないでください。お詫びといってはなんですが、今晩は夕食をおごらせてくださいよ」


「……君は年下だからな。そんなことをしてもらうのは気が引けるよ」


「いえいえ。最近、羽振りがいいんですよ。スピードスターワイバーンを倒した時に手に入った魔晶石を売ったら大金になりましたしね」


「ううむ……」


 コルは目を瞬かした。


「す、すごい。 真王子まおこが異性を夕食に誘うなんて初めてのことかもしれない。学園内でも数多の男子生徒に食事に誘われてるのにさ。彼女は1度として受けたことはないんだ。なのに男を誘うなんて……こんなことは初めてだ」


「ふぅむ……。ま、そんなに言うなら許してやってもいいかな」


 よし。良い雰囲気だ。


「じゃあ、4人で夕食を楽しみましょう」


「なに!? よ、4人だと!?」


「ええ。私と先輩。コルと 華龍ホアロン先輩ですよ」


「なにぃいいいいい!? 2人きりじゃないのかぁあ!?」


「ブラックス先輩は辞退します?」


「んぐぅ……」


「ボクなら即決だな。学園一のモテ女、 真王子まおこの誘いを断るなんてあり得ない。こんなことは千年に1度、あるかないかだ。きっと名誉なことだろうな。同じ男子生徒になら相当な自慢になるだろう」


「……し、仕方がないな。 真王子まおこがどうしてもと言うから仕方なしに付き合ってやるよ」


 そんなに強くは推してないがな。

 まぁ、いい。会話ができるなら最高だ。


あたし 真王子まおこが気に入ったある! 夕食の場所はあたしに任せるあるね!」


「ふん。なら、その場所へは俺のハイヤーで送ってやる」


 と、いうわけで俺たちはブラックスのハイヤーに乗って繁華街へと向かった。


「ここある」


 え?


 そこは見たことのある店だった。

 コルは大きな瞳をキラキラと輝かせる。


「ボクと 真王子まおこの思い出の場所だ」


 陳珍軒。

 コルと一緒にラーメンを食べた中華店だ。


「父ちゃん、ただいまあるーー」


「おう 華龍ホアロン。お帰り」


「今日は学校の友達を連れてきたあるよ」


「おう。2階の座敷が空いてるよ」


「ありがとうあるーー」


 いや、家族経営かよ。


「な、なんだここは!? 床がベトベトじゃないか!?」


 ブラックス、それはデフォルトなんだ。


「メニューのページがくっついていてペリペリいうぞ!? 掃除はしてるのか!?」


「ははは。毎日やってるあるよ。でも、なんか油が多すぎてそうなっちゃうある」


  華龍ホアロンは満面の笑みだ。


「今日はあたしもサービスするから、お腹一杯食べて欲しいある!!」


「ボクはラーメンとチャーハンと餃子」


 ブラックスはブツブツと文句ばかり言っていたが、料理を食べると悔しそうな顔をした。


「んぐ……。う、旨いのかよ」


 コルは新しい料理を開拓したようで、


「へへへ。酢豚も旨いな。唐揚げも最高だ。もやし炒め、ワカメスープもいい……」


 たくさんの料理を頼んで、みんなでちょっとずつシェアをする。

 中華料理の楽しみってこれだよな。


「デザートは杏仁豆腐ある! これはあたしの店からサービスあるね!」


 俺たちは腹一杯に中華料理を堪能した。


真王子まおこはこれからどうするある? 誰かとコラボしたかったんじゃなかったあるか?」


「まぁそうなんですけどね。コラボで仲違いするようじゃ意味がないんですよ。なので先輩たちより登録者は落ちても平和そうな人を探してコラボするつもりですね」


真王子まおこは平和主義者あるな。ますます好きになっちゃうある」


「楽しいが優先されるだけですよ。ははは」


 ブラックスは俺から目を逸らしたかと思うと、少しだけ顔を赤らめた。


「時に……。ま、 真王子まおこは彼氏とかいるのか?」


 はぁ?


「そんなもん。いませんよ」


「そ、そうか……。よし」


 なにがよしなんだ?


「……4人のコラボ。面白いかもしれないな」


 はい?


「学校ではやらないって言ってたじゃないですか?」


「き、気が変わったんだ……。お、おい 華龍ホアロン。君はどうなんだ? 4人のコラボ」


「もちろん良いに決まってるあるよ!」


「よし。決まりだな。明日から打ち合わせに入ろう」


 なんだかわからんが、良い感じに進んだぞ。

 これで2年生の校舎には自由に入れるな。

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