第169話 チャンネル登録者は何人?

 配信の翌日。


 月曜日。


 俺とコルの配信はちょっとだけ有名になっていた。


 どうやらヅイッターで情報が拡散されてディックトックに切り抜き動画が回っているらしい。


「ブヒョヒョヒョ!  真王子まおこぉ! 聞きましたわよ。配信を始めたんですってねぇ」


 やれやれ。

  翼山車よくだしの娘、デザイアだ。こいつの笑いは本当に腹が立つなぁ。


「噂ではコルとコラボしたんですってねぇ。チャンネル登録者ゼロ人同士のコラボ。プププ。カスすぎて笑いが止まりませんわぁ」


「だったら見なくていいからな」


「アハハ! もちろん、見るわけありませんわ。でも、配信者の先輩としてはアドバイスが必要と思いましてねぇ。なにせ、わたくしは登録者120万人ですからねぇ! 優しいわたくしがアドバイスして差し上げますわぁああ」


「別にいらないけどな」


「で、どれくらいの登録者になりましたの? プププ」


 話しを聞かない女だ。


「大した数じゃないよ。120万人と比べちゃさ……」


「ブヒョヒョヒョーー! そんなのは当然ですわ。配信業は甘くありませんのよ。わたくしだって、初めてやった時は全然、伸びませんでしたものぉ」


「ふーーん。1回目の配信はどれくらいの登録者だったんだ?」


「ブヒョヒョヒョーーーー!! ああ、そんな恥ずかしい話を聞きますの? あなたはわたくしの汚点を晒して勝った気になりたいんですの?」


「いや……。別にそんなんじゃないけどさ。嫌なら言わなくていいけど」


「あああああ!! 困りましたわ。わたくしの汚点を晒すだなんて。でも言いますわ。配信者の先輩としては自分の汚点も言わざるを得ないのですわぁあああ!! ああ、恥ずかしい……。完全に黒歴史ですわ!!」


 なんだかわざとらしいなぁ……。

 言いたくて仕方ないって感じじゃないか。


真王子まおこは、1回目の配信でどれくらいのチャンネル登録者数があれば合格ラインか知っていますの?」


「一般的には10人の登録者があれば合格ラインって言われてるよな。まぁ、一般人ならそんなもんだろ。有名人でもないしな」


「ブヒョ!! ……こ、こほん。そうですわね。10人が登録すれば合格ラインですわよね……。わたくしが初めて配信をした時は、運良くそれは達成できたのですけどね。ああ……。完全に汚点ですわぁ。だって考えてもみてください。わたくしのこの美貌ですのよ? わたくしは超有名モデル、ネルザ・ティネッテの娘ですのよぉお!! 世間の期待値は高いのですからぁあああああああああ!! 完全に汚点ですわぁあああああああ!!」


 まぁ、別に知らなくても良い事実なんだがな。一応、聞いといてやるか。


「どれくらい登録してくれたんだよ?」


「たったの5千人ですわぁああああああ!! ああ、恥ずかしい!! 完全に汚点ですわぁああああ!! 初日でたった5千人んんん!! 一般合格ラインの、たった500倍ですわぁあ!! 黒歴史確定!! とても自慢なんてできませんわぁああああああああああああ!! ブヒョォオオオオオオオオ!!」


 やれやれ。

 これが言いたくて仕方なかったんだな。

 結局、自慢じゃないか。

 

 コルは俺の袖を引っ張った。


真王子まおこ。行こう」


「だな」


 こんな奴は放っておいてコルと一緒にコーヒーを飲んでる方が時間を有意義に過ごせるや。


「お待ちなさい! ですわ」


「なんだよ?」


わたくしが恥ずかしい過去を話したんですのよ?  真王子まおこだって話す義務がありますわ」


 義務なぁ。


「んなもんないだろ」


「ありますわ! もしかして……。逃げるおつもりかしら?」


「いや、そんなつもりじゃないけどさ」


「プププ……。別にいいんですのよ。自信がないのでしたら言わなくともね。わたくしはあくまでも公平性を訴えただけですもの。互いの初回登録者を確認し合うという公平性をね!!」


「公平性なぁ……」


わたくしは恥ずかしい過去を発表しましたのよ? あなたが言わないなんておかしいんじゃありませんこと?」


「そう言われてもなぁ……。おまえがSNSで確認すればいいじゃないか」


「そんなもの片手間でしか見ませんわ。わたくしは陰キャじゃありませんもの」


「そうか……。ネットじゃ、ちょっと盛り上がってるんだがなぁ」


「ブヒョヒョ。あらそうですの? わたくしもねぇ、当時は騒がれたものですわ。だって超有名モデル、ネルザ・ティネッテの娘ですもの」


 なるほどな。

 だから5千人も登録者がいたのか。

 これはこれですごいことなんだけどな。


「ネットで盛り上がっているのなら発表してもいいじゃありませんか。プクク。誰も知らない素人の盛り上がりがどれほどのものか存じ上げませんけどね。プププ。あ、そうだ! 教室のみんなにもあなたのチャンネル登録者数を聞いていただきましょうか!」


「いや、そこまでしてしなくても良いと思うが……」


「いーーえ! これは聞いてもらわなければなりません。みなさーーん。ちょっと集まってくださいな。 真王子まおこがチャンネル登録者を発表するそうですわーー!」


 みんなは集まった。


「プププ。それじゃあ発表してくださるかしら? あなたのチャンネル登録者ぁ。プクク」


「んーー。ちょっと携帯見て良いか? 昨日、初めて動画をアップして、それから時間が経ってるからさ。ちょっとくらいは増えてるかもしれないんだ」


「ブヒョ!! そ、それはそうですわね。じゅ、10人くらいは増えてるかもしれませんものね。プクク。10人は多いですものね。プフゥウ!!」


 俺はチャンネル登録者を見た。


「おお、昨日より増えてるや」


「あらぁああ! 増えてますのぉおお! すごいですわねぇえええ! ちなみに、わたくしの初回記録は5千人ですのよ! 5千人!! 恥ずかしいですけど、3回言ってしまいますわ。5千人ですのぉおおおおおおお!!  真王子まおこのはおいくらですのぉおおお?」


 面倒臭いなぁ。


「んじゃ自分で見てくれよ」


 と、スマホを渡す。


「ほほほほ。確かに、わたくしが見た方が確実ですわね。嘘をつかれる可能性は十分に考えれますからね! 見栄を張るのは見苦しいですわよ。ふふふ……。えっと……。ゼロの数が……」


 彼女はゼロの数を数える。




「ご、50万人んんんんんん!?」




 そうなんだよな。

 良い感じで増えてるんだ。


「昨日は20万人だったんだけどさ。一晩で倍以上に膨れ上がったよ」


「あ、あ、あ、ありえませんわ!! インチキですわ!!」


「失礼なことを言うなよな。私たちは真面目に攻略をしたんだからさ。切り抜き動画がSNSでバズってるんだよ」


 ダンジョンのトレンドランキングは1位をキープ。

 現在人気爆上がり中なんだ。


 デザイアの取り巻きがネットニュースの画面を見せる。


「デ、デザイアさま。この記事を見てください!」


「『天使すぎる探索者。千年に2人だけの美少女』……。な、なんですのこの記事はぁああ!?」


 そのタイトルには俺も疑問なんだ。

 本当はS級モンスターを倒したことを大々的に取り上げてほしいのにさ。なんか見た目が先行してんだよなぁ……。

 まぁ、勝手にライターが書いたから文句は言えないけどね。


「ネットって怖いよな。ははは」


「あ、あ、あああああああああ……」


「ああ、えーーと。一応、50万人だからさ。通常の……5万倍かぁ。やっぱ100万人を初日で超えるのは難しいよな」


「ああああああああ……」


 デザイアは全身を真っ赤にしていた。

 みんなの注目を一斉に浴びる。


「大丈夫か? 汗びっしょりでさ。熱でもあんのか?」


「わ、わ、わたくしの現在の登録者は120万人ですのよ!! 四捨五入をすれば130万人ですわ!! いいこと!! 130万人ですのよ!!」


「それはわかってるけどさ……。初回は5千人だったよな?」


「ふ、不愉快ですわ!! きょ、今日は休みますわ!!」


 そう言って取り巻きと一緒に帰って行った。


 やれやれ。

 ネットニュースを見てればこんな恥はかかなくて済んだのにさ。


 さて、初回で50万人だからな。

 これだけあれば登録者は加速して伸びるだろう。

 もうこの時点で2年生からも注目されているはずだ。


 これならコラボの話ができるかもしれないぞ。

 これで、1年生の俺が2年生の校舎に入れるな。

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