第168話 美少女2人で生配信

 少しするとコメントの流れは早くなった。


『15歳でB級ダンジョンを探索? 危なくない?』

『銀髪の子がA級。黒髪がB級だよね。2人だけってのは……』

『2人だけは絶対に危険だってば』

『大人の探索者を連れて行くか、仲間を増やした方がいいって』

『怪我が酷いとアカバンだよ。大丈夫?』

『女の子2人は心配かも』


 ふむ。

 優しい視聴者が多いな。


『でへへ。15歳なのにおっぱい大きいね』

『電話番号教えて欲しいかも。いいダンジョン教えるからさ』

『エッチなことに興味はないかな?』

『体つきがたまらんねw』


 変なコメントも混ざってんな。

 やれやれ。

 女子ってのは大変だよ。


 コルは目を細めるだけで気持ちの悪いコメントはスルーしていた。

 そればかりか、あんまりにも変なコメントに対しては、


「こいつブロック」


 ははは。

 コウモリカメラの画面から拒否設定にしてるや。


「こいつも、こいつもブロック」


「いや、キリがないからさ。もう進もうよ」


「うう……。変な言葉を 真王子まおこに言うなんて許せない」


 俺のことを思ってくれてんのか。


真王子まおこはボクが守る」


「頼もしいナイトだな」


真王子まおこは可愛すぎるから敵が多い。むふーー」


 やれやれだな。




 俺たちはダンジョンを進んだ。

 

 出現するモンスターはB級ばかり。

 

「やーー」


ザクン……!!


 コルの大きな鎌が敵を両断する。


 俺も負けじと剣を振るう。


「おりゃ!」


ザクン……!!


 ふむ。

 剣で探索は新鮮で面白いぞ。


『すげぇえええ!!』

『つええええええ!!』

『マジで15歳か?』

『強すぎません?』

『強すぎワロタwww』

『銀髪の子、無気力なのにめっちゃ強いw』


 同接の視聴者は千人を超えていた。


 うん。

 順調だな。


「ふほぉおお。 真王子まおこぉ。すごい勢いで登録者が増えてるよ。ボクは感動している」


「初めての配信の場合。定説では100人見られれば上出来と言われているな」


「じゃあ、ボクたちはもう超えてるね。やった」


 ……いやいや。

 こんなんじゃ甘いよ。

  翼山車よくだしの娘、デザイアの登録者は120万人なんだからな。

 せめて、その数には近づきたい。


 そのためにはバズりたいんだよな。

 なにか印象の強いトラブルでも起これば最高なんだが。


 俺の読みが当たればそろそろ……。


 それは20階に達した頃だろうか。

 急にダンジョン全体が揺れ動いた。


「わわ。地震だ」


 よし、待ってました!


 揺れは数秒で治った。


「あれ?  真王子まおこ。なんだか嬉しそうだね」


「ボスルームの前だからな」


「?」


 俺たちは大きな蛇型のモンスターに遭遇した。

 それは象よりも大きな蛇。八つの首を持った大蛇だった。


真王子まおこ。ヤツクビスネークだ。A級モンスターだよ。おかしいな? まだ、ボスルームじゃないのに」


「気をつけろよ。毒を吐くからな」


「う、うん」


 コメントは心配の嵐。逃げろを筆頭に、無理無理、といった書き込みが流れまくる。

 そんな中、俺たちは2手に分かれて蛇の毒攻撃を避けた。


 んで壁を蹴って、蛇の頭部に──。


「やーー」


「おりゃ!」



ザクゥウウン!!



 2人の斬撃がヤツクビスネークの首を飛ばす。


『あっさり倒したwww』

『倒すんかーーいw』

『げぇえええええ!? A級モンスターまで倒せるのかよぉお!!』

『強すぎだってばwww』

『すげぇ新人が現れたな』

『ガチですごいってば』

『無双かよw』


 登録者は3千人か。

 まだまだこんなんじゃ弱いな。

 もっと強い敵を倒すのが理想的だ。


「おかしいな? A級モンスターはボスルームにいるはずなんだけど? 使役モンスターでA級なんてあり得ないよ。ここはB級ダンジョンなのにさ」


「ダンジョンが成長したんだ」


「え? なんで?」


「さっきの地震がその合図。ダンジョンが成長して強化されたんだ。だから、モンスターのレベルが上がったのさ」


 ふふふ。

 これは計算なんだよな。

 アプリの情報を元にして、あらかじめ成長しそうなダンジョンに入っていたんだよ。


「じゃあ、今ここはA級ダンジョンってことだ。それは運が悪いな。出なくちゃ」


「いや。私たちの実力なら、戻るより、このまま進んでダンジョンボスを倒す方が手っ取り早いさ」


「でも、A級ダンジョンだよ。学園の規則ではB級までと決まってるよね?」


「それは入る時の基準だろ。今はイレギュラーさ。判定としてはB級ダンジョンのままだよ」


「なるほど。でも、ボスは格上と決まっているからS級になってしまう」


「だな」


「……不思議だな。 真王子まおこと一緒ならなんでもやれそうな気がする」


「ははは。でもまぁ、逃げる準備はしておこうよ。もしか、なにかあったら困るしさ」


「うん」


「ボスの強さだけを確認して逃げる。大事なのは命を最優先にすることだ」


コクン……。

 

 コルは深々と頷く。

 慣れてくると従順で可愛い奴だよな。


 俺たちは順調にダンジョンを進んだ。

 そしてボスルームに到達する。


 この配信はそれなりに話題を呼んでいるのだろう。

 同接の視聴者は既に1万人を超えていた。


「よし。扉を開けるぞ?」


「うん」


「ヤバかったら逃げる」


「わかった」


「逃走経路を確保しておこう」


「この扉って鍵がかからないのかな?」


 確かにな。

 入った後にボスを倒さないと開かない仕組みじゃあ逃げられない。


「だったら……。コル、あの岩を持てるか?」


「うん。持てる。筋力増強の魔法を付与すれば簡単だ」


 コルは、大岩を持ち上げた。

 その岩をダンジョンボスの扉の間に挟んでおく。


「これでいつでも逃げられるだろう」


「流石は 真王子まおこだ。これで逃走経路の確保は万全だね」


 よし。

 いざ入室。


「わーー。デカい」


 それは大きなカニのモンスターだった。

 全高30メートル以上はあるだろうか。

 思わず、その大きさに見惚れてしまう。

 

真王子まおこどうしようか? S級モンスターのアポカリプスキャンサーだ」


 カニの化け物は、大きなハサミを4本も持っていた。


 あのハサミが厄介なんだよな。

 まぁ、壁パンチなら一撃で倒すけどさ……。

 暗奏の攻略の時に何回か戦ったことがあるんだ。

 そん時は40倍だったかな? それくらいの攻撃アタック 防御ディフェンスの壁パンチで倒してたっけ。


 今は防御魔法は使えないからな。

 全世界に配信しているのに壁パンチなんて見せたら1発でアウトだってば。

 だから、武器で仕留めないとな。


「シンプルに打撃攻撃で行こう」


「うん」



 しかし──。


真王子まおこーー。硬すぎてダメだ」


 俺の剣攻撃も傷一つつけれないな。

 カニの柔らかい部分といったら目なんだが、30メートルも上にある眼球に攻撃が当たらないんだ。

 4本のハサミが邪魔すぎて上に登れない。


真王子まおこ。奴の弱点は目だよね」


「ああ。そこに攻撃が当たれば倒せるんだがな」


 コルは攻撃魔法も使えるようだった。

 本当になんでもできる優等生だ。

 しかし、


「魔法もダメだ。硬い甲羅に全てが通じない。やっぱり目だよ 真王子まおこ


「うーーん。遠距離攻撃もダメか」


「これは撤退だね」


「だな」


「よし。逃げる」


 コルは入り口扉に向かって走り出した。

 コウモリカメラは彼女の軌道を追う。


 よし。この一瞬が貴重なんだよな。

 静から動に変わった瞬間。

 コウモリはその探索者をアップで撮影する。


 つまり、録画はコルを追う。

 俺から視点が外れるんだ。


 画面からのフレームアウト。


 この一瞬。

 これを利用しない手はないって。


 俺は魔法壁を発生させた。



  弾性バウンド 防御ディフェンス



 もちろん、静かにだ。

 音を発生させた時点でカメラの視点は俺もフレームに入れようとするからな。


 んで、思いっ切り魔法壁に突っ込んでぇえええ──。


グググググググゥウウウウウウウウ……。


 柔らかい壁は、強力な弾性によって俺の体を跳ね上げる。




ドギュゥウウウウウウウウウウウウウウンッ!!




 この超速度。

 カニのハサミ攻撃も掻い潜る。 


 向かう先は決まってるよな。





ザクゥウウウウウンッ!!





 カニの目玉だ。


 

「よし。上手く刺さった」


「ま、 真王子まおこ!? い、いつの間に上に登ったの!?」


「ああ、なんか偶然な」


「ぐ、偶然、30メートル登れたの!?」


「がんばったら行けちゃった。てへ♡」


「……可愛いから許す」


 アポカリプスキャンサーは奇声とともに絶命した。


『倒したぁあああああああああああ!!』

『なんでいきなり!?』

『ホワット!? なにが起こった!?』

『いやいやいやいやいやいやいやいやいや』

『チャイを盛大に吹いたwwwwww』

『ワロタwwww』

『無敵wwwwwww』

『つよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』

『マジか……』

『これCGだよね??』

『15歳でS級モンスター討伐!? ギネス記録では!?』

『オーーマイガ!!』

『笑うしかない』

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