第167話 コルと生配信

 コルには個人のチャンネルを立ち上げてもらった。


 俺と2人で配信をするので、しばらくは同じ動画が投稿されることになるが、彼女だけのチャンネルを作ることは、コルの人生にとって大きな意味を成すだろう。


 こいつはもう少し、自分に自信を持った方がいい。

 コミュ障ではあるが、心根は優しい人間だ。俺がプロデュースをすればすぐにでも人気者になれるだろう。


「ボクなんかが生意気にもチャンネルを作ってしまった。神様……。生まれてきてごめんなさい」


「こらこら。そう卑下するなってば。2人でチャンネル登録者を伸ばしてさ。デザイアを見返してやろうぜ」


「う、うん……」


 そうしてできたのが『コルちゃんねる』だった。


 名前の由来は俺の作った『 真王子まおこチャンネル』に影響を受けたらしい。


 まずはメインの 真王子まおこチャンネルでコルとコラボ生配信。

 アーカイブを俺とコルのチャンネルに保存すればいいだろう。




 次の日は日曜日だった。

 学校は休みである。

 休日は恰好の配信日だ。


 ダンジョンはジーストリアの専用地図アプリに随時登録されている。

 これを使えば、簡単にダンジョンが見つけられるんだ。


 さぁ、どこにしようかな?


 などと、探していると、コルは上機嫌だった。


「ふふふ。わくわく」


「少しはやる気になったみたいだな?」


真王子まおこと一緒だもん。ボクはなんだってできる」


 俺と彼女の登録者はゼロ人。

 この数字をどれだけ伸ばせるのか。

 そう考えるとわくわくするよな。


 まず、ライバルになっているのは2人。

 チャラいイケメンのエイテルは登録者50万人。

 いけすかない 翼山車よくだしの娘、デザイアは登録者120万人だ。


 初日にこいつらを抜くのは難しいだろうが、なんとかそれなりの結果は出したいよな。


 安全上、1年生の俺たちはB級のダンジョンまでしか潜れないことになっていた。


「あれ、 真王子まおこぉ。さっきB級のダンジョンあったよ?」


「ふふふ。あのダンジョンはB級に昇格して日が浅いからな。私たちが目指してるのはそんなダンジョンじゃないのさ」


「どういうことだ?」


「まぁ、私に任せといてくれよ」


「う、うん」


 狙っているのは昇格しそうなダンジョン。

 学園にはB級の探索で申請をした。これに違反をすればペナルティーだ。

 だが、探索途中でA級に成長したらどうなる?

 流石にこれは不可抗力。俺はジーストリアの認定にしたがってダンジョンを選んだんだからな。


 配信はできるだけ強いモンスターを倒すのが、チャンネル登録者を伸ばす秘訣だ。

 

 俺たちは都心部から離れたダンジョンに来ていた。


「よっし。このダンジョンで配信だ」


 このB級ダンジョンは発生してから1ヶ月以上の月日が経っている。

 A級に成長するならいつでもって感じだよ。


真王子まおこと配信か。ボクは今日という日を生涯忘れないだろう」


 ふふふ。


「んじゃ、カメラ回すぞ」


「あ……緊張してきたな。ボクはなにを話せばいいのだろうか?」


「トークは私が率先してやるからさ。適当に合わせてくれればいいよ」


「そ、そんなのできるのかな? あわわわわ」


「ははは。まぁ、やってみようよ」


「はうぅうう……」


 俺はコウモリを起動させた。


「はい。どうも。はじまりました。 真王子まおこチャンネルとコルちゃんねるです。今日は初めてなので自己紹介をしますね。私は 真王子まおこ。日本人です。コラボしてる配信者はコルって言います。生粋のロシア人。さぁコル、挨拶して」


「え? あ、あう……」


コクリ……。


 どうやら頷くので精一杯らしい。


「彼女、緊張してるみたいなんです。なので、コメントで応援してあげてくださいね」


 1回目の投稿のタイトルは重要だ。

 このタイトルでアーカイブが残る。

 客を惹きつける魅力的なタイトルが必要なんだよな。


『15歳の女の子が2人でB級ダンジョンの攻略に挑みます! ガチです!』


 てな感じ。

 まぁ、 偽装カモフラスキルで英語に変換されてるからさ。どこまで雰囲気が伝わっているかは疑問だけどな。


「今日は15歳の私たちがB級ダンジョン攻略に挑みます。まだ未成年なので、2人で協力して攻略しますね。ちなみに、私はB級。コルはA級の探索者です。アーカイブは両チャンネルに残ります。しばらくは、切り抜きの権利はフリーにしておきますので、初回特典みたいな感じなので自由に切り抜いて使ってください。時間が経てば切り抜きは公認以外認めないようになると思います。その点はご了承ください。良かったら、この挨拶と注意事項を切り抜いてもらえると助かります。頑張りますので応援よろしくお願いしますね」


 よし。

 粗方は伝えれたかな。前説は終了でいいだろう。


「どうだコル。簡単だったろ?」


 あれ?


「ふほぉおおおおおお……」


 なんで目をキラキラと輝かしてんだ?


「ま、 真王子まおこは配信をやったことがあるの?」


「え?」


 ……何百回とやったことがあるんだがな。

 流石にそんなこと言えるわけがない。


「は、初めてに決まってるだろ」


「ペ、ペラペラ喋ってたよ?」


「そ、そうかな?」


「あんなに流暢に喋るなんてプロみたいだった」


「ははは……」


 まぁ、一応はチャンネル登録者1億人ですから。


「台本とか作ったの?」


 えーーと。

 適当に喋っただけなんだがな。熟練臭を感じさせるのは不味い。


「昨晩少しね。トークの練習はしておいたんだ」


「ふほぉおおお。切り抜きの権利関連の注意事項まで盛り込むなんて……。努力家だなぁあ……」


「あはは……。そんなことはないけど」


「ボクなんか全然喋れなかった」


「そんなことないぞ。ちゃんとカメラに向かってお辞儀できてたじゃないか。それで上出来さ」


「うう……。 真王子まおこはなんでも褒めてくれるんだな」


「今だってさ。ちゃんとトークできてるじゃないか」


「え? どういうこと?」


「ホラ」


 と、コウモリのRECランプの点灯を指差す。


「撮ってるのぉおお!?」


「当然だろ。生配信なんだからさ」


「はわわわわわわ。ボクみたいな陰キャがペラペラと喋ってしまった。みなさん。ごめんなさい」


 やれやれ。


「そう卑下すんなって。楽しく喋ることが配信なんだからさ」


「そ、そんなことでいいの? 探索してモンスターを倒すのがダンジョン配信なんでしょ?」


 まぁ、俺も初めはそんなことを思ってたけどさ。

  衣怜いれと配信をしてる時にわかったんだよな。

 視聴者は配信者のトークも楽しみにしてるんだって。


「私たちが楽しく話すもの配信の面白みさ」


「ふほぉ……。そ、そんなに楽しくていいのだろうか?」


「楽しいからいいんじゃないか」


「……は、配信って楽しいんだね」


「ああ」


「ボク、配信が好きになってきたよ。やっぱり 真王子まおこと一緒だと楽しいな」


 ふふふ。

 配信は楽しくなくちゃな。


「あ、見て 真王子まおこ。まだ始まって間もないのにさ。130人も視聴してくれてるよ」


「おう。いい感じのスタートだな」


「あ、もうすでに何人か登録してくれてる。嬉しいな」


 やっぱり、女の子ってのは強い。

 男が初めて配信やっても1人が見てくれてたらいい方だからな。


 コメントもいい感じについてるぞ。


『ちょ、めっちゃ可愛い!!』

『天使やんw』

『最高かよ!!』

『可愛すぎて速攻で登録した』

『黒髪最高!』

『銀髪至高!』

『♪───O(≧∀≦)O────♪』

『可愛すぎオワタw』

『2人ともめちゃくちゃ可愛い!!』

『私、女だけど嫉妬するレベル』

『アイドルですか?』

『モデルかな?』

『伝説の予感』

『美少女キターー!』


 よぉし、滑り出しは順調だ。

 もう同接は200人を突破した。


「いくぞコル」


「うん」


 さぁ、登録者を伸ばすぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る