第163話 女生徒の日常

 俺はジーストリア 探索学園シークアカデミーに入学していた。

 それからなんだかんだで数日は経っただろうか。

 学園の暮らしにも少しずつ慣れていた。


 技能訓練は楽しい。

 S級探索者の担任、アービド先生が教えてくれる。

 剣を使える生徒だけを集めて斬撃を教えてもらったりするんだ。

 俺は、普段は剣を使わないからな。こういうのは新鮮で面白い。それに、地上ってのも変わっている。魔法が使えないから基礎技術からみっちり鍛えることができるんだ。


「いいか。B級モンスターのプラントゴブリンはここが急所だ」


 用意されたのはゴブリンの人形。

 中には砂が入っているようだ。

 野外授業なんて本当に久しぶりだよ。

 それにS級探索者に教えてもらえるのは豪華だよな。

 俺が高校生ん時はB級の先生だったからな。


「この木の棒で急所を斬りつける。でぁッ!!」


ズバァンッ!!


「っと、こんな感じだな」


 その打撃音に生徒たちが沸く。

 

「おおお! すごい威力!!」

「流石は先生!」

「人形の曲がり方えぐい!!」

「人形がグニャッて曲がってた!」

「ふほ! すっげぇ音!」

「やっぱS級って感じぃ!」

「先生はすごいなぁ」


 え……?

 さっきの斬撃は問題があるよな?

 これじゃあ、授業にならないよ。

 ……あ、待てよ。間違い探しって可能性もあるぞ。先生はS級探索者だもんな。


「先生。わかりました」


「ん?  真王子まおこは何がわかったんだ?」


「プラントゴブリンは骨格が特殊なので真ん中に肋骨があるんですよね? それじゃあ切断できない。つまり、そういうことでしょ?」


「え? なんだと? せ、切断!?」


 俺は棒を構えた。


「正解は、真ん中より下を狙う、ですよね? よいしょっと」



ズバァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 

 人形は真っ二つに切断された。


「こんな感じでしょうか?」


 周囲に砂が舞う。


 場は静まり返っていた。


 やれやれ。

 やっぱり生徒の俺では先生ほどの歓声は湧き上がらないな。

 そもそも、俺は魔法使いタイプなんだ。剣技なんて初心者だっての。


「う、嘘ぉ……」

「ま、真っ二つ……」

「ひぇええ……」

「はぁ…………」

「マ、マジかよ……」

「ええええ…………」


 あれ、先生もなんか反応が変だな?

 斬り方は間違ってないと思うけど?


「あ……。ああ……は、は……」


「どうかしましたか?」


「は、は、速い……」


 コルは俺の斬撃に頷く。


「そうか。なるほど。こんな感じか。……えい」



ズバァァアアアンッ!!



 あらら、人形が破けただけだな。

 切断まではもう少しってところか。


「でぇええええ!?」

「コ、コルもかよ!」

「はぃいい!?」

「コルちゃんマジか……」


 コルは眉を寄せる。


「地上じゃ魔法を付与できない。難しい」


「コツさえ掴めば簡単さ。さっきのは踏み込みが甘いんだ。グリップをしっかり持ってさ。もう少し深く踏み込めば簡単だよ」


「そうなんだ。それじゃあ、新しい人形で試してみようかな」


 先生は汗を飛散させた。


「ストォオオップ!! やめてくれ!! 人形は何回も使う練習道具なんだよ!!」


 と、いうわけで、俺とコルは素振りだけになってしまった。


「素振りはつまんない」


「ははは。この機会に斬撃の基礎からやっていこうよ」


「……やっぱり楽しいかもしれない。 真王子まおこと2人だし」


 ふふふ。体を動かせるっていいよな。

 それに、防御魔法以外を教えてもらうのは新鮮でやり甲斐があるよ。 



 ☆



 コルは、なにかと俺にベッタリだった。

 

 ある昼休み。


「あれぇ。 真王子まおこーー。どこ行くの?」


「トイレだよ」


「あ、えーーと。えーーと」


「おまえも行きたいのか?」


コクン。


 彼女は頷く。

 

 ちょっとは自分の意思に素直になってきたかもな。

 以前は質問文を質問文で返す奴だったから。


「よし。連れションだな」


「なんだそれ?」


「一緒にトイレに行くことだよ」


「……連れはわかるけど、ションってなんだろう?」


 ションベンって言うのはなんだか気が引ける。

 

「日本じゃそう言うもんなんだよ」


「……そっか。へへへ。 真王子まおこと連れションだ」


 俺たちはトイレに着いた。


「じゃあな」


「え?  真王子まおこ!?」


「出たとこで待ってるからさ」


「ちょ、ま、 真王子まおこーー」


 俺はトイレに入ってハッとする。


 小便器で男が立ってやっているのだ。


 ああ……やってしまった。


  真王子まおこの姿だと、ついつい間違えて男子トイレに入っちゃうんだよな。


 女子トイレに入ると、コルは不思議そうな顔をする。


「どうして男子トイレに入ったの?」


「お、男の表示が女に見えたんだ。日本じゃ逆だからさ。ははは……」


 などと嘘をつく。


 そして、困るのが体育の授業。


 俺たちは女子更衣室で体操服に着替えるのだが……。


真王子まおこはいつも隠れてコソコソ着替えているな。どうして?」


 と、またもコルが興味津々。


「は、ははは……」


 仕方ないだろう。

 男の俺が周囲を見るわけにはいかないんだからさ。


 そもそも、こんなことをするために女の姿になって潜入捜査をしているんじゃないんだからな。


 これだけは絶対にダメだ。

 この一線だけは絶対に越えられない。

 

「ねぇ、 真王子まおこったら」


「な、なんだよ?」


 う!

 下着姿で声をかけてくんなよな。

 うっかりチラッと見てしまったじゃないか。


 上下ともに淡いピンクの下着。リボンには真っ白いパールが装飾された可愛いらしいデザインだった。コルの真っ白い肌にフィットしている。はっきりいってすごく似合っているよ。


 なんかすまん。


真王子まおこは、いつもコソコソ隠れて着替えている」


「い、いいだろう別に……」


「じぃいいいいい」


「変態か!」


 

──

次回。

更衣室にて、デザイアのざまぁ回です。

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