第162話 ランキング

 俺とコルは校内に入った。

 すると、下駄箱の入り口に液晶の掲示板があってそこにランキングが載っていた。

 生徒たちは興味津々。相当な人数が群がっている。どうやら俺たちのクラスだけじゃないようだな。


 掲示板のタイトルには『ファーストグレイドランキング』と記されていた。 

 つまり1年生全員が対象のランキングってことか。

 


1位 デザイア・フィネッテ


2位 コル・アレクバナ・パブロバァ


3位 エイテルケイト・フローランス


4位 壁野  真王子まおこ



 おお、俺が4位か。

 

 これは、この前の探索授業の点数が反映されてるんだな。

 

 コルは2位か。彼女はB級モンスターのアクセルバッドとS級モンスターのスピードスターワイバーンを2匹倒しているからな。

 高順位なのは納得だよ。なんなら1位でもいいと思うけど……。

 1位のデザイアってS級モンスターを倒してないよな?

 この順位には恣意的ななにかを感じざるを得ないよ。

 大方、デザイアが父親の権力を使って教師に加点させたんだろう。


 にも関わらず、コルは嬉しそうに笑っていた。


「1位じゃない。ふふふ……」


「なんか嬉しそうだな? 本当は1位だったのにさ」


「1位なんか取るもんじゃないよ」


「そうなのか?」


「ボクはすぐに1位になっちゃうんだ。だから、そうならないように努力している」


「はぁ?」


「筆記のテストはわざと2、3問間違える。実技は討伐を他の人に譲ったりする」


「なんでそんなことをするんだ?」


「不本意な恨みを買う」


「ああ、やっかみか……」


 すごいな……。

 天才ゆえの苦悩ってやつだ。

 彼女の場合、これが嫌味に聞こえないのだから本当にすごいや。


「でも、 真王子まおこは気を使わなくて済む。スピードスターワイバーンはボクに余裕がなかった。あんなこと初めてだ」


 なるほど。

 だから、俺に固執するのか。

 やっと、こいつがストーカー気質な理由がわかったよ。


「ブヒョヒョヒョ! わたくしが1位ですわ!!  真王子まおこ! わたくしのグループに入らなかったことを後悔してるんじゃありませんこと?」


「いや。全然してない」


 1ミリもな。


「ふふふ。強がりも痛々しいですわね。まぁ、土下座して許しを乞うなら、考えなくもなくってよ」


 誰がそんなことするかよ。


「ブヒョヒョ。ところで、コル・アレクバナ・パブロバァ。あなたの実力は中々ですわね」


「………… 真王子まおこ。行こう」


「お待ちなさい!」


「ボクになにかよう?」


「ふふふ。あなた……。見た目も中々のものね。ま、わたくしの美貌には敵いませんけどね。でも、その美貌ならわたくしと一緒に歩ける権利がありますわよ?」


「そんな権利いらない」


「どうやら知らないようですから教えて差し上げますわ。わたくしはパリコレのモデル依頼が来ているんですのよ。そのほかにもモデル雑誌、アイドル事務所からの勧誘は山のように来ますの。アメリカのハリウッドからも映画の出演依頼が来ているほどですのよ。ほほほ。そんな人間と並んで歩ける権利ならば誰だって欲しいに決まっていますわ」


「ふーーん」


「いいですわ。コル・アレクバナ・パブロバァ。あなたをデザイアグループに入れて差し上げますわ」


「なんのグループ?」


わたくしのお友達グループですわ。感謝しなさいね。つまりは、あなたにその資格があると言っているのですわ。あなたなら、わたくしがお友達になってもよろしくってよ」


 場は沸いた。


「うぉおおお! コルちゃん羨ましいぃいい!!」

「やっぱり美少女は得よねぇええ!!」

「デザイアさんに誘われるなんてすごいわぁああ!!」

「完全にクラスカースト上位層だ」

「美少女は美少女に惹かれ合うんだな。すげぇえ」


 やれやれ。

 この場合は俺がとやかくいうことじゃないしな。

 コルに判断を任せよう。


「フフフ。 真王子まおこみたいな見窄らしい女と付き合っていては、あなたの品格がお下がりになりますわよ。わたくしのグループに入りなさいな。あなたの価値を底上げして差し上げますわ。ブヒョヒョ」


 見窄らしくて悪かったな。


真王子まおこを悪く言うな」


「ブヒョヒョ。事実を言ったまでですわ。 真王子まおこのランキングは4位。明らかに格下ですわ。さぁ、そんな女の所より、格上のわたくしの所に来なさいな」


 やれやれ。

 酷い言われようだな。

 まぁ、俺の目的は潜入捜査。ランキングで競うつもりはないからな。なんとでも言ってくれていいけどさ。


 デザイアは勝利を確信したようにニヤニヤと笑う。

 みんながコルの言葉に注目する中、彼女は決意めいた口調で言った。





「断る」





 ああ、迷いがないな。

 そりゃそうか。

 デザイアと一緒にいても楽しくなさそうだもんな。


「な、な、なんですってぇええええええええ!?」


 デザイアの怒号とともに周囲からも驚愕の声が溢れる。


「マジかぁああああ!?」

「断ったぁあああああ!?」

「デザイアさんの勧誘を断るの!?」

「信じられないわ!」

「オーマイガッ!!」

 

 懸命な判断だよ。


「わ、わたくしの誘いを断るというの!?」


「うん」


 デザイアの奴、顔が真っ赤だな。

 プププ。自信満々に誘っておいて壮絶に振られてるから当然か。

 これはリアルに恥ずかしいぞ。


「ま、 真王子まおこなんかと付き合ってると碌なことがありませんわよ!!」

 

「行こう。 真王子まおこ


「おう」


「絶対に後悔しますわよ!! 絶対の絶対に後悔することになりますわよぉおおおお!!」


 コルは振り向いて答えた。



「絶対の絶対の絶対に、後悔なんてしない」



 ああ、こりゃあ完全に振られたな。




「ムキィイイイイイイイイイイイイイッ!!」




 顔真っ赤。

 プププ。

 なんか気分がいいや。


「コル。コーヒーでも飲むか?」


「え? う、うん」


「おごってやるよ」


「なんで?」


「いいから」


「なんだか知らないけど嬉しいな。へへへ。 真王子まおこと一緒にコーヒーだ。ワクワク」


 俺たちはコンビニでコーヒーを買って飲んだ。 


「ここのコーヒー旨いな」


「うん。旨い。へへへ」


 うん。

 気持ちのいい朝だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る