第165話 2年の校舎に行く方法

 俺は2年生の風間 潤志郎を探している。


 風間の情報を知るためにもなんとか2年生の校舎に行きたいんだがな。

 建物が独立していて、近寄るのが困難なんだ。しかも、入ることはできるが、星の勲章が1つしかない生徒が入る場合は受付で理由書を提出しなければならない。無視して潜入は可能だが、見つかれば最悪だ。ましてや、俺は日本人。どうあがいても目立ってしまう。


 ことが大きくなれば、潜入捜査がバレる可能性がある。風間の失踪がジーストリア国の上層部とどれだけ関係しているかわからないからな。迂闊な行動は避けるのが無難だろう。

 できれば自然に入るのが理想。2年生の校舎に1年生が入っても怪しまれない必然性があればいいんだ。

 さて、どうしたものか……。


真王子まおこ。ここ旨そうだ」


 と、コルはスマホの画面を見せた。

 それはジーストリアが作った島内を案内する極秘のアプリ。島民だけがログインして使える島内を紹介するアプリだった。その中には飲食店を含め、様々な島内のショップを紹介するコーナーがある。コルは、それを使って食い物の旨い店を探しては俺に見せるのが日課になっていた。


「この店。まだ行ってない」


 うーーん。

 最適な潜入方法が思いつかんなぁ。


「さつま芋のパフェだって。旨そう。今度、一緒に行こうよ」


「…………」


真王子まおこ。時々難しい顔してる。悩みごと?」


「まぁ、学生ならば悩みごとくらいあるだろう」


「話してみれば? ボクでいいなら話しを聞くよ?」


 コルは目を輝かせながら俺を見つめていた。


「さぁ。言ってみて」


 やれやれ。

 こいつを巻き込むわけにもいかんしな。


 額にチョップ。


「あで……。これが悩みごとか?」


「今日の晩飯はなにを食べようかなって。考えてたんだ」


「うわぁ、いいね! 一緒に食べる? どこ行こうか? ワクワク」


 そこへやって来たのがデザイアだった。その後ろには取り巻きを大勢連れている。


「あらぁ、陰キャなお2人さん。またくだらない話しをしてましたのぉ? 大方、庶民が行くような小汚い料理屋に行く計画でも立てていたのでしょう。ブヒョヒョ」


 やれやれだ。

 こいつは人をムカつかせる才能がずば抜けてるな。


わたくしが、さっきどこに行っていたか教えて差し上げましょうか?」


「いや。特に興味ないけど」


「ほほほ。強がり言ってますわね! 仕方ありません。教えて差し上げますわ」


 聞いてないのだがなぁ。

 また、くだらない自慢話が始まるのか。


わたくし。2年生の校舎に行ってましたのよぉ。フフフ」


 やれやれ。本当にくだらない自慢……。


「なんだって!?」


「あら? 食いついたようですわね? フフフ。憧れの先輩たちが通う校舎ですからね。それは羨ましいですわよね。プププ。おいそれと気軽に1年生が入れる場所ではありませんわぁ。それをわたくしは入ってしまうのですからねぇ。凄すぎますわよねぇ! ブヒョヒョヒョォオオオオ!!」


「どうやって入ったんだ?」


「フフフ。あなたには絶対に入れませんからね。教えて差し上げますわ。ククク。わたくしはチャンネル登録者120万人の配信者ですのよ。フフン。2年生にもわたくしと同じくらいの配信者がいましてね。それでコラボの企画が上がりましたの。ブヒョヒョヒョ。わたくしは配信の打ち合わせで2年生の校舎に入れるのですわぁああああッ!」


 なるほど。

 その手があったか!


 このジーストリアは閉鎖的だ。

 情報の開示は厳しく規制されている。

 島内の映像をネットにアップするのは厳罰対象だ。

 しかし、ダンジョンの配信だけは許可されている。もちろん、ジーストリアという名前は伏せてアップするのが条件だけどね。


 1年生の中でも、既に数名の逮捕者が出ている。

 自分のSNSに島の風景を載せてしまったのが原因らしい。

 

 そんな島国なのだが、ダンジョン配信なら可能なんだよな。ダンジョン内の風景ならばどこの国かはわからない。だから、教育の一環として学園は配信を許可しているんだ。しかし、情報規制の関係で、ダンジョン配信をする場合は学校に届出をしないといけない。

 2年生とコラボをするなら学園内で接触ができる。


 いいぞ。自然な流れだ。

 これならなんの問題もなく2年生の校舎に侵入できる。


「ブヒョヒョ!  真王子まおこはまだチャンネル開設もしていないのでしょう? つまりは登録者ゼロ人。そんな人間と誰がコラボするんでしょうね! ブヒョヒョヒョォオオオオ!」


 確かに。

 今のままじゃあコラボは無理だ。

 断られるのがオチだろう。

 でも、それなりの数字を出せば……。


「そもそも陰キャの配信が伸びるわけありませんわぁ! 配信というのは華やかさがありませんとね。わたくしのようにねぇえええ!!」


 うーーん。

 一理あるか……。

 顔出しNGより顔出しアリの方が絶対に伸びがいい。

 この学園では俺は既に有名人だからな。数少ない日本人ってだけでそれなりに注目されてしまった。もう、それならいっそ、顔出し配信で目立ってしまうのもアリか。その方が2年生と接触しやすいだろう。


「2年生は素敵な先輩でしたわよぉ。ブヒョヒョヒョォオオオオーー」


 デザイアは勝ち誇ったように去って行った。


「うう。ボク、あいつ嫌いだ。腹立たしいことしかしない。害悪」


「フフフ。そうでもないって」


 今回は大手柄だぞ。

 潜入捜査の大ヒントをくれたんだからな。

 お礼を言いたいくらいさ。


真王子まおこ。スッキリした顔してる。なんで?」


「悩みが解決した」


「え? なんで? ますますわからない??」


「今日、悪いけど外食はパスだ」


「ええええ!? また、謎が増えた!?」


「部屋に帰ってやることがある」


「あううう……」


 やれやれ。

 そんな残念そうな顔をすんなよ。


「良かったら。来るか? 私の部屋」


「え!? 行っていいの!?」


「やることがあるからさ。あんまり構ってやれないだろうけどさ。それでもいいなら……」


「行く!」


 食い気味だな。


「ああ……。 真王子まおこの部屋に行ける。初めてだ。なんという幸運。ボクは今日という日を生涯忘れないだろう」


 大袈裟だなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る