第156話 初めての授業
俺の目的は2年生の風間 潤志郎を探し出すこと。
ジーストリア
つまり、3つの校舎があるということだ。
1年生の俺が2年生の校舎内をうろつくわけにもいかず。
しばらくは、学園の雰囲気に溶け込むことが課題となった。
まぁ、学生に戻った気になるのも面白いだろう。
高校生なんて、4年前だもんな。
学園の授業は変わっていた。
夏休みまでの1学期は仮のクラス分けである。
実技を多くして実力を把握。担任の教師が加点方式で順位を決める。2学期からはその順位でクラス分けがされるのだ。
まぁ、俺は2学期までいるつもりはないからな。
早めに仕事を終わらせてこの島を出るつもりさ。
今日は初めての実技教育。
担任の教師が端末を片手に生徒たちの実力をチェックする。
担任は男の先生だった。彼の名はアービド。アラブ系の褐色肌の男だ。一応、S級の探索者らしい。
「おまえたちは、まだ1年生だ。初日から、レベルの高いダンジョンで命を落とされても困るからな。今日はC級ダンジョンで力量を見させてもらう」
C級といっても、もう一般的な中級レベルのダンジョンだ。
日本じゃ年間5万人の死亡者が出ている危険な場所。
それを15歳の学生にさせるんだからな。相当な実力だよ。
「ブヒョヒョヒョ! こんなしょぼいダンジョンで
なにかの縁だろうか?
俺は
15人のクラスメイトが教師とともにダンジョンに潜る。
彼女の実力はなかなかのものだった。
使っているのは細身の剣。いわゆるレイピアと呼ばれる武器だな。
そんな剣を使ってばっさばっさとモンスターを切り裂いていく。
A級ライセンス保持者は伊達じゃない。その剣捌きたるや、なかなかのものだった。
突然。
俺の目の前にロックスライムが現れる。
こいつは岩肌のスライム。
C級の雑魚モンスターだな。
いつもなら壁パンチで一撃なんだが……。
俺は剣を抜いた。
一応、
ここいらで普通の探索者らしく武器を使って倒してやろうと思う。
ふふふ。
こういうのも新鮮で面白いかも。
などと思っていると、
「危ない
植物の蔓が地面から現れたかと思うと、瞬時にロックスライムを捕まえる。
それは一瞬にしてスライムの体を粉砕した。
どうやら木属性の魔法らしい。
「ふぅ。怪我はないかい?」
と、歯をキラン、と光らせたのはチャラいイケメンのエイテルだ。
「安心してくれ。
こいつも、なぜか同じクラスだったりする。
余計なことを……。
体を動かしたい気分だったのにさ。
それは10階層まで潜った時のことだった。
突然、B級モンスターのアクセルバッドが出現した。
大きな蝙蝠型のモンスターで素早い動きが得意な怪物だ。
10匹以上はいるだろうか。
教師は眉を寄せる。
「おかしい? B級クラスのモンスターはダンジョンボスなのに!? 使役タイプで出るだと!?」
生徒がざわめく中、一撃で葬ったのはデザイアである。
「ブヒョヒョ! こんな雑魚モンスター、
ふむ。
やはり、なかなかの腕だ。
剣技はさることながら、アクセルバッドの素早い飛行を瞬時に捉えている。
それに、ボリュームのある赤毛を靡かせて戦う姿は綺麗だな。
彼女の母親はモデルで、ネットで画像を見たんだが、相当に美人だった。
その血なんだろうな。とにかく絵になる。
「ブヒョヒョヒョーー!!」
笑い方以外はな。
アクセルバッドは群れで襲ってきた。
俺が構えるより先に、デザイアが倒してしまう。
彼女は「どう?
アピられてもなぁ……。
「あらぁあ
やれやれ。
こんな敵、壁パンチなら一撃なんだがな。
みんなの前でそんな攻撃を使ったら俺の正体がバレてしまうよ。
できる限り目立たない方がいいよな。
「ここは危険だ! 今すぐ撤退するぞ!!」
と、アービド先生が呼びかける。
「撤退は敵を殲滅してからですわ! あと残り5匹! はぁ……はぁ……。わ、
かなり疲れてんな。
それもそうか。ダンジョンに入ってから、彼女は動きっぱなしだったしな。
「デザイア・フィネッテ! 敵に構うんじゃない! 逃げるんだ!!」
逃げるにしても背後を攻撃されたらアウトだからな。
ここはデザイアの考えに同意だな。
他の生徒は防御で手一杯か。
普通の探索者なら死んでるレベルの攻撃だからな。
まぁ、各国の天才児ってだけはあるか。
しかたない。
ここは俺が剣を使って……。
などと思っていると、
「えい」
ザクン!!
それは大きな鎌だった。
たった一撃で2匹のアクセルバッドを両断する。
ほぉ。
デザイアでも1回の斬撃で1匹が精一杯だったのにさ。
1振りで2匹もやっちゃうか。
それは銀髪の少女だった。
長い銀色の髪が宙に舞ってキラキラと輝く。
瞳はアメジストのような紫色。
肌は雪のように白い。
小柄で童顔。
アイドルのような見た目をした少女だった。まぁ、いわゆる美少女だな。
アービド先生が撤退を呼びかける中、彼女は宙に舞った。
「えい。やーー」
無気力な声が響く。
可愛い顔だが眠たそうな低血圧な表情である。
華奢な体なのに相当に強烈な攻撃だ。
移動速度強化魔法と攻撃力強化魔法のダブル付与を一瞬でやってるんだな。
彼女の大鎌は瞬く間にアクセルバッドを倒してしまった。
「うむ。よくやった。君に加点しておこう。えーーと、名前はなんだったかな?」
彼女は眠たそうに答える。
「コル・アレクバナ・パブロバァ」
どうやらロシア人みたいだ。
間違いなく、このクラスじゃ一番の実力者だな。
「フン! ちょっと動きすぎて疲れてしまっただけですわ。いつもなら
やれやれ。
強がり言ってるや。
「よぉし。コルの活躍で敵はいなくなった。予定外のモンスターは退却事案なんだ。授業は中止。引き返すぞ」
「お断りですわ」
「なんだと? 命令違反は減点対象だぞ。デザイア・フィネッテ」
「ダンジョンをクリアすれば加点対象ですわよね? ダンジョンボスは目の前ですわ」
「勝手な行動は許さない」
「どう許しませんの?
「うぐ……」
えーーーー。
頼むわ先生。そこは強気に立ち向かってくれよぉ。
「ブヒョヒョ。どうせ、ダンジョンルームはすぐそこですわよ。さっさとボスを倒してしまった方がダンジョンが消滅して早く出れるではありませんか」
「し、しかしだな。10階層でB級モンスターが出ている時点でイレギュラーなんだ」
「怖がりですわね。そんなことじゃあ出世しませんことよ。ブヒョヒョ」
デザイアの強引な推しでダンジョンを進むことになる。
すると、突如として、床が崩壊した。
「な、なんですの!?」
やれやれ。
ダンジョントラップか。
俺たちはそのまま下に落下する。
それはまるでスカイダイビングのように。
アービド先生は絶望した。
「し、下が見えん……。お、終わった……」
「ふ、ふざけるんじゃありませんわ!? もう既に100メートル以上は落ちてますわよ!? 誰か飛行魔法を使えませんの!?」
誰も答えない……。
飛行魔法はSS級の超レア魔法だからな。
担任の教師はS級探索者。生徒たちはA級以下だ。飛行魔法なんて使えるわけがない。
「こ、このまま落ちたら死んでしまいますわ!! あ、あなた担任なんですからなんとかなさい!!」
「こんなに長い落下は初めてだ……。お、終わりだよ」
「なんですってぇえええええ!? 職務怠慢ですわ!! 教育委員会に言ってクビにしてもらいますわ!!」
「私のせいにするんじゃない!! おまえが言ったから先に進んだんだ!!」
「わ、
「そんなことどうでもいい!! どちらにせよもうおしまいなんだよ!!」
アービド先生の言うとおりだな。
今は揉めても仕方がない。
教師の言葉に全員が絶望していた。
確かに、このまま地面に落下すれば全員即死だ。
さて、どうするか……。
そうだ。
「おい、エイテル。おまえの木属性魔法を使って壁に蔓を張れないか?」
「おお! 流石は
彼の手は植物の手が出る。
それはダンジョンの壁に伸びた。
しかし、
バジン!!
と、火花を散らして弾かれる。
「ダメだ! 周囲の壁に雷魔法が付与されてる。これじゃあ蔓を張れないよ!」
やれやれ。
木属性魔法じゃダメか……。
「
うん。無視でいいだろう。
「
「信じられませんわ!!
コルも無気力な感じで死を悟る。
「うん……。終わった」
やれやれ。
俺だって、こんなところで死ぬのは嫌だからな。
飛行魔法もない。木属性魔法もダメ。
あとは俺の防御魔法だけか。
あの技ならば、みんなを助けられるだろう。
新技……。やってみますか。
────
次回。
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